前回の記事の続きです。
賭博罪の罪数の考え方
同日、同一場所で、同一被告人が同一の賭博を実行した場合においては、賭博参加者に変動があったとしても、単一の賭博罪を構成するにとどまるとする判例があります。
大審院判決(大正6年10月11日)
裁判所は、
- 同日同一の場所において同一の被告人が同一の賭博を実行しある場合においては、時々賭博參加者に変動ありたるときといえども、単一の賭博罪を構成するにとどまるものとす
と判示しました。
ただし、賭博罪は、当事者間の財物の得喪についての約束を基礎とするものであることから、その約束の範囲を外れるものについては、別個の賭博罪を構成するとする判例があります。
大審院判決(昭和13年8月30日)
裁判所は、
- 右撞球競技一回にして中止されず、競技数回実行さるるに至るも、その行為は当初の約束の範囲内に属するものと認めらるる場合は、ビン倒回の回数にかかわらず参加者に時々変動あるも、全部を包括して単純なる1個の賭博罪成立するに過ぎざるものとす
- 蓋し、賭博は偶然の事情により財物を得喪する約束をすることに重きを置く犯罪なるが故に、苟もその約束のうちに含むものと認めらるる行為は全てこれを包括して観察するを妥当とすべければなり
とし、賭博行為が約束の範囲内であれば参加者に変動があっても1個の賭博罪を成立するとし、裏を返せば、賭博行為が約束の範囲外であれば、数個の賭博罪が成立する旨を判示しました。
なお、賭博罪が一罪と評価できるのは極めて限定的な場合に限られると判示した以下の裁判例があります。
福岡高裁宮崎支部判決(昭和60年8月20日)
裁判所は、
- 単純賭博罪は、いわゆる単純行為犯ないしは行態犯を呼ばれるものに属し、偶然の輪えい(勝敗)に関し、当事者間において相互に財物の得喪についての合意が成立すれば足り、賭事または博戯の開始があれば同時に既遂に達し、具体的な合意が成立するごとに、それぞれ別個の犯罪が成立する性質のものであることなどに照らすと、単純賭博においては、同一人の数回にわたる賭博行為を全体的に包括して1個の犯罪に該当すると評価するのを相当とするのは、極めて例外的な場合に限られるというべきである
- 被告人の本件8回に及ぶ各賭博は、いずれもA、B両候補の得票数の多寡を偶然の輸えい(勝負)とし、賭けの条件を等しくするほか、原判示(中略)ごとにこれをみると、その相手方、共犯者、仲介者、賭け金の保管方法、犯行の方法、形態等につき一定の共通性を有し、 また賭博の日時、場所等もある程度近接しているものの、賭博の動機、機会は単一ではなく、被害法益が同一であるともいい難く、また、犯意が単一ないしは継続してなされたものとは認められず、これを単純賭博罪の罪質及び立法の趣旨にも照らしてみると、右8回の賭博行為を全体としてみるときはもとより、その相手方ごとに、すなわち、原判示(中略)3個に分けてみても、そのそれぞれを包括して1個の罪(全部で3個の罪)として評価するのが相当であるとも認められず、むしろ右8個の行為はそれぞれ別個の罪を構成するものと解するのが相当
と判示しました。