刑法(強盗致死傷罪)

強盗致死傷罪(16) ~他罪との関係「強盗致死傷罪と殺人罪と殺人罪、窃盗罪、住居侵入・建造物侵入罪、放火罪、死体遺棄罪との関係」を判例で解説~

 強盗致死傷罪(刑法240条)と

  • 殺人罪
  • 公務執行妨害罪
  • 住居侵入・建造物侵入罪
  • 放火罪
  • 死体遺棄罪

との関係について説明します。

強盗致死傷罪と殺人罪との関係

 強盗致死傷罪と殺人罪(刑法199条)との関係について説明します。

 強盗犯人が人を殺したときは、強盗殺人罪のみが成立します。

 ただし、強盗殺人犯人が、犯行の発覚を防ぐ目的で、数時間後に、別の場所で人を殺害した場合には、その殺人は強盗殺人罪には包含されず、殺人罪を構成します。

 この点について、参考となる判例として次のものがあります。

最高裁判決(昭和23年3月9日)

 被害者Fほか2名に対する強盗殺人を実行後、犯人らが犯行の発覚を防ぐために、顔を見知られた被害者Gの殺害を共謀し、約5時間後に被害者Gを誘い出して殺害した場合には、新たな決意に基づく別個の殺人行為であり、強盗殺人罪ではなく、殺人罪が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 刑法第240条後段の強盗殺人罪は、強盗たる者が、強盗をなす機会において、他人を殺害することにより成立する犯罪であって、一旦、強盗殺人の行為を終了した後、新な決意に基づいて別の機会に他人を殺害したときは、右殺人の行為は、たとえ時間的に先の強盗殺人の行為に接近し、その犯跡隠ぺいする意図の下に行われた場合であっても、別箇独立の殺人罪を構成し、これを先の強盗殺人の行為と共に包括的に観察して1個の強盗殺人罪とみることは許されないものと解すべきである
  • 強盗殺人の行為をした後、先の犯行の発覚を防ぐため改めて共謀の上、数時間後、別の場所において人を殺害したこと明白であるから、前記の法理により被告人らが被害者Gを殺害した行為は、被害者Fほか2名に対する強盗殺人罪に包含せられることなく、別個独立の殺人罪を構成するものといわなければならない

と判示し、被害者Fほか2名に対する強盗殺人罪と被害者Gに対する殺人罪が成立するとしました。

強盗致死傷罪と公務執行妨害罪との関係

 強盗致死傷罪と公務執行妨害罪刑法95条1項)との関係について説明します。

 窃盗犯人が、逮捕を免れるために警察官に暴行を加え、傷害を負わせた場合は、公務執行妨害罪と強盗致傷罪との観念的競合となります。

 参考となる判例として、以下のものがあります。

大審院判決(明治43年2月15日)

 逮捕を免れるために、警察官を死傷させた行為について、裁判官は、

  • 窃盗犯人が、警察官の逮捕を免れるため、暴行を加えて創傷を負わせれば、公務執行妨害罪と強盗致傷罪とが成立し、両者は観念的競合となる

としました。

最高裁判決(昭和23年5月22日)

 この判例で、裁判官は、

  • 被告人が、窃盗をした際に、巡査Aの逮捕を免れるため、匕首で巡査Aの右大腿部を突き刺し、巡査Aに傷を与えた事実を確定しながら、これに対し、刑法準強盗傷人罪(強盗傷人罪)の規定だけを適用し、公務執行妨害罪に関する刑法第95条の規定を適用しなかった
  • これは確定したる事実に対して刑法の正条を適用せざる違法というべきである
  • しかしながら、原判決の確定したところによれば、本件被告人の準強盗傷人(強盗傷人罪)の所為と、公務執行妨害の所為とは、刑法第54条第項前段にいわゆる「一個の行為にして数個の罪名に触れ」る場合にあたるのであるから、同条および同法第10条の規定に従って重き準強盗傷人(強盗傷人罪)の罪の刑によって処断されるべきである

と判示し、窃盗をした際に、警察官による逮捕を免れるため、警察官に傷害を負わせた行為について、強盗傷人罪と公務執行妨害罪の観念的競合により処断するのが正しい判断であるとしました。

強盗致死傷罪と住居侵入・建造物侵入罪との関係

 他人の住居に侵入し、窃盗を行った者が、逮捕を免れる目的で、他人を死傷させたときは、住居侵入罪又は建造物侵入罪(刑法130条)と強盗致死傷罪との牽連犯となり、両罪は一罪として成立します。

大審院判決(大正5年8月28日)

 この判例で、裁判官は、

  • 強盗を為したる者が、逮捕を免れる目的をもって他人を傷害したるときは、法律上、強盗傷人の一罪を構成するに過ぎざれば、その成立要素たる強盗行為の手段として行われたる建造物侵入の所為は、強盗傷人罪の手段なりと論断するを相当とす

と判示し、強盗行為の手段として行った建造物侵入の行為は、強盗傷人罪の手段となるため、建造物侵入罪と強盗傷人罪は牽連犯の関係になるとしました。

大審院判決(大正15年2月23日)

 金を盗む目的で被害者宅に侵入し、銭箱を物色するなどしたが、金を発見できず、さらに被害者宅内を探っていたところ、被害者に発見されたため、窃盗は未遂に終わったが、犯人が、罪跡隠滅するため、短刀で被害者の首を突き刺し、即死させた事案で、裁判官は、

と判示し、住居侵入罪と強盗致死傷罪は牽連犯の関係になるとしました。

強盗致死傷罪と放火罪との関係

 強盗殺人を犯した者が、犯跡をおおうために放火したときは、強盗殺人罪と放火罪の併合罪となります(大審院判決 明治42年10月8日)。

 強盗殺人罪と放火罪は手段と結果の関係にないので、牽連犯にはなりません。

強盗致死傷罪と死体遺棄罪との関係

 強盗犯人が、人を殺害した後、罪跡をおおうために、その死体を他の場所に運搬し、土中に埋蔵した場合は、強盗殺人罪と死体遺棄罪刑法190条)との併合罪になります。

大審院判決(昭和11年1月29日)

 この判例で、裁判官は、

  • 強盗殺人罪を犯したる者、その犯跡隠滅せしむがため、死体を他の場所に運搬し、ひそかにこれを土中に埋蔵するが如きは、刑法第190条にいわゆる死体を遺棄したるものに該当す
  • 強盗殺人罪と死体遺棄罪とは、刑法第54条牽連犯を構成すべきものにあらず

と判示しました。

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