刑法(窃盗罪)

窃盗㉔ ~「窃盗罪と封印破棄罪、証拠隠滅罪、失火罪、住居侵入罪、文書偽造罪、支払用カード電磁的記録不正作出罪・同供用罪、印章不正使用罪、強盗罪との併合罪・観念的競合・牽連犯の成立関係」を判例などで解説~

窃盗罪と封印破棄罪との関係(差し押さえられた自己所有物の封印破棄)

 借金が返済できなかったり、税金の滞納などで、裁判所や税務署などの公務員から、家や車などの差押えを受ける場合があります。

 差押えを受けた物件は、競売にかけられて売却され、その売却で得た金が、借金の返済や納税に当てられます。

 物件の差押を受けると、その物件が差し押さえられた物件であることを示すために、公務員が、その物件に「差押物件」などと書かれた封印が貼り付けます。

 そして、公務員が貼り付けた「差押物件」などと書かれた封印を剝がすなどして破壊すると、封印毀棄罪刑法96条)が成立します。

 それと同時に、元は自分の物とはいえ、公務員が差押えを受け、公務員に管理があるものを奪ったとして、窃盗罪も成立します。

 この時、封印毀棄罪と窃盗罪は、観念的競合の関係になり、科刑上一罪(観念的競合または牽連犯)になります。

 この点について、以下の判例があります。

大審院判例(明治44年3月23日)

 この判例は、

  • 自己の財物の差押えを受け、封印または差押えの標示を施されたものを窃取する行為と、この窃取のため、封印または差押えの標示を損壊する行為とは、その間に手段結果の関係がある

とし、封印毀棄罪と窃盗罪との牽連犯が成立するとしました。

大審院判例(大正3年10月13日)

 この判例は、

  • 仮差押により封印された戸棚の保管を命ぜられた者が、その戸棚の内容物を窃取する行為と、そのため封印を破壊する行為とは、その間に手段結果の関係がある

とし、封印毀棄罪と窃盗罪との牽連犯が成立するとしました。

大審院判例(明治44年12月19日)

 この判例は、

  • 収税官吏が差押えのため、封印をした酒類在中の徳利をそのまま窃取するのは、窃盗と封印破棄罪との観念的競合である

とし、封印毀棄罪と窃盗罪との観念的競合が成立するとしました。

窃盗罪と証拠隠滅罪との関係

 犯罪を犯して警察に検挙された犯人が、証拠隠滅のため、警察が押収した犯罪の証拠物件を盗み出して捨てた場合、窃盗罪と証拠隠滅罪刑法104条)が成立します。

 証拠隠滅罪は、窃盗罪とは法益侵害の種類が異なるので、不可罰的事後行為にはならず、不処罰にはなりません。

 この点について、以下の判例があります。

大審院判例(大正3年11月30日)

 犯人が、差し押さえられた自己の証拠物件を、罪証隠滅の目的で、盗み出して捨てた事案で、裁判官は、

  • 収税官吏が犯罪の証拠物件として差し押さえた風呂敷包を窃取して池中に投入し証拠を隠減する行為は、窃盗罪と証拠隠減罪との観念的競合となる

と判示しました。

窃盗罪と失火罪との関係

仙台高裁判例(昭和29年9月28日)

 窃盗の目的で他家に侵入し、新聞紙に火をつけて室内を照らして物色中、家人に誰何され、火のついた新聞紙を投げ捨てて逃走した結果、住居の一部を焼損させた事案で、第一審の裁判所は、住居侵入、窃盗未遂罪、失火罪の3罪は牽連犯の関係に立ち、科刑上一罪になると判決しました。

 しかし、高等裁判所は、その判決は誤りであると指摘しました。

 高等裁判所の裁判官は、

  • 刑法54条1項後段に規定する「犯罪の手段もしくは結果たる行為」とは、抽象的に観察して、ある犯罪の性質上、その手段として普通に用いられるべき行為又はある犯罪により生ずる当然の結果たる関係がある場合であることを要する
  • 原判決は、住居侵入、窃盗未遂及び失火罪の3つの罪につき、刑法54条1項を適用して一罪とし、最も重い窃盗未遂の罪の刑に従って処断している
  • 原判決は、住居侵入と窃盗未遂との間、及び住居侵入と失火との間、ないし失火と窃盗未遂との間に牽連関係ありとして処断したものと解するほかはない
  • 住居侵入とと窃盗未遂とは牽連犯になることはもちろんであるけれども、住居侵入と失火との間、又は失火と窃盗未遂との間には、その性質上、通常用いられるべき手段又は当然生ずる結果たる関係があるものとは到底認められない

と判示し、第一審の「住居侵入、窃盗未遂罪、失火罪の3罪は牽連犯の関係に立ち、科刑上一罪になる」との判決は誤りであると判断し、第一審の裁判所に裁判のやり直しを命じました。

 考え方の結論は、

  • 住居侵入と窃盗未遂罪は牽連犯の関係に立ち、科刑上一罪になる
  • 失火罪は、住居侵入と窃盗未遂罪とは独立して一罪を構成し、併合罪の関係に立つ

となります。

 犯罪事実としては、

 被疑者は、

第1 住居に侵入し、窃盗未遂罪を犯した

第2 失火罪を犯した

ものである

という構成の犯罪事実の書き方になります。

 第1事実の住居侵入罪と窃盗未遂罪は牽連犯となり1罪になる、第2事実の失火罪は独立して一罪になり、第1事実と第2事実は併合罪の関係になることが分かる書き方になります。

