刑法(殺人予備罪)

殺人予備罪(5) ~「殺人予備罪など予備罪全般に中止未遂の適用はない」を解説~

殺人予備罪など予備罪全般に中止未遂の適用はない

 殺人予備罪(刑法201条)において、殺人の予備行為を行った者が、自己の意思で、実行に着手することを止めた(やめた)ときは、刑法43条ただし書の中止犯(中止未遂)の規定の適用があるかが疑問点としてあがります。

※ 中止犯(中止未遂)の説明は前の記事参照。

 結論として、判例は、殺人予備罪はもちろん、その他の予備罪に対し、中止未遂の適用はないという考え方を採っています。

 殺人予備罪のほか、強盗予備罪などの予備罪は、その性質上、一種の挙動犯であり、予備行為が行われれば、直ちに犯罪が成立してしまうので、中止未遂の観念を容れる余地はないとされます。

 参考となる判例として、以下のものがあります。

大審院判決(大正5年5月4日)

 この判決は、

  • いったん殺人の予備行為に着手したときは、その後に任意にこれを中止しても刑法201条(殺人予備罪)の適用を免れないこと
  • 殺人の実行行為に着手した後、任意に殺人行為を中止したときは、殺人罪や殺人予備罪の刑を科さず、殺人未遂罪の刑を科すこと

を明示しました。

 裁判官は、

  • いったん殺人の予備行為に着手し、その幾分を為したるときは、たとえその後に至り、任意にこれを中止するも刑法第201条の制裁を免がるること得ざるものとす
  • 殺人の目的をもって、その予備行為を為し、進んで実行に着手したる後、任意にこれを中止したるときは、刑法第199条又は刑法第201条の刑を科すべきものに非ず

と判示しました。

大審院判決(昭和3年10月9日)

 この判決は、殺人の目的で日本刀を携帯して被害者方付近に至った以上、直ちに殺人予備罪は成立し、その後に犯意を放棄したとしても、殺人予備罪の成立に何らの影響も及ぼさないとしました。

 また、殺人予備罪と異なり、刑の免除の規定(刑法201条ただし書き)がないため、殺人予備よりも一層中止犯の準用を認めるべき理由の強い強盗予備罪(刑法237条)についても、最高裁は、中止未遂の適用を否定しています。

 このことからも、判例は、予備罪全般に中止未遂の適用はないという立場を採っているといえます。

最高裁判決(昭和24年5月17日)

 この判例で、裁判官は、

  • 原審の認定したクロールエチール(麻酔薬)の買入、A、B、Cらを仲間に引き入れた事実、日本刀の入手等によって、既に予備としては既遂になっているのである
  • 従って、それ以後の行為を中止したからといって未遂にはならない
  • 原審が中止未遂の法条を適用しなかったのは当然である

と判示し、強盗予備罪が既遂に達している以上、その後の強盗行為を中止したからとって、強盗予備罪が中止未遂となるものではないとしました。

最高裁判決(昭和29年1月20日)

 この判例で、裁判官は、

  • 被告人が強盗をしようとして相被告人(共犯者)らと共に、強盗予備の行為をした事実は十分これを認めることができる
  • 故に強盗の意思がなかったとの(弁護人の)主張は理由がなく、また、予備罪には中止未遂の観念を容れる余地のないものであるから、被告人の所為は中止未遂であるとの主張もまた採ることを得ない

とし、強盗予備罪には、中止未遂の観念を容れる余地がないと明確に判示しました。

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