刑法(威力業務妨害罪)

威力業務妨害罪(10) ~「罪数」「①偽計業務妨害罪、②暴行罪・傷害罪・脅迫罪・強要罪、③器物損壊罪、④暴力行為等処罰に関する法律違反の罪との関係」を説明~

 前回の記事の続きです。

罪数

 威力業務妨害罪(刑法234条)において、1個の行為で多数人の業務を妨害した場合には、被害を受けた業務の数に応じた犯罪が成立し、各犯罪は観念的競合となります

 参考となる以下の判例があります。

大審院判決(昭和9年5月12日)

 A販売業者が不良品を販売することを適示する内容のA販売業者を誹謗する文書を、A販売業者の取引先の業者C、Dに送付し、偽計を用いてC、Dの業務を妨害した偽計業務妨害(刑法233条)の事案で、1個の行為で2人の業務を妨害したとして刑法54条1項前段観念的競合)を適用しました。

 なお、業務妨害行為を繰り返して行い、1人の業務を妨害する場合は、態様により、単純一罪となることもあれば、包括一罪あるいは併合罪となることもあり得えます。

威力業務妨害罪と他罪との関係

 威力業務妨害罪と

1⃣ 偽計業務妨害罪(刑法233条

2⃣ 暴行罪刑法208条)、傷害罪刑法204条)、脅迫罪刑法222条)・強要罪刑法223条

3⃣ 器物損壊罪刑法261条

4⃣ 暴力行為等処罰に関する法律違反の罪

との関係を説明します。

1⃣ 偽計業務妨害罪との関係

 偽計と威力の両方を用いて一つの業務を妨害する行為は、威力業務妨害罪と偽計業務妨害罪とに当たる単純一罪となり、1個の業務妨害罪が成立するとされます。

 この点を判示したのが以下の裁判例です。

福岡高裁判決(昭和33年12月15日)

 裁判所は、

  • 原判決が認定したキャバレー、エスカイア乗っ取りのため、被告人らの採った言動が一部は偽計に一部は威力(客観的にみて業務遂行の意思を制圧するに足る勢力)に該当すること明白である
  • そして本件の場合のように日時を異にし、かつ数個の偽計及び威力を用いて、他人の営業を妨害した場合には、各行為合せて刑法第233条第234条の両条にあたる単純一罪たる一個の犯罪を構成するものと解する
  • 4月17日午前0時頃、被告人らが阪東から引渡書の作成交付を受けた点、同日午前中、同人からキャバレー営業の事実上の引継を受けた点のみが、犯罪の成否を決する上において問題とされ得べく、(仮に営業妨害罪が成立するとしても、)その後、17、8日両夜の被告人らの行動は営業引継による結果であって不問に付すべきであるとの解釈は当らない
  • もちろん営業妨害罪の場合においても、営業中の店舗に投石する場合の如く、投石なる行為によって、犯罪は既遂の状態となり、その後は営業が妨害を受けているという違法状態が結果として続くにすぎない場合(すなわち即時犯として成立する営業妨害罪)もあろうけれども、本件の如き形態の場合には前説明のように各行為合して一つの犯罪行為を組成するものと解すべく、その一部を犯罪行為自体と解し、その後の行為を窃盗犯人が他人の財物を窃取し(これにより窃盗罪は既遂となる)、その後その財物の所持を継続する場合と同様、既遂後違法状態継続中における放任行為と解すべきではない

と判示しました。

2⃣ 暴行罪・傷害罪・脅迫罪強要罪との関係

 「威力」の内容が暴行罪に当たるときは、これが人の生命、身体の安全を保護法益とするものであるところから、暴行罪は威力業務妨害罪とは別個に成立し、両罪は観念的競合になります。

 同様に、「威力」の内容が傷害罪に当たるときは、傷害罪と威力業務妨害罪とは別個に成立し、両罪は観念的競合になります。

 同様に、脅迫が威力として用いられたときは、脅迫罪と威力業務妨害罪とは別個に成立し、両罪は観念的競合になります。

 同様に、強要が威力として用いられたときは、強要罪と威力業務妨害罪とは別個に成立し、両罪は観念的競合になります。

 参考となる以下の裁判例があります。

東京地裁判決(昭和50年2月7日)

 総会屋が強要行為により株主総会の議事の妨害した強要罪と威力業務妨害罪の事例です。

 裁判所は、

  • いわゆる総会屋である被告人ら5名が、株主権の行使に藉ロして株主総会の議事を妨害し、自己らの総会屋としての地位や名声を高め、ひいては賛助金等の収入の増加を図る目的をもって株主総会議場に乗り込み、こもごも一方的に会社役員の悪口雑言を繰り返して約1時間半にわたって議事の進行を妨害し、議案の審議に入らせないまま同総会の正常な進行を不能ならしめたときは、威力業務妨害罪が成立する
  • 右被告人らが、右株主総会において、議事妨害の手段として、Aを監査役に選任すること、株主総会を年1回とすることの議案に反対し、総会を年1回とする場合には、それに代って株主懇談会を開催することを議事録に記載するよう執拗に要求し、A及び議長Bが右の要求に応じないときは、Aの名誉を著しく害する言動を続け、また引続き同総会を紛糾混乱させ、流会に陥れかねない気勢を示し、よって甲をして右要求に応じなければ引続き自己の名誉に対しどのような害を加えられるかもしれないと畏怖させて監査役選任候補を辞退する旨意思表示をさせ、Bをして、流会となることにより経営者としての名誉にどのような害を加えられるかも知れないと畏怖させて右株主懇談会を開催する旨同総会議事録に記載せしめたときは、A及びBに対する強要罪が成立する
  • 威力業務妨害罪と強要罪は、各1個の行為でそれぞれの罪名に触れる場合であるから、刑法54条1項前段で処断する

と判示し、強要罪と威力業務妨害罪は観念的競合刑法54条1項前段)になるとしました。

3⃣ 器物損壊罪との関係

 「威力」の内容が器物損壊罪を成立させる場合、器物損壊罪と威力業務妨害罪とは別個に成立し、両罪は観念的競合になるとした判例があります(大審院判決 大正10年3月12日)。

4⃣ 暴力行為等処罰に関する法律違反の罪との関係

 上記2⃣、3⃣と同様に、威力業務妨害罪と暴力行為等処罰に関する法律1条違反の罪とは、それぞれ別個に成立し、威力業務妨害罪が暴力行為等処罰に関する法律1条違反を吸収する関係にはなく、両罪がそれぞれ成立し、両罪は観念的競合になると解されます。

 参考となる以下の裁判例があります。

東京高裁判決(昭和46年3月30日)

 判決において、暴力行為等処罰に関する法律違反の罪は、 集団的暴力行為を処罰の対象とし、単に被害者の個人的法益のみならず、同時に社会的法益をも保護法益としているものというべきであり、しかもまた威力業務妨害と暴力行為等処罰に関する法律違反の罪はその構成要件を異にするものであるため、それぞれ別個に成立し、威力業務妨害罪が暴力行為等処罰に関する法律1条違反を吸収する関係にはなく、両罪がそれぞれ成立し、両罪は観念的競合になると理由付けました。

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