前回の記事の続きです。
偽証罪と①証拠隠滅罪、②虚偽告訴罪、③詐欺罪との関係
偽証罪(刑法169条)と
との関係を説明します。
① 証拠隠滅罪との関係
証拠隠滅罪(刑法104条)は偽証罪を包含するものではなく、構成要件を異にする別個の犯罪なので、偽証を教唆をし、虚偽の証言をさせて証拠隠滅をした場合は、偽証教唆罪と証拠隠滅罪がそれぞれ成立します。
この点に関する以下の裁判例があります。
裁判所は、
- 偽証罪の規定は宣誓によって担保された供述の正確性を保持し、よって国権の作用、ことに司法裁判権の行使を誤らざらしめんことを目的として設けられたのに対し、証拠隠滅罪の規定は具体的個別的な各個の事件について、正確な国家刑罰権の行使に関する認定を誤らざらしめんことを目的として定められたものであるから、互にその構成要件を異にする別個の犯罪であり、従って、刑法第146条にいわゆる証拠の湮滅又は証拠の偽造変造の罪の中には同法第169条の偽証罪を包含するものではないと解すべきである
- それ故、他人の刑事被告事件に関し、苟も法律により宣誓した上、虚偽の陳述を為した以上、たとえその証言事項が自己の犯罪事実に関係があるとしても偽証罪の成立を妨げないものというべきである
と判示しました。
大審院判決(昭和12年11月9日)
証拠隠滅教唆罪(偽造証拠使用教唆)と偽証教唆罪は、別個の犯罪として成立するとした判決です。
裁判所は、
- 偽造証拠使用罪と偽証とは、等しく国家の審判権を危殆ならしむる犯罪なりといえども、ひとつが物的証拠に関するものなるに反し、他は人的証拠に関するものにして、自らその犯罪構成要件を異にするが故に、偽造証拠使用を教唆したればとて、当然に偽証教唆を伴うものに非ず
と判示しました。
② 虚偽告訴罪との関係
人をして刑事処分を受けさせる目的で捜査機関に虚偽の申告をした行為(虚偽告訴罪:刑法172条)と、その申告の結果、他人が被告人として取調べを受けるに際し、その証人として、宣誓の上、申告した事実と同一趣旨の虚偽の事実を証言する行為(偽証罪)とは、各独立の犯罪を構成します。
そして、両罪は、併合罪の関係にあると解すべきとされます。
この点に関する以下の判例があります。
大審院判決(大正元年8月6日)
裁判所は、
- 人をして刑事の処分を受けしむる目的をもって虚偽の申告を為したる行為と右申告の結果、他人が被告人として取調べを受くるに際し、その証人として該申告事実と同一旨趣の供述を為したる行為とは、全然別個の行為として各別個の罰条に触るるものなるが故に右2個の行為は各独立の犯罪を構成するもの
と判示し、虚偽告訴罪と偽証罪の両罪が成立するとしました。
③ 詐欺罪との関係
1⃣ 財物詐取の目的をもって提起した民事訴訟(訴訟詐欺)において、犯人が偽証したときは、偽証の行為は、詐欺の手段の関係にあり、偽証罪と詐欺罪は牽連犯の関係になります。
この点を判示したのが以下の判例です。
大審院判決(大正2年1月24日)
詐欺訴訟を提起し、その目的を達するため偽証をした場合、偽証罪と詐欺罪が成立し、各罪は手段と結果の関係に立ち、併合罪ではなく、牽連犯になるとした判決です。
裁判官は、
- 数人相謀り、財物騙取の目的をもって、虚構の事実に基づき、民事訴訟を提起したる場合に、共謀者の一人がその目的を達するため、偽証をなしたるときは、その行為は、詐欺罪の手段にほかならざるをもって、刑法第54条にいわゆる犯罪の手段たる行為にして、他の罪名に触れるものとす
と判示し、手段と結果の関係にある偽証罪と詐欺罪は、牽連犯の関係になるとしました。
2⃣ 詐欺罪を犯す者がその手段として人を教唆し偽証をなさしめたるときは、偽証教唆罪と詐欺罪は、手段結果の関係があり、牽連犯になります。
この点を判示したのが以下の判例です。
大審院判決(大正5年5月29日)
詐欺訴訟を提起し、他人を教唆して偽証させた場合、偽証教唆罪と詐欺罪(詐欺未遂罪)は、手段と結果の関係に立ち、併合罪ではなく、牽連犯になります。
裁判官は、
- A及びBがCと共謀して、DよりCに対する賃金請求事件につき、裁判所を欺罔し、Cをして不法の利益を獲得せしむるため、特約付きの借用証書を偽造し、丙の詐称代理人に交付して裁判官に提出せしめ、かつ、これに牽連して、Aは該証書の特約文詞及び宛名が申請に成立したるものの如く虚偽の証言をなさんことをBに教唆し、偽証をなさしめ、裁判所を欺罔したるも、事発覚して詐欺の目的を遂げ得ざりし場合には、その偽証行為と詐欺未遂行為との間に手段結果の関係あるをもって、刑法第54条第1項の規定を適用すべきものとす
と判示し、偽証教唆罪と詐欺未遂罪は、手段と結果の関係に立ち、牽連犯になるとしました。