刑法(住居・建造物侵入罪)

住居・建造物侵入罪④ ~「邸宅とは?」「集合住宅の共用部分は、住居ではなく邸宅に当たる」「囲いをめぐらした集合住宅の敷地の邸宅該当性」「皇居の敷地は、邸宅ではなく、建造物の囲繞地である」を判例で解説~

「邸宅」とは?

 刑法130条の邸宅侵入罪における「邸宅」とは、

住居の用に供される目的で作られた建造物のうち、現に住居に使用されていないもの

をいいます。

 なお、現に住居に使用されているものは、刑法130条の住居侵入罪における「住居」に当たります。

 邸宅に当たる建物として、

  • 空き家
  • シーズンオフの別荘

が代表例です。

アパートのなどの集合住宅の共用部分は、「住居」ではなく「邸宅」に当たる

 アパートなどの集合住宅の共用部分について、「住居」ではなく「邸宅」と認定し、住居侵入罪ではなく、邸宅侵入罪を認定した以下の判例があり、参考になるので紹介します。

広島高裁判決(昭和63年12月15日)

【事案の内容】

 この判例は、アパートの2階外側共用通路につき、各入居者の利用形態が一様でないことから、各入居者それぞれの住居の一部ないしその延長とみることはできないにしても、全体として住居に使用されているアパート建物に附属する施設とみることによって、「邸宅」に当たるとしました。

【判決の内容】

 裁判官は、

  • 現に人が住居として使用している建物に附属する施設ではあるが、住居の一部とはいえないものや、建物の囲繞地は、これを刑法130条にいう邸宅に当たるものと解し得るのでるが、このことは、右が単一の住居用建物に限らず、アパート等の共同住宅に附属する場合においても、その施設や囲繞地が専らそこに居住する者のみが利用し、あるいはこられの者のためにのみ利用されるべき性質のものである以上同様である
  • これを本件についてみると、本件アパートの建物の構造と形状、その敷地や隣接建物等との関係その他の状況からして、本件アパートが小規模な共同住宅であり、その出入口が袋小路北部分のみであって、他へ通り抜けられるような状況ではなく、従って本件アパートの通路部分は、アパートに何らかの用事のある者以外の一般通行人が自由に出入りすべき場所ではないことが、その外観上から明らかである
  • かつ、アパートの通路部分の形状や利用状況等に徴すると、通路部分は専ら本件アパート住人のみが利用し、あるいは同人らのためにのみ利用されていることもまた明白というべきである
  • そして、通路部分が場所によっては、各入居者らによる利用が一部重複したり、あるいはほとんど専用的になったりして、必ずしもその利用形態が一様ではないので、通路部分をもって各入居者それぞれの住居の一部ないしその延長と見ることはできないにしても、これを全体として住居に使用されているアパート建物に附属する施設と見ることによって、これが刑法130条にいう邸宅に当たる解することは差し支えないというべきである

と判示しました。

最高裁判決(平成20年4月11日)

【事案の内容】

 「自衛隊のイラク派兵反対」などと記載したビラを、各室に投函する目的で、防衛庁立川宿舎の敷地内に立ち入った上、各号棟の階段1階出入口から4階の各室玄関前まで立ち入った事案です。

【判決の内容】

 裁判官は、

  • 立川宿舎の各号棟の構造及び出入口の状況、その敷地と周辺土地や道路との囲障等の状況、その管理の状況等によれば、各号棟の1階出入口から各室玄関前までの部分は、居住用の建物である宿舎の各号棟の建物の一部であり、宿舎管理者の管理に係るものであるから、居住用の建物の一部として刑法130条にいう『人の看守する邸宅』に当たるものと解される

と判示し、住居侵入罪ではなく、邸宅侵入罪が成立するとしました。

囲いをめぐらした集合住宅の敷地が「邸宅」に当たるか否か

 囲いをめぐらした集合住宅の敷地が「邸宅」に当たるか否かについては、

  • 「邸宅」に該当しないので、邸宅侵入罪は成立せず、軽犯罪法1条32号(立入禁止等侵入)が成立するのみである
  • 「邸宅」に該当し、邸宅侵入罪が成立する

と結論を異にする以下の2つの判例があります。

「邸宅」に該当するとした判例

大審院判決(昭和7年4月21日)

 1棟約10戸からなる長屋27棟のほか合宿所その他の建物があり、板塀で囲まれて外部との交通接触を遮断し、正門は昼夜とも開放するが見張人を置き、裏門は見張所がないため昼間だけ開放して夜間は閉めることにしている区域内に立ち入った事案につき、邸宅侵入罪を認めた原判決を破棄し、裁判官は、

  • 前地域は、畢竟、多数人の居住する一郭にほかならずして、邸宅をもって目すべきものにあらず
  • 多数人の居住する一郭内に、管理者の意に反して、なく立入りたる者は、警察官処罰令第2条第25条に該当するものにして、刑法第130条に問疑(もんぎ)すべきものにあらず

と判示し、旧警察犯処罰令2条25号の「出入を禁止したる場所」(現行の軽犯罪法1条32号の「入ることを禁じた場所」に相当する)に当たると判示しました。

 つまり、上記のような区域内に侵入しても、刑法130条の邸宅侵入罪は成立せず、軽犯罪法1条32号の立入禁止等侵入罪が成立するに過ぎないとしました。

「邸宅」に該当しないとした判例

最高裁判決(昭和32年4月4日)

 社宅20数戸が、石垣又はレンガ塀で囲まれて、一般民家とは区画され、責任者が看守しており、3個の門には、いずれも木製の観音開きの戸があり、毎晩午後10時過ぎには、責任者が内側から戸にかんぬきをして門を閉めることとなっている区域内に立ち入った事案で、裁判官は、その区域について、「社宅20数個を含む一つの邸宅」と認めた原判決を正当としました。

