法律(刑法)

窃盗罪⑥ ~「占有者の同意(承諾)と窃盗罪の成否」を判例などで解説~

占有者の同意(承諾)と窃盗罪の成否

 窃盗罪において、窃取とは、目的物を占有者の意思に反して、目的物の占有を移転することです。

 なので、その占有移転について、占有者の同意(承諾)ある場合には、窃取行為があるものとはいえず、窃盗罪は成立しません。

 たとえば、友人から

「そこにある私が買ったお菓子は持って帰っていいよ」

と言われたので、そのお菓子を自分の物にして持ち帰った場合、占有者の同意(承諾)がある場合に該当するので、窃盗罪はしません。

 一般に、被害者の同意(承諾)は、違法性阻却事由となる場合が多いです(詳細は前の記事で解説しています)。

 窃盗罪においては、窃取という概念自体が、「占有者の意思に反している」という意味を含んでいるので、被害者の同意(承諾)がある占有移転行為は、そもそも窃取の概念に含まれないことから、構成要件該当性阻却され、犯罪が成立しません。

 なお、ここにいう占有者の同意(承諾)には、事前に明示になされたもののみならず、推定的承諾も含まれます。

 また、財物の所有者と占有者とが異なる場合においては、所有者・占有者双方の同意(承諾)が必要になるかどうか疑問点としてあげられます。

 この疑問に対する答えは、所有者・占有者双方の同意は必要ではなく、占有者の同意(承諾)があれば足りるとなります。

 理由は、窃盗罪の構成要件要素である窃取という概念は「占有者の意思に反してとる」という意味なので、占有者の同意(承諾)があれば足ると解されるからです。

窃盗罪で占有者の同意(承諾)の有無が争点となった判例

不正に入手したキャッシュカードを用いてATM機から現金を引き出した行為についての判例

 犯人が、不正に入手したキャッシュカードを用いて、実際には返済の意思がないのに現金自動支払機(ATM機)から現金の引出しをする行為について、

  • 不正に入手したキャッシュカードとはいえ、そのカードは正規のカードなのだから、ATM機内の現金の占有者は、そのカードを使って現金を引き出すことに同意を与えている
  • だから窃盗罪は成立しないのではないか?

という点が議論になりました。

 カードのシステムにおいて、カード発行の時点においては、カード会員の利用代金返済の意思・能力について審査が行われます。

 しかし、いったんカード発行がされてしまえば、カード利用の時点においては、支払の意思・能力についての審査が一切なされません。

 なので、カードの利用限度額以内の現金の引出しについては、現金の占有者(カード会社役員やATM管理者など)が、利用者の返済の意思・能力の有無にかかわりなく、現金の引き出しを包括的に承諾しているとも考えられます。

 よって、カードを使ってATM機からの現金の引き出す行為は、被害者の同意(承諾)がある行為であるため、窃盗罪は成立しないという考え方もなし得ます。

 この点に関し、以下の判例で結論が出されています。

最高裁判例(平成14年2月8日)

 この判例において、不正に入手したカードを使ってATM機からの現金を引き出す行為は、被害者の同意(承諾)がないとして、窃盗罪の成立を認めました。

 この判例の事案は、消費者金融会社の係員を欺いて、他人名義でローンカードの交付を受けた上、そのカードを使って現金自動入出金機(ATM機)から現金20万円を引き出したというものです。

 裁判官は、

  • ローンカードの交付を担当した係員は,現金自動入出機内の現金を被告人に対して交付するという処分行為をしたものとは認められない
  • 係員を欺いてローンカードを交付させた点につき詐欺罪の成立を認めるとともに,ローンカードを利用して現金自動入出機(ATM機)から現金を引き出した点につき窃盗罪の成立を認めた原判決の判断は,正当である

と判示し、係員を欺いてローンカードを交付させた点については詐欺罪が成立するとし、ATMから現金20万円を引き出した点については窃盗罪が成立すると判断しました。

送金銀行の手違いで過剰入金された現金を自己のキャッシュカードを用いてATM機から引き出した行為についての判例

東京高裁判例(平成6年9月12日)

 送金銀行の手違いで、自己の預金口座に過剰入金された現金を自己のキャッシュカードを用いてATM機から引き出した事件について、窃盗罪が成立するかが争われました。

 裁判官は、

  • 預金口座の名義人に正当な払戻し権限がある場合であっても、債券債務関係が成立しているだけである
  • 銀行の現金自動支払機内の現金について、預金口座の名義人が事実上これを管理するとか、所持するとか、占有するとかいう立場にはない
  • 本件は、送金した銀行側の手違いにより、誤って被告人の預金口座に入金があったに過ぎず、被告人に正当な払戻し権限のない場合である
  • よって、自動支払機内の現金について、被告人が管理者であるとか、被告人がこれを所持(支配)していたということはできないことはもとより、被告人が法律上の占有を取得することもないと解される
  • したがって、本件については、横領罪の成立する余地はなく、詐欺罪が問題とならないことも明らかであり、銀行の現金に対する占有を侵害したものとして、窃盗罪が成立する

などと判示し、過剰送金された現金とはいえ、銀行が管理し、占有する現金を窃取したとして、窃盗罪の成立を認めました。

 考え方は、

  • 銀行は、過剰送金された現金について、預金口座の名義人に対し、引き出すことの同意(承諾)を与えていない
  • だから窃盗罪が成立する

となります。

福岡高裁判例(昭和44年4月9日)

 この判例は、釣堀で経営者が許容していた方法以外の方法で鯉を取得した行為について、窃盗罪が成立すると判示しました。

 裁判官は、

  • 本件釣堀で釣り上げる魚は、その口に釣針がかかり、その釣糸をつまんで引き上げる方法によってのみ取得するべきものである
  • これに反する方法または手段による魚の取得は、単に釣堀規約に反するのみにとどまらず、所有者たる釣堀経営者の意思に反して、魚の所持を侵奪し、これを自己に移すものであって、それが公然たるとひそかになされようと、領得の意思に基づく限り、窃盗行為に問擬し得べく、違法であることは明らかである
  • 本件釣堀においては、指定の釣具以外は使用できず、魚の口に釣針がかかっても、糸をたぐり上げることに技術が介入し適切に操作しない限り、糸または魚の口が切れるなどして、大半は取得できないことは明らかであって、釣針にかかった魚を水面まで持ち上げても、これにより占有の移転があったとは到底認められない
  • 被告人は、規約に違反して魚を取得することが許されないことも十分知りながら、口以外に釣針がかかった鯉または口にかかった鯉を水槽に手を入れてつかみ上げ、これを持ち去ったのであるから、たとえ釣りを始めるに当たり、料金を支払っていても、被告人に不法領得の意思があったものと認めるに十分である

と判示し、窃盗罪の成立を認めました。

 考え方は

  • 釣り堀の経営者は、指定した方法以外の方法で鯉をとることに対して、同意(承諾)を与えていない
  • だから指定された方法以外の方法で鯉をとれば窃盗罪が成立する

となります。