刑法(住居・建造物侵入罪)

住居・建造物侵入罪⑮ ~「住居侵入罪と強制性交等罪、恐喝罪、建造物損壊罪、器物損壊罪、威力業務妨害罪との関係」を判例で解説~

住居侵入罪と強制性交等罪(旧:強姦罪)との関係(牽連犯)

 住居侵入罪(刑法130条)と強制性交等罪(刑法177条、旧:強姦罪)の関係について説明します。

 住居に侵入し、住居内で強制性交(強姦)に及んだ場合は、住居侵入と強姦は、通常、手段と結果の関係にあるので、住居侵入罪と強姦罪は牽連犯の関係に立ちます。

 この点について、以下の判例があります。

大審院判決(昭和7年5月12日)

 この判例で、裁判官は、

  • 強姦行為と住居侵入行為とが刑法第54条の牽連犯を組成する場合、強姦罪に対する告訴なきときといえども、その手段たる住居侵入罪のみにつき、審判をなすを妨げず

と判示し、判決の中で、強姦罪と住居侵入罪は牽連犯の関係にあることを示しました。

住居侵入罪と恐喝罪との関係(観念的競合)

 住居侵入罪(刑法130条)と恐喝罪(刑法249条)の関係について判示した以下の判例があります。

静岡地裁富士支部(昭和50年1月16日)

 貸金債権の取立ての名目で、住居に押し掛けて脅迫し、そのまま約48日間、仲間と交互に泊まり込んで、金員を喝取(かっしゅ)しようとした事案で、住居侵入罪と恐喝罪とは観念的競合になるとしました。

 裁判官は、

  • 住居侵入罪と恐喝罪の罪数関係につき考察すると、本件住居侵入行為は、金員喝取行為の内容そのものであって、継続的な住居侵入行為の途中において、一時的に恐喝行為に及んだ場合と異なり、右両行為は時間的にもその大部分において一致するばかりでなく、相互間に極めて密接した統一的関連性が認められるのであるから、法的評価をはなれ、構成要件的観点を捨象した自然的観察のもとでこれを評価すれば、社会的見解上、1個の行為と評価しうるものである
  • したがって、本件における住居侵入罪と恐喝未遂罪とは観念的競合の関係にあるものと解するのが相当である

と判示しました。

建造物侵入罪と建造物損壊罪・器物損壊罪との関係

 建造物侵入罪(刑法130条)と建造物損壊罪(刑法260条)・器物損壊罪(刑法260条)の関係について以下の判例があります。

札幌地裁判決(昭和40年9月20日)

 この判例は、建造物の天井などに穴を開けて建造物の中に侵入した事案について、住居侵入罪と建造物損壊罪とは観念的競合であるとしました。

 事案の詳細は、窃盗の目的で、卸売市場付属売店の共同便所天井1か所、食堂天井2か所、商店天井1か所、青果物買出人共同組合天井2か所の計6か所を壊れたペンチの先で順次破り、それぞれ長径50センチメートル、短径30センチメートル内外の不整円形の穴をあけて、建造物を損壊するとともに、右共同便所の天井にあけた穴から天井裏を通って、同売店に侵入し、現金などを盗んだというものです。

 裁判官は、

  • 建造物損壊と住居侵入とは、1個の行為で2個の罪名に触れる場合であり、住居侵入と各窃盗との間には、それぞれ手段結果の関係があるので、刑法54条1項前段、後段10条により、結局一罪として犯情の最も重い窃盗罪の刑で処断する

と判示し、建造物損壊と住居侵入とは1個の行為で2個の罪名に触れる…つまり観点的競合の関係にあると認定しました。

東京地裁判決(昭和56年4月17日)

 人の住居に侵入して、玄関の板壁にサインペンで、「責任をどこまでも追求するぞ!」などと書いて他人の家を汚損(軽犯罪法1条33号)した事案で、裁判官は、

  • 住居侵入と軽犯罪法違反との間には、手段結果の関係があるので、刑法54条1項後段10条により一罪として重い住居侵入罪の刑で処断する

と判示し、住居侵入と軽犯罪法違反(他人の家の汚損)は、刑法54条1項後段の牽連犯の関係に立つとしました。

東京高裁判決(昭和63年10月5日)

 面会を強要する目的で、被害者宅の玄関ガラス戸を殴って破り、そこから室内に入り込んだ上、相手が現れることを期待して、下駄箱、唐紙、テーブルなどを損壊した事案で、器物損壊罪と住居侵入罪とは、牽連犯の関係に立つとしました。

 裁判官は、

  • 被告人は、被害者方家人が居留守を使っているものと邪推して激高すると共に、被害者に強いて面談しようとして、被害者方玄関戸のガラス2枚を破壊し、居宅内に侵入したうえ、引き続き、激情にかられるまま、被害者を探し求め、被害者が現れることを期待して、右居宅内の被害者所有にかかる下駄箱、唐紙、テーブル等を破損したものと認められるから、これらの、玄関戸のガラスないし下駄箱当の破損行為は、同一の機会における同一所有者の器物に対する一連の器物損壊行為として包括して器物損壊の一罪を構成するものと解される
  • 次に、本件下駄箱、唐紙、テーブル等を破損した行為は、いわゆる継続犯である本件住居侵入の犯行の中に、その侵入の状態を利用して行ったものであり、右住居侵入と器物損壊の間には、通常の手段結果の関係があると解される
  • 被告人が本件住居侵入のうえ、その侵入の状態を利用して器物損壊の各所為に及んだ各動機、目的、本件犯行の具体的態様、経過等にかんがみると、被告人は、主観的な面及び具体的行為の面でも、両罪を手段結果の関係において実行したものと認められるから、本件住居侵入と一連の器物損壊の各罪は、刑法54条後段の牽連犯の関係にある

と判示しました。

建造物侵入罪と威力業務妨害罪との関係

 建造物侵入罪(刑法130条)と威力業務妨害罪(刑法233条)の関係について説明します。

 建造物に侵入し、建造物内で威力業務妨害行為に及んだ場合、建造物侵入罪と威力業務妨害罪は牽連犯の関係に立ちます。

 この点について、以下の判例があります。

京都地裁判決(昭和44年8月30日)

 国立大学の大学院入試会場に侵入し、騒ぐなどして入試実施業務を妨害した事案で、裁判官は、

  • 建造物侵入と威力業務妨害との間には、手段結果の関係があるので、刑法第54条第1項後段10条により、一罪として犯情の重い威力業務妨害の罪の刑をもって処断する

と判示し、建造物侵入と威力業務妨害は刑法54条1項後段の牽連犯の関係に立つとしました。

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