刑法(公務執行妨害罪)

公務執行妨害罪(27) ~「公務執行妨害罪の罪数は、公務員の数ではなく、公務の数を基準にして決せられる」を解説~

公務執行妨害罪の罪数は、公務員の数ではなく、公務の数を基準にして決せられる

 公務執行妨害罪の罪数は、公務員の数ではなく、公務の数を基準にして決せられます。

 これは、公務執行妨害罪の保護法益は、公務員ではなく公務であるためです(詳しくは前の記事参照)。

 この点につき、参考となる判例として以下のものがあります。

仙台高裁判決(昭和27年10月18日)

 同一目的の公務を共同執行しつつある数名の公務員に対する妨害行為について、一つの公務執行妨害罪が成立することを明示した事例です。

 裁判官は、

  • 数名の公務員が、だた一つの公務を共同執行しつつある際、これに対し暴行脅迫を加えても、各所為は包括して観察し、単一なる公務執行妨害罪を構成するものと認むべきものである
  • 本件についてみるに、S税務署主任及びT徴収税官両名の行為の目的は、同一の公務を共同執行するにあることは明らかであるから、両名は相共に、一つの執行行為を交わすものとみるべきであり、両名に対して脅迫を加えてこれを妨害した被告人の所為は、単一たる公務執行妨害罪を構成す

と判示しました。

 また、公務執行妨害罪の罪数について言及した以下の2つの判例あり、各判例は、一見、公務員の数を基準として罪数を決しているように見えますが、職務の個数を公務員ごとに別々に考えた結果、観念的競合という結論に達したものと考えられています。

最高裁判決(昭和26年5月16日)

 税務署員4名を脅迫し、4名に対し、それぞれ刑法95条2項に当たる犯罪行為をした事案について、公務員の数に応ずる公務執行妨害罪が成立し、観念的競合の関係になるとしました。

最高裁判決(昭和31年7月20日)

 群馬県職員5名を脅迫し、差押物件の引きあげを断念させて、公務員の公務執行を妨害した事案について、原判決が、刑法54条1項前段の規定(観念的競合の規定)を適用して一罪として処断したのは相当であるとしました。

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