併合罪とは?
併合罪とは、
確定判決を間にはさんでいない2個以上の犯罪
をいいます(刑法45条)。
「確定判決を間にはさんでない」という部分は、のちほど説明します。
併合罪は、
2個以上(複数)の犯罪を犯した場合、犯した複数の犯罪事実すべてについて、一つの裁判で審理され、すべての犯罪事実をひっくるめて考慮された刑罰が裁判官から言い渡される
というイメージでとらえればOKです。
複数の犯罪を犯した場合、一つ一つの犯罪事実ごとに裁判にかけられ、一つ一つの犯罪事実ごとに刑罰は言い渡されません。
犯した複数の犯罪が「併合罪」という取り扱いをされることにより、一つの裁判で、一括して刑罰を言い渡すことができるのです。
たとえば、ある犯人が、窃盗罪1つ、詐欺罪1つ、傷害罪1つの合計3つの犯罪を犯したとします。
この3つの犯罪は、併合罪として取り扱われるので、犯人は、窃盗罪、詐欺罪、傷害罪の3つの犯罪事実で起訴されて裁判を受け、裁判官から1個の刑罰を言い渡されることになります。
「確定判決を間にはさんでない」という意味について
併合罪の定義は、
確定判決を間にはさんでいない2個以上の犯罪
です。
「確定判決を間にはさんでいない」という部分について説明します。
たとえば、犯人が、A罪、B罪、C罪、D罪を犯したとします。
(犯行日は、A罪→B罪→C罪→D罪の順)
さらに、ここで、B罪とC罪の間に、
Z罪(犯人が過去に犯した罪で、すでに裁判にかけられて判決の言い渡しを受けている罪)
があったとします。
すると、本来であれば、A罪、B罪、C罪、D罪は4つまとめて併合罪の扱いを受け、4つまとめた分の刑罰が言い渡されるところですが、Z罪を間にはさむことで、そうはなりません。
この場合、A罪とB罪の2つの罪で併合罪の扱いを受け、2つの罪分の刑罰が言い渡されることになります。
C罪とD罪についても、この2つの罪で併合罪の扱いを受け、2つの罪分の刑罰が言い渡されることになります。
犯した複数の犯罪の間に、過去に確定判決を受けている犯罪が入ることで、併合罪が分断されるのです。
こうなる理由は、後ほど説明する「同時審判の利益」という考え方が影響するためです。
さらに詳しい説明
『犯した複数の犯罪の間に、過去に確定判決を受けている犯罪が入ることで、併合罪が分断される』という説明をしましたが、ここでいう確定判決は、
禁錮以上の刑の言い渡しを受けた確定判決(刑法45条後段)
をいいます。
刑の種類は、刑が重い順に、①死刑、②懲役刑、③禁錮刑、④拘留、⑤罰金、⑥科料の6種類があります。
「禁錮以上の刑」とは、①死刑、②懲役刑、③禁錮刑の3つの刑を指します。
つまり、『犯した複数の犯罪の間に、過去に確定判決を受けている犯罪が入ることで、併合罪が分断される』をより正確にいうと、
『犯した複数の犯罪の間に、過去に禁錮以上の刑の言い渡しを受けた確定判決を受けている犯罪が入ることで、併合罪が分断される』
となります。
裏を返せば、
犯した複数の犯罪の間に入る罪が、禁錮刑より軽い罪である ④拘留、⑤罰金、⑥科料の刑の言い渡しを受けた確定判決を受けている犯罪の場合は、併合罪は分断されない
ということになります。
つまり、犯した複数の犯罪の間に確定判決があったとしても、その確定判決が、禁錮刑より軽い罪である ④拘留、⑤罰金、⑥科料の刑の言い渡しを受けた確定判決であった場合は、併合罪は分断されず、ひとかたまりの併合罪として扱うことになります。
同時審判の利益とは?
