刑法(公務執行妨害罪)

公務執行妨害罪(14) ~「『職務を執行するに当たり』とは?」「公務員の勤務時間中の行為がすべて職務執行に該当し、保護の対象となるものではない」を解説~

「職務を執行するに当たり」とは?

 公務執行妨害罪(刑法95条第1項)は、

公務員が職務を執行するに当たり、これに対して暴行又は脅迫を加えた者は、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する

という条文です。

 今回は、この「職務を執行するに当たり」について説明します。

意義

 公務執行妨害における暴行・脅迫は、公務員に対し、公務員が職務を執行するに当たり加えられることを要します。

 現に公務員が職務行為を行っていないが、将来の職務行為を予想して暴行・脅迫を加えても、公務執行妨害罪にはならず、暴行罪や脅迫罪が成立するのみです。

 「職務を執行するに当たり」の意味は、「職務執行中」の意味より広く、「職務執行に際して」という意味です。

 「職務執行に際して」とは、

公務員が職務の執行に着手しようとするところから、公務員が職務の執行を終了した際のところまでの範囲

をいいます。

 この点につき、参考となる裁判例として、以下のものがあります。

大阪高裁判決(昭和26年3月23日)

 この判決で、裁判官は、

  • 刑法第95条第1項にいわゆる「職務を執行するに当たり」とは、現に職務の執行中に限らず、職務の執行に際しての意と解すべく、従って、公務員が職務の執行に着手せんとする場合はもちろん、職務の執行を終了した際に暴行を加えた場合にも公務執行妨害罪が成立するのである

と判示しました。

高松高裁判決(昭和48年10月30日)

 この判決で、裁判官は、

  • 公務員が現にその職務の執行中である場合だけでなく、たとえ職務の執行中でなくとも、今まさにその職務の執行に着手しようとしている場合、職務の執行に密着している限り、職務執行の準備中の段階にある場合、ならびに、職務執行の終了した直後の段階にある場合をも包合するものと解するのが相当である

と判示しました。

公務員の勤務時間中の行為がすべて職務執行に該当し保護の対象となるものではない

 公務員の勤務時間中の行為がすべて刑法95条にいう職務執行に該当し保護の対象となるものではありません。

 この点について判示した以下の判例があります。

最高裁判決(昭和45年12月22日)

  • 刑法95条1項の定める公務執行妨害罪の要件について考えるに、右条項の趣旨とするところは、公務員そのものについて、その身分ないし地位を特別に保護しようとするものではなく、公務員によって行なわれる公務の公共性にかんがみ、その適正な執行を保護しようとするものであるから、その保護の対象となるべき職務の執行というのは、漫然と抽象的・包括的に捉えられるべきものではなく、具体的・個別的に特定されていることを要するものと解すべきである
  • そして、右条項に「職務を執行する当たり」と限定的に規定されている点からして、ただ漠然と公務員の勤務時間中の行為は、すべて右職務執行に該当し保護の対象となるものと解すべきではなく、右のように具体的・個別的に特定された職務の執行を開始してからこれを終了するまでの時間的範囲およびまさに当該職務の執行を開始しようとしている場合のように当該職務の執行と時間的に接着しこれと切り離し得ない一体的関係にあるとみることができる範囲内の職務行為にかぎって、公務執行妨害罪による保護の対象となるものと解するのが相当である
  • 以上と異なり、職務の執行を抽象的・包括的に捉え、しかも「職務を執行するに当たり」を広く漫然と公務員の勤務時間中との意味に解するときは、公務の公共性にかんがみ、公務員の職務の執行を他の妨害から保護しようとする刑法95条1項の趣旨に反し、これを不当に拡張し、公務員そのものの身分ないし地位の保護の対象とする不合理な結果を招来することとなるを免れないからである

と判示しました。

公務の一体性・継続性があれば、職務執行に該当し、保護の対象となりうる

 公務員の職務が中断又は停止されているかのような外観を呈していたとしても、公務の一体性・継続性があれば、職務執行に該当し、保護の対象となる場合があります。

 参考となる判例として、以下のものがあります。

最高裁判決(昭和53年6月29日)

 民営化前の電報局長及び電報局次長が執務中、被告人が闖入して来たので一時職務を中断したところ、耳元で空き缶を連打するなどの暴行を加えた事案です。

 裁判官は、

  • 刑法95条1項にいう職務には、広く公務員が取り扱う各種各様の事務のすべてが含まれるものであるから、職務の性質によっては、その内容、職務執行の過程を個別的に分断して部分的にそれぞれの開始、終了を論ずることが不自然かつ不可能であって、ある程度継続した一連の職務として把握することが相当と考えられるものがあり、そのように解しても当該職務行為の具体性・個別性を失うものではない
  • 本件局長及び次長の職務は、局務全般にわたる統轄的なもので、その性質上、一体性ないし継続性を有するものと認められ、本件公訴事実記載の局長及び次長の職務も右の統轄的な職務の一部にすぎないというべきである
  • したがって、このような局長及び次長の職務の性質からすれば、局長及び次長が被告人から暴行を受けた際、公訴事実記載の職務が中断ないし停止されているかのような外観を呈していたとしても、局長及び次長は、なお、一体性ないし継続性を有する前記の統轄的職務の執行中であったとみるのが相当である

と判示し、公務執行妨害罪の成立を認めました。

最高裁決定(昭和54年1月10日)

 民営化前の国鉄の運転士が、急行列車の運転室内で、中継駅の運転士と乗務の引継・交替を行い、運転当直助役のもとに赴いて終業点呼を受けるため駅ホームを歩行していた際、暴行を加えられた事案で、公務執行中の暴行と認め、公務執行妨害罪の成立を認めました。

次回の記事に続く

 次回の記事では、

『職務を執行するに当たり』に該当するとされ、公務執行妨害罪の成立が認められた事例と否定された事例

を紹介します。

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