刑法(強盗致死傷罪)

強盗致死傷罪(8) ~共同正犯①「強盗傷人罪、強盗殺人罪における共同正犯」「強盗を共謀し、共犯者の一部が強盗致死傷罪を犯した場合は、共犯者全員に強盗致死傷罪が成立する」を判例で解説~

 これから数回にわたり、強盗致死傷罪(刑法240条)における共同正犯(共犯)の考え方について説明します(共同正犯の基本的な考え方は前の記事参照)。

 強盗致死傷罪(刑法240条)は、①強盗致傷罪、②強盗致死罪、③強盗致死傷罪、④強盗傷人罪、⑤強盗殺人罪の5つに分類できます(詳しくは前の記事参照)。

 なので、適宜、①~⑤の罪名を使い分けて説明します。

強盗傷人罪、強盗殺人罪における共同正犯

 故意犯としての強盗傷人罪、強盗殺人罪においては、共同実行の意思の範囲内で、共犯者の一部の者が行った行為について、他の共犯者がそれを具体的に認識していなくても、共同正犯の成立が認められます。

 この点について、以下の判例があります。

大審院判決(昭和8年12月4日)

 この判例は、

  • A、Bが強盗殺人を共謀して、Aにおいて、隣室のCを殺害し、いったん自己の居室に引きあげた後、さらに、AがCの室に入り、 ポケットに現金の在中していることを知らずにCの上着を奪取したが、その際、Bは、階下に降りて手を洗っており、Aの行為を知らなかったとしても、財物奪取についての責めに任じなければならない

とし、A、Bの両名に対し、強盗殺人の共同正犯の成立を認めました。

強盗を共謀し、共犯者の一部が強盗致死傷罪を犯した場合は、共犯者全員に強盗致死傷罪が成立する

 強盗罪(刑法236条)の共犯者中、一部の者の加えた暴行によって人の死傷を生じた場合には、他の共犯者も、一部の者の加えた暴行についての共同責任を問われるかどうかが問題になります。

 共同正犯・教唆犯・幇助犯のいずれかを問わず、一般に故意犯の共犯者は、各自の認識した範囲内の事実についてのみ責任を負うのが原則です。

 しかし、強盗致死傷罪(刑法240条)のような結果的加重犯においては、結果が発生した以上、行為者は、それについて表象認容していなかった場合であっても、発生した結果にまで責任を負わされるのであるから、他の共犯者も、認識がなかったととを理由に結果についての責任を免れることはできないとされます。

 なので、強盗について共謀した共犯者の一部の者が、強盗の機会において行った暴行により死傷の結果が発生した場合は、その共犯者の全員につき強盗致死傷罪が成立するとされます。

 ただし、例えば、他の共犯者の暴行行為が、強盗の機会に行われたと認められないような場合には、その暴行行為から生じた結果について、暴行を行っていない他の共犯者にまで責任を問うことはできません。

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