刑法(賭博罪)

賭博罪(22)~「賭博罪の『賭博用具』の没収の考え方」を説明

 前回の記事の続きです。

 前回の記事では、賭博罪の「賭金」の没収の考え方を説明しました。

 今回の記事では、賭博罪の「賭博用具」の没収の考え方を説明します。

賭博罪の「賭博用具」の没収の考え方

1⃣ 賭博罪(刑法185条)において、「賭博用具」は犯罪供用物件(犯罪行為の用に供した物、刑法19条1項2号前段)として没収できます。

 没収とは、物の所有権をはく奪して国の物にする処分のことをいいます。

 没収は、裁判の判決において言い渡されます。

 没収の対象となる物は以下の6種類です。

  1. 犯罪組成物件(犯罪行為を組成した物。例えば、賭博罪における賭金)
  2. 犯罪供用物件(犯罪行為の用に供し、又は供しようとした物。例えば、殺人罪で使用したナイフ)
  3. 犯罪産出物件(犯罪行為によって生みだされた物。例えば、文書偽造罪の偽造文書)
  4. 犯罪取得物件(犯罪行為によって犯人が得た物。例えば、賭博罪で勝って得た金銭)
  5. 犯罪報酬物件(犯罪行為の報酬として得た物。例えば、窃盗罪の見張りをした報酬)
  6. 犯罪産出・取得・報酬物件の対価(③産出物件、④取得物件、⑤報酬物件の対価として得た物。①組成物件と②供用物件の対価は該当しない。例えば、窃盗罪で盗んだ物を売って得た金銭)

 「賭博用具」は②の犯罪供用物件(犯罪行為の用に供した物、刑法19条1項2号前段)として没収できることを判示した以下の判例があります。

大審院判決(明治44年2月16日)

 裁判所は、

  • 刑法第19条第1項第1号の犯罪行為を組成する物とは、法律上、賭博行為の構成要件となれる物件をいうものにして、チーハ―用印判、チーハ―用紙の如きは、たとえチーハ―と称する賭博を為すに必要なる用具なりとするも、法律上、賭博罪の構成要素となれる物件に非らざるをもって、原審がこれを犯罪行為を組成するものとなさずして、賭博に使用し又は使用せんとしたるものと説示し、同条項第2号を適用したるは正当にして不法に非ず

と判示しました。

2⃣ ゲーム機賭博におけるゲーム機につき、現に客が使用していたものは犯罪行為の用に供した物(刑法19条1項2号前段)として、店舗内に設置されてはいたが現に使用されてはいなかったものは犯罪行為の用に供しようとした物(刑法19条1項2号後段)として、それぞれ没収することができます。

 この点を判示したのが以下の裁判例です。

東京地裁判決(昭和58年9月27日)

 裁判所は、

  • 本件賭博機械9台のうち8台は、判示期間中の本件犯行の用に供した物であり、他の1台はこれに供しようとした物であり

と判示しました。

広島高裁判決(昭和59年2月29日)

 裁判所は、

  • 本件チェッカーのうちの1台が、供用物件であることは所論も争っていないのであり、更に残り25台が供用物件に当たらないことは証拠上問題がないから、問題は右25台のチェッカーが「犯罪行為に供しようとした物」といえるか否かである
  • ところで、右にいう「犯罪行為に供しようとした物」とは犯罪構成要件に該当する行為の遂行に使用する目的で用意したが、現実に使用されないで終ったものをいうと解されるところ、被告人は常習として賭博をしようと企て、そのためチュッカー遊技機26台を設置していたこと、しかも現実に右のうち1台を犯罪行為に供していることは、いずれも証拠上否定できず、而して、本件犯行が常習一罪(包括一罪)であることを考えると、(つまり、仮に未使用の右25台の全部、もしくは一部を犯行に供したとしても、それは別罪を構成するものではなく、右1台のチェッカーにより既に遂行された行為と包括して一罪となる関係にある)結局、残余の右チェッ力-25台は「犯罪行為に供しようとした物」というべきであり、その全部を没収することも許される

と判示しました。

東京地裁判決(昭和59年7月26日)

 裁判所は、

  • 本件遊技機6台は、Aが店に入って来て賭博をしようと考えた時点においては同人は6台のうちどれを選択することも可能であったわけであり、被告人においても6台のうちいずれをも賭博の用に供しようとしていたものであるから、右Aが実際に賭博に用いた遊技機は犯罪行為に供したものであり、その余の遊技機は犯罪行為に供せんとしたものというべきであり、いずれも、刑法19条1項2号の物件にあたる

と判示しました。

3⃣ ゲーム機の鍵はゲーム機の従物であるから、犯罪供用物件として刑法19条1項2号により没収できるとした裁判例があります。

東京地裁判決(昭和58年9月27日)

 裁判所は、

  • 押収してある鍵2束は右賭博機械9台の各従物であり…

と判示し、没収できるとしました。

東京地裁判決(昭和59年11月5日)

 裁判所は、

  • 鍵3束と鍵8個及びコイン合計169個は右遊技機の従物であるから、これらは刑法19条1項2 号の物件にあたる

と判示しました。

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