刑法(窃盗罪)

窃盗罪㉓ ~「窃盗罪は状態犯であること」「窃盗罪における不可罰的事後行為とその具体例」「不可罰的事後行為にならない事案」を判例などで解説~

窃盗罪は状態犯であること、窃盗罪における不可罰的事後行為

 窃盗罪は、窃取行為が既遂に達し、犯罪が終了した後も、違法状態が継続する状態犯です。

 状態犯とは、

犯罪の結果発生と同時に、犯罪は完了するが(既遂に達するが)、侵害行為(法益侵害)の状態が続く犯罪

をいいます。

 窃盗罪の場合は、犯罪は終了しても、

被害者の物を奪っている違法状態が継続する

ので、状態犯とされるのです。

 そして、状態犯を理解する上でのポイントは、

「被害者の物を奪っている違法状態」からは、窃盗罪とは別の犯罪を構成しない

という点です。

 理由は、窃盗罪が既遂に達した後の違法状態そのものは、既に窃盗罪によって責任を問うべき事項として、評価し尽くされているためです。

 なので、窃盗が既遂に達した後において、盗んだ財物を、壊したり、売却したりしても、器物損壊罪や横領罪は成立しません。

 窃盗罪のような状態犯において、違法状態が継続する中で、窃取品に対して、さらに犯罪行為に該当するような行為をしても、犯罪が成立しない現象を

不可罰的事後行為

といいます。

 なお、状態犯と不可罰的事後行為については、前の記事でも詳しく説明しています。

窃盗罪における不可罰的事後行為の具体例

 窃盗罪を遂げた後、窃取品を使用収益処分しても、不可罰的事後行為となり、別罪として成立しない犯罪を列挙します。

器物損壊罪

 窃取品を壊しても、不可罰的事後行為となり、器物損壊罪(刑法261条)は成立しません。

横領罪

 窃取品を自分の物として横領し、売却しても、不可罰的事後行為となり、横領罪(刑法252条)は成立しません。

盗品等運搬罪、遺失物横領罪

 窃取品を運搬し、売却しても、不可罰的事後行為となり、盗品等運搬罪(刑法256条)と遺失物横領罪(刑法254条)は成立しません。

 この点については、以下の判例があります。

札幌高裁判例(昭和27年3月8日)

 誰かが盗んで隠しておいたと思われる電線を、売却するために運搬したことで、盗品等運搬罪と遺失物横領罪の罪に問われた事案で、裁判官は、

  • 他人の占有に属する賍物不法領得する意思をもって運搬するときは窃盗罪が成立し、賍物運搬罪は成立しないものと解すべきである
  • よって、本件公訴事実のうち、賍物運搬の点は、これを窃盗罪と認めるのが正当である
  • また、遺失物横領の点は、事後処分として犯罪を構成しない

と判示しました。

不可罰的事後行為にならない事案

 窃盗罪を遂げた後に行った事後行為が、財物を奪った状態が続く違法状態継続の法益侵害とは別に、新たに別の法益侵害を生じさせるときは、不可罰的事後行為にはならず、別の犯罪を成立させます。

 たとえば、以下のような事案が挙げられます。

詐欺罪

 窃取品を売却するに際に、買主に対し、窃取品であることを隠して買い取らせ、買取金をだまし取った場合は、買主に対する詐欺罪(刑法246条)が成立します。

銃砲刀剣類所持等取締法違反、大麻取締法違反

 窃取した物が、拳銃や大麻などのように、所持が刑事罰をもって禁止されているものである場合には、窃取後の所持については、不可罰的事後行為にはならず、不法所持罪(拳銃➡銃砲刀剣類所持等取締法違反、大麻➡大麻取締法違反)が成立します。

 これは、窃盗行為によって評価し尽くされている違法状態というのは、被害者の占有を侵しているという意味での違法であるためです。

 拳銃や大麻の所持については、公共の安全の確保といった別個の法益の侵害が発生するため、この法益侵害は窃盗罪によって評価し尽くされているとは言えません。

 よって、窃盗罪とは別に、銃砲刀剣類所持等取締法違反や大麻取締法違反といった別罪が成立するのです。

 この点については、以下の判例で明らかにされています。

札幌高裁判例(昭和25年12月25日)

※拳銃についての判例

 この判例で、裁判官は、

  • 窃盗罪は財産罪であって、刑法がこれによって保護するところの法益は、すなわち被害者の財産権であるから、たとえ、その盗品を犯人が処分したとしても重ねてこれについて横領罪その他の財産罪は成立しないものである
  • しかしながら、同一の盗品についても、その被害法益を異にする他の犯罪は、窃盗罪のほかに重ねて成立することを妨げるものではない
  • したがって、拳銃が同一被告人の窃取にかかるものであっても、それは別に窃盗罪と法益を異にする銃砲等所持禁止令違反罪として成立するものといわなければならない

と判示し、窃盗罪により窃取した拳銃を所持する行為は、不可罰的事後行為にならず、窃盗罪とは別に、銃砲刀剣類所持等取締法違反(銃砲等所持禁止令違反)を成立させるとしました。

最高裁判例(昭和24年3月5日)

※大麻についての判例

 この判例で、裁判官は、

  • 被告人の本件麻薬の所持が、窃盗によったものであったとしても、窃盗事後の財物の所持が、更に他の法益を侵害する場合は、窃盗罪のほかに、更にその他の罪を構成する
  • そこで本件は、麻薬を所持すること自体が犯罪を構成するものである

と判示し、窃盗罪により窃取した大麻を所持する行為は、不可罰的事後行為にならず、窃盗罪とは別に、大麻取締法違反を成立させるとしました。

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