 これに対し、

被疑者は、住居に侵入し、窃盗未遂罪を犯した上、失火罪を犯したものである

というように、3つの罪が牽連犯として一罪になるような犯罪事実の書き方は誤りとなります。

窃盗罪と住居侵入罪との関係

 窃盗の目的で、他人の家や建物に侵入し、物を窃取した場合、住居侵入罪(または建造物侵入罪)(刑法130条)と窃盗罪が成立します。

 そして、住居侵入罪(または建造物侵入罪)と窃盗罪は、牽連犯の関係になります。

 この点について、以下の判例があります。

最高裁判例(昭和28年2月20日)

  • 住居侵入罪と窃盗罪とは、その被害法益及び犯罪の構成要件を異にし、住居侵入の行為は窃盗罪の要素に属せず、別個独立の行為である
  • しかも、通常、両罪の間には、手段結果の関係があることが認められるから、第一審判決が両罪を刑法54条1項後段のいわゆる牽連犯として取扱ったのは正当である

と判示し、住居侵入罪と窃盗罪は、観念的競合や併合罪ではなく、牽連犯の関係になるとしました。

窃盗罪と文書偽造罪との関係

 窃取した文書に加工をし、文書を偽造行使した場合、窃盗罪と文書偽造行使罪とは、牽連犯ではなく、併合罪になります。

 これは、

  • 窃盗罪と文書偽造行使とは、当然に手段と結果の関係に立たないため、牽連犯にはならない
  • それぞれ独立した1個の犯罪として成立するから、併合罪になる

という考え方になります。

 この点について、以下の判例があります。

大審院判例(大正7年4月2日)

 窃取した為替証書を偽造行使した事案で、窃盗罪と文書偽造行使罪の併合罪が成立するとしました。

大審院判例(大正2年2月3日)

 窃取した借用証書を偽造行使した事案で、窃盗罪と文書偽造行使罪の併合罪が成立するとしました。

 ちなみに、窃取した文書を偽造行使することについて、文書偽造行使罪は、不可罰的事後行為にはなりません。

 これは、

窃盗罪を遂げた後に行った事後行為が、財物を奪った状態が続く違法状態継続の法益侵害とは別に、文書の偽造行使という新たに別の法益侵害を生じさせることから、不可罰的事後行為にはならず、窃盗罪とは別の犯罪である文書偽造行使罪を成立させる

という考え方になるためです。

窃盗罪と支払用カード電磁的記録不正作出罪・同供用罪との関係

 キャッシュカードなどの磁気ストライプ部分を改ざんし,これを現金自動支払機(ATM機)などに挿入して現金を引き出した(窃取した)場合、支払用カード電磁的記録不正作出罪、同共用罪刑法163条の2)と窃盗罪は、牽連犯になります。

 この種の判例について、

  • キャッシュカードについて東京地裁判例(平成元年2月22日)
  • 競馬投票券について甲府地裁判例(平成元年3月31日)

があります。

窃盗罪と印章不正使用罪との関係

 印章を窃取し、窃取した印章を不正に使用した場合、窃盗罪と印章不正使用罪刑法167条)は、併合罪になります。

 この点について、大審院判例(明治45年5月23日)の判例があります。

窃盗罪と強盗罪との関係

 窃盗罪と強盗罪刑法236条)の関係については、以下の判例の傾向を追うことで理解を深めることができます。

高松高裁判例(昭和28年7月27日)

 この判例は、

  • 同じ家屋内で、まず金品を窃取し、続いてさらに暴行脅迫を加えて金品を強取した場合は、包括して単一の強盗罪を構成する

としました。

大阪高裁判例(昭和33年11月18日)

 同じ家屋内で、まず金品を窃取し、続いてさらに暴行脅迫を加えて金品を強取しようとしたが未遂に終わった事案で、窃盗罪と強盗未遂罪が成立し、両罪は包括一罪になり、重い強盗未遂罪の刑で処断するとしました。

 裁判官は、

  • 犯人が財物を窃取した後、引き継ぎ犯行現場において強盗の犯意をもって、同一被害者に対し、暴行又は脅迫の手段を講じて、更に財物を強取しようとしたが、遂げられなかった場合には、窃盗の既遂罪と強盗の未遂罪とを包括的に観察し、単に重い強盗の未遂罪のみによって処断すべきである
  • かかる場合に、犯人の動機、目的、窃盗の既遂行為、引き続く暴行又は脅迫の手段による強盗の未遂行為等一連の行為態様を包括的に観察し、強いて強盗既遂の一罪を認めようとする見解は、当裁判所の採らないところである

と判示しました。

最高裁判例(昭和32年3月5日)

 旅館において、まず客室において窃盗を行い、その後、別の居室で強盗を行った事案について、窃盗罪と強盗罪は併合罪になるとしました。

 裁判官は、

  • 旅館のように、各室ごとに宿泊客がその居室内の自己所有物件を所持していると認められる場合においては、たとえ一家屋内においてであっても、その侵害は窃盗を構成し、その後になされた旅館の女中の脅迫とその主人所有保管にかかる物の奪取を内容とする強盗とは別罪を構成し、その関係は併合罪となる

と判示しました。

最高裁判例(昭和61年11月18日)

 被害者を殺害して覚せい剤を奪取するため、まず欺罔行為を用いて覚せい剤を受け取り、次いで被害者を拳銃で狙撃したが殺害の目的を遂げなかった事案について、窃盗(または詐欺)罪と二項強盗殺人未遂罪のいわゆる混合包括ー罪として、重い後者の強盗殺人未遂罪の刑で処断すべきとました。

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