刑法(賭博罪)

賭博罪(2)~「賭博及び宝くじに関する罪(刑法23章)の処罰規定の合憲性」を説明

 前回の記事の続きです。

賭博及び宝くじに関する罪(刑法23章)の処罰規定の合憲性

 刑法23章の規定については、これまで、憲法13条等に反し無効であるとの主張がなされたり、あるいは外形上は賭博賭場開張、富くじ発売等に該当する行為(競輪競馬、競艇、宝くじ等)が適法化されていることなどを根拠として無効となったとの主張がなされたことがあります。

 しかしながら、判例・裁判例は一貫して、本章の一連の規定は憲法13条その他の基本的人権に関する諸規定に反するものではない旨以下のとおり判示しています。

  1. 憲法13条その他の基本的人権に関する諸規定に反するものではない(東京高裁判決 昭和25年5月1日)
  2. 賭博罪に関する刑法の規定が憲法に違反するものでないことは当裁判所大法廷判例(昭和25年11月22日大法廷判決参照)の趣旨に徴し明らかである(最高裁判決 昭和26年12月7日
  3. 刑法186条2項の賭場開張図利罪の規定が憲法13条に違反しないことは昭和25年11月22日大法廷判決の明らかにしているところである(最高裁判決 昭和28年6月18日最高裁判決 昭和37年4月24日
  4. 刑法第185条および186条の規定が憲法14条に違反するものでないことは、当裁判所昭和25年11月22日大法廷判決の趣旨に徴し明らかである(最高裁判決 昭和42年12月15日
  5. 刑法186条2項所定の賭博場開張図利行為が、風俗を害し、公共の福祉に反するもので、実質的に違法であることは、最〔大〕判昭25・11・22集4巻11号2380頁の趣旨に徴し明らかであり、また、右規定は、同条項に規定する行為を何人に対しても禁止し、これに違反したものを無差別に処罰するものであるから、所論はいずれも前提を欠く(最高裁判決 昭和45年5月29日最高裁決定 昭和50年5月26日

競輪、競馬、競艇、宝くじ等が適法化されていることと本章の罪との関係

 競輪、競馬、競艇、宝くじ等が適法化されていること等から本章の一連の規定は無効となったというべきではないかとの点に関し、最高裁判決(昭和25年11月22日)は、

  • 政府ないし都道府県が自ら賭場開張図利又は富くじ罪と本質上同一の行為をなすこと自体の適法性や、これを認める立法の当否は問題となり得るが、現に犯罪行為と本質上同一であるある種の行為が行われているという事実並びにこれを認めている立法があるということだけから国家自身が一般に賭場開張図利行為ないし富くじ発売行為を公認したものとか、本章の規定が当然に失効したものということはできない

としています。

 このほかこの点を判示した判例として、以下のものがあります。

最高裁決定(昭和26年5月1日)

 裁判所は、

  • 賭博及び富籤に関する行為が風俗を害し公共の福祉に反するものというべきこともちろんであって、政府ないし都道府県が自ら賭場開張図利若くは富籤罪と本質上同一の行為を為すこと自体が適法か否か又これを認める立法の当否は問題となるが、現に犯罪行為と本質上同一である ある種の行為が行われているという事実並にこれを公認している立法があるということだけから国家自身一般に賭博並に富籤に関する罪を公認したものとかこれが処罰を定めた刑法第23章賭博及び富籤に関する条項が当然に失効したものということはできない

と判示しました。

最高裁判決(昭和28年5月26日)

 裁判所は、

  • 所論は、要するに賭博はすでに法律制度の上において無罪とされた行為であり、刑法にいわゆる賭博罪の規定はもはや適用すべからざるものであるという理由のもとに原判決の違憲を主張するのであるが、その主張の前提とする競馬、競輪、宝くじを公認する立法があるからといって、直ちに刑法における賭博及び富くじに関する罪の規定が廃止されたものと解すべきものでないことは当裁判所の判例とするところである(昭和25年伽第280号同年11月22日大法廷判決参照

と判示しました。

最高裁判決(昭和28年6月18日)

 裁判所は、

  • 政府ないし都道府県が競馬、競輪等を許し、これを公認している立法があるということから、国家自身一般に賭博に関する罪を公認したものであるとか又はこれが処罰を定めた刑法賭博罪に関する規定が当然失効したものであるとかいうことのできないことは当裁判所のすでに判例とするところである

と判示しました。

最高裁決定(昭和50年11月7日)

 裁判所は、

  • 国又は地方公共団体が主催する所論のような行為は、立法政策上許容されているにとどまるものであるから、このことの対比から私人の行う賭博行為の可罰性を否定することはできず、所論は前提を欠き…

と判示しました。

最高裁決定(昭和53年7月21日)最高裁決定(昭和54年2月1日)最高裁決定(昭和57年11月19日)

 裁判所は、

  • 所論のような行為が公認されていることとの対比から私人の行う賭博行為の当罰性を否定すべきか否かは立法政策上の問題であるにとどまり憲法適否の問題ではない

と判示しました。

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