 そして、前記大審院判例(昭和7年4月21日)に反するとの上告趣意に対しては、「所論引用の判例は本件に適切でない」と判示しました。

 つまり、上記のような区域内は、刑法130条にいう「人の看守する邸宅」に当たるとし、そこに侵入すれば、邸宅侵入罪が成立すると判断しました。

 判決というのは、事件の内容、時代、担当する裁判官などが異なることにより、異なる結論が出されることがあります。

 正しい判断が何かについては、ケースバイケースで考えていくことになります。

皇居の敷地は「邸宅」ではなく、「建造物の囲繞地」である

 皇居の敷地に侵入した事案で、皇居の敷地が「邸宅」に当たるかどうかが争われた判例があります。

 結論として、皇居の敷地は、「邸宅」に該当せず、「建造物の囲繞地」(いにょうち)に該当するとして、建造物侵入罪が成立するとしました。

 囲繞地とは、「住居の生け垣や塀などにより囲まれた庭などの部分」をいいます。

 囲繞地に侵入した場合でも、囲繞地は住居や建造物の一部として、住居侵入罪や建造物侵入罪の成立が認められます(詳しくは前の記事参照)。

 判例の内容は以下のとおりです。

東京地裁判決(昭和50年3月25日)

 皇居坂下門から宮内庁玄関まで侵入した事案です。

 検察官は、「外周のほぼ全面を石垣によって囲繞され、8個の門によって外界と遮断された皇居全体を1個の邸宅である」と主張しました。

 この検察官の主張に対し、裁判官は、

  • 皇居内部の現実の地形、利用状況等を、さらに細かく検討すると、右皇居は、⑴天皇の住居である吹上御所とその囲繞地である吹上御苑、さらに生物学研究所等の、主として天皇の私的生活、行事に供される建物を中心とした吹上地区(全体の3割強を占める)、⑵すでに一般の公園として開放されている東御苑を中心とした、乾濠蓮池濠蛤濠より東側の部分、⑶宮殿、宮内庁等主として天皇の公的行事に使用される建物を中心としたその余の部分の3つの地域に大別することが可能である
  • 右三地域は、互いに、、塀、門等のしゃへい物によって明瞭に区別されており、相互の地域への通行は、各門及びその付近に配置された皇宮護衛官によって、厳重に規制されている事実が認められる
  • したがって、このように、互いに利用上の性格が異なり、しかも地形上、警備上截然たる区別のある3つの地域を一括し、これを一個の邸宅であるとする検察官の主張には、刑法131 条(※皇居などへの侵入罪)が廃止された経緯等にかんがみ、にわかに左袒することができない
  • それでは、被告人らの行為については、右の点から直ちに刑法130条不該当となり、せいぜい軽犯罪法1条32号違反(※立ち入り禁止場所への侵入)の成否が問題となるに過ぎないのであろうか
  • 当裁判所は、そのようには考えない
  • なぜなら、被告人らの立ち入った坂下門から宮内庁玄関に至るまでの部分は、前記⑶の地域内にあり、右地域は、前記のとおり、天皇の公的行事に使用される宮殿と、皇居関係の国事事務等を掌る宮内庁庁舎を中心した地域であって、とくに右地域のうち、中門(…など)によって囲繞される部分は、地形上ないし警備上、その余の部分とかなり明瞭に区画されているのみならず、その内部に、天皇の私的行事のための施設を一切含まないこと、その広さも、社会通念上、前記両建物の囲繞地たる性格性格と矛盾するほど広大ではないこと等の諸点から見て、これを右両建物の囲繞地であると見るための法律上の妨げは見当たらないからである
  • そして、前記のような皇居全体の管理状況から見て、右各建物の囲繞地が、「人の看守する」ものであったことも、疑いのないところであるから、これをもって刑法130条にいう「人の看守する建造物」であると解するのが相当であると考える

と判示し、皇居の囲繞地に侵入した事案について、検察官が主張した邸宅侵入罪ではなく、建造物侵入罪が成立するとしました。

 なお、この裁判は控訴され、東京高裁でも審理が行われましたが、東京高裁においても、一審の判断を維持し、建造物侵入罪の成立を認めました(東京高裁判決 昭和54年2月28日)。

 裁判官は、

  • 建造物の管理者が、建造物の周囲に、門、堀、等を設け、その内部への立入を規制するゆえんは、建造物の平穏を維持するためであることは、多言を要しないから、犯人において、門、堀、等の内部へ立ち入った以上、建造物そのものの平穏を害したものと解するべきことは、当然である
  • 本件の場合、被告人らが、坂下門および宮内庁庁舎前広場の平穏を害したことにより、宮内庁庁舎そのものの平穏を害したこととなるのであって、建造物侵入罪が成立するためには、そのうえさらに、宮内庁庁舎内における執務が妨害される具体的危険が発生したことまで必要とするものではない
  • 宮内庁庁舎およびこれを囲繞する地域の管理の状況に照らすと、右は一つの建造物の囲繞地と解せられる

と判示しています。

 この判例の考え方によると、一つの囲障がある敷地内に、工場などの建物と社宅建物があって、その区域が門塀などにより分けられているような区域に侵入した場合、建物も含めた敷地全体を一つの邸宅とみて、邸宅侵入罪が成立すると考えるのではなく、門塀などで仕切られている区域を建造物の囲繞地とみて、建造物の囲繞地に侵入したとして、建造物侵入罪が成立すると考えることになります。

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