刑法(公務執行妨害罪)

公務執行妨害罪(17) ~「務員の補助者に対する暴行でも公務執行妨害罪が成立する」を解説~

公務員の補助者に対する暴行でも公務執行妨害罪が成立する

 公務執行妨害罪(刑法95条第1項)において、暴行・脅迫は、必ずしも直接に公務員自身に対して加えられることを要せず、その補助者に対してなされるものでもよいとされます。

 この点につき、以下の判例があります。

最高裁判決(昭和41年3月24日)

 執行吏の補助者に対し暴行・脅迫を加えた事案で公務執行妨害罪の成立を認めた事例です。

 裁判官は、

  • 刑法95条1項に規定する公務執行妨害罪の成立には、公務員が職務の執行をなすに当たり、その職務の執行を妨害するに足りる暴行・脅迫がなされることを要するけれども、その暴行脅迫は、必ずしも直接に公務員の身体に対して加えられる場合に限らず、公務員の指揮に従い、その手足となりその職務の執行に密接不可分の関係において関与する補助者に対してなされた場合もこれに該当すると解するを相当とする
  • 本件において、被告人は、S執行吏がその職務を執行をなすに当たり、公務員ではないが、その補助者として同執行吏の命によりその指示に従って被告人方の家財道具を屋外に搬出中のEに対し、暴行脅迫を加えたもので、その際、被告人方の出入口又は戸外において執行を指揮していたS執行吏をして、右暴行脅迫により一時執行を中止するの止むなきに至らしめたものであるから、本件被告人の所為は、直接公務員であるS執行吏に対してなされたものでないとしても、S執行吏の職務の執行を妨害する暴行脅迫に該当するとした原審の判断は、右説示に照らして正当である

と判示しました。

公務員の補助者に対する暴行は、間接暴行の一種と考えることができる

 公務執行妨害罪(刑法95条第1項)にいう暴行は、

  • 公務員に向けられた不法な有形力の行使であり、直接に公務員の身体に対して加えられる必要はなく、直接には物に対して加えられた有形力の行使であっても、それが公務員に向けられたものであればよい
  • 刑法95条にいわゆる暴行とは、公務員の身体に対し、直接であると間接であるとを問わず、不法な攻撃を加えることをいう

とされます(詳しは前の記事参照)。

 つまり、公務執行妨害罪は、暴行が直接公務員の身体に向けられていなくても、暴行が間接的に公務員に向けられていれば(これを「間接暴行」といいます)、成立が認めれらます。

 この点から、公務員の補助者に対する暴行は、間接暴行の一種と考えることができます。

 直接的には公務員の補助者に対する暴行であっても、公務員の身体に対する間接的な不法な攻撃と評価できるためです。

公務員の補助者に対する暴行の事例

 公務員の補助者に対する暴行の事例として、以下のものがあります。

大審院判決(大正6年12月20日

 警察署長が群衆取締りのため船に乗り込み、水夫2名に操縦させて巡視中、公務員でない補助者に対して暴行を加えた事案について、公務執行妨害罪の成立を認めました。

広島高裁判決(昭和28年9月19日)

 漁業監督公務員兼司法警察員が船長である県水産部の警備船に、その補助者として乗り組んでいた者に対し、暴行を加えた事案について、公務執行妨害罪の成立を認めました。

 裁判官は、

  • 公務員の職務の執行に当たり、その執行を妨害するに足る暴行を加えた以上、公務執行妨害の罪責を負わねばならぬのであって、暴行が直接公務執行中の公務員の身体に対するものである場合はもちろん、公務員によって、その職務執行のたね、使役せられる者に対するものである場合もまた、公務執行中の公務員に対し間接に暴行を加えたものとなすべきである

と判示し、公務執行妨害罪が成立するとしました。

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