盗品等に関する罪と、他罪(証拠隠滅罪、収賄罪、古物営業法違反)を併発して起こした場合の関係について説明します。
証拠隠滅罪との関係
他人の罪証を隠滅するために、盗品を隠匿した場合は、盗品等保管罪(刑法256条2項)と証拠隠滅罪(刑法104条)が成立し、両罪は観念的競合として一罪になるというのが判例の立場です。
盗品を隠匿するという1個の行為が、盗品等保管罪と証拠隠滅罪の2個の罪名に触れるため、観念的競合となるものです。
この点について、以下の判例があります。
大審院判例(明治44年5月30日)
この判例で、裁判官は、
- 他人の罪証を隠滅するため、その贓物を隠匿したる行為は1個にして、刑法256条2項及び第104条の2個の罪名に触れるものなるをもって、刑法第54条により、一罪として処分すべきものにして、単に第104条の犯罪を構成するものとして処分すべきものに非ず
と判示し、このような場合、罪証隠滅罪の一罪で処分するのではなく、罪証隠滅罪と盗品等保管罪の2罪が成立し、2罪は観点的競合として一罪として処分べきとしました。
収賄罪との関係
公務員が、盗品であることの情を知りながら、これを賄賂として収受した場合は、収賄罪(刑法197条)と盗品等無償譲受け罪が成立し、両罪は観念的競合として一罪になるとするのが判例の立場です。
この点について、以下の判例があります。
この判例で、裁判官は、
- 刑法第197条の罪(収賄罪)が成立するためには、公務員が収受した金品が贓物であっても差し支えない
- 贓物と知りながら収受した場合は、収賄罪と贓物収受罪(盗品等無償譲受け罪)との二罪が成立するわけである(大審院明治44年(れ)第349号同年3月30日言渡判決参照)
- されば、本件において、相被告人Bに、その職務上の不正行為に対する謝礼として交付した金員が、仮令所論のように贓物であったとしても、これがために贈賄罪の成立に少しも影響を及ぼすことはない
と判示し、収賄罪と盗品等無償譲受け罪が成立し、両罪は観念的競合として一罪になるとしました。
古物営業法違反との関係
古物営業法違反(17条、帳簿等への記録義務違反)と盗品等有償譲受け罪との関係
古物商には古物を買い受ける際に、相手の確認や記帳などの義務が課されており、これらの義務に違反して盗品を買い受けた場合は、古物営業法違反(17条)の罪と盗品等有償譲受け罪の両罪(併合罪)が成立します。
この点について、以下の判例があります。
大審院判決(大正5年11月7日)
この判例で、裁判官は、
- 贓物故買の罪(盗品等有償譲受け罪)と古物商として古物売買を記帳せざる罪とは、格別個の法益を害する独立の行為にして、その一つに他の一つを包含せざれば、古物商が贓物を故買し、その売買を記帳せざる行為に対し、二罪の成立を認めて処断したるは相当なり
と判示し、古物営業法違反(17条)の罪と盗品等有償譲受け罪の両罪(併合罪)が成立するとしました。
大審院判決(昭和9年3月15日)
この判例で、裁判官は、
と判示し、古物営業法違反(17条)の罪と盗品等有償譲受け罪の両罪(併合罪)が成立するとしました。
広島高裁判決(昭和27年5月26日)
この判例で、裁判官は、
- 原判決は、贓物故買罪(盗品等有償譲受け罪)、相手方不確認罪、記帳不記載罪の間には、刑法第54条第1項後段(牽連犯)の関係があるとして、同条を適用処断しているけれども、同条にいわゆる犯罪の手段とは、ある犯罪の性質上、その手段として普通に用いられる行為を指し、また犯罪の結果とは、ある犯罪より生ずる当然の結果を指すものであるところ(いわゆる通常牽連性)、各罪の間には、通常牽連性があるとは解し難いから、同条を疑す(当てはめる)べきものではなく、併合罪として処断するのを相当とする
と判示しました。
古物営業法違反(3条、無許可営業)と盗品等有償譲受け罪との関係
無免許で古物商を営む者の盗品等有償譲受けについては、盗品等有償譲受け罪と無免許営業罪(古物営業法3条)の観念的競合になります。
この点について、以下の判例があります。
大審院判決(大正14年5月26日)
この判例で、裁判官は、
と判示し、盗品等有償譲受け罪と無免許営業罪(古物営業法3条)の両罪は、観念的競合になり、一罪になるとしました。