同時審判の利益とは、
- 複数の犯罪を犯した場合に、全ての罪を1つの裁判で審理してもらう
- そうすることで、全ての罪をひっくるめた1つの刑罰が言い渡されることになり、犯人にとって利益(有利)となる
ことをいいます。
たとえば、A罪、B罪、C罪、D罪を犯したとして、別々の機会の裁判を受け、それぞれの裁判官から、それぞれ4つの刑罰を言い渡されるより、4つの罪をまとめて1つの裁判で受け、1人の裁判官から4つの罪をひっくるめた1つの刑罰を言い渡された方が、軽い刑罰ですみます。
たとえば、別々に裁判を受けてしまうと、A罪で懲役1年、B罪で懲役1年、C罪で懲役1年、D罪で懲役1年の合計4年といった懲役刑を受けてしまいます。
しかし、4つ罪をひっくるめて1つの裁判で受けることができれば、言い渡される刑罰は、A罪、B罪、C罪、D罪をひっくるめて懲役2年といった刑罰になります。
同時に裁判を受けることができた方が、刑は軽くなります。
これは、刑法47条において、
『併合罪のうちの2個以上の罪について有期の懲役又は禁錮に処するときは、その最も重い罪について定めた刑の長期にその2分の1を加えたものを長期とする』
と規定しているからです。
この意味は、
2個以上の犯罪を犯した場合、単純に1個1個の罪の重さを合計した刑罰を科すのではなく、刑を加重する(刑の単純な合計ではなく、最も重い罪の2分の1分重くする)
という意味になります。
刑の重さは、単純合計するよりも、少し重くするという扱いをされた方が、軽い刑ですみます。
なお、併合罪の規定の趣旨について判示した以下の判例があるので、参考に紹介します。
この判例で、裁判官は、
- 刑法47条は、併合罪を構成する個別の罪について暫定的にせよ刑の量定を行うことなく、併合罪を構成する各罪全体について包括的に1個の処断刑の枠を決め、その処断刑によって併合罪を構成する各罪を一体として評価し、統一的な刑の量定を行うこととする趣旨の規定である
と判示し、併合罪の規定の趣旨は、併合罪を構成する各罪を一体として評価し、統一的な刑の量定を行うこととする趣旨であることを明示しました。
「併合罪」と「同時審判の利益」の関係
たとえば、犯人が、A罪、B罪、C罪、D罪を犯したとします。
さらに、ここで、B罪とC罪の間に、
Z罪(犯人が過去に犯した罪で、すでに裁判にかけられて判決の言い渡しを受けている罪)
があったとします。
なお、犯行日(犯罪の順番)は、A罪、B罪、C罪、D罪の順とします。
ここで、本来であれば、Z罪は、A罪とB罪と同時に裁判を受け、A罪、B罪、Z罪の3つをひっくるめた1つの刑罰を受けることができたわけです。
前述の「同時審判の利益」の説明のとおり、同時に裁判を受けることができた方が、刑罰は軽くすみます。
つまり、Z罪には、A罪とB罪との関係で、「同時審判の利益」があったわけです。
ここで、Z罪の「同時審判の利益」を無視して、A罪、B罪、C罪、D罪の4つを併合罪として1つの刑罰を科してしまうと、犯人にとっては、不利な刑(重い刑)が科されてしまいます。
そこで、不利な刑が科されないように、以下のような扱いをします。
まず、Z罪の「同時審判の利益」が無視されないように、A罪、B罪、Z罪を1つの併合罪として、A罪、B罪、Z罪を合わせて審理した場合の1つの刑罰を科します。
(Z罪は、すでに判決が出ていて刑罰が科されているでの、A罪、B罪、Z罪を併合罪として審理した場合の刑の重さを出し、そこからZ罪の刑の重さを引くという考え方になります)。
次に、C罪、D罪を1つの併合罪として1つの刑罰を科します。
判決の内容としては、A罪とB罪を合わせて懲役〇年、C罪とD罪を合わせて懲役〇年というかたちで、刑を2つに分けて言い渡すことになります。
【ポイント】刑を2つに分けて言い渡すのは、Z罪が禁錮以上の刑の確定判決の場合である
先ほど、併合罪が分断される場合のより詳しい説明として、
『犯した複数の犯罪の間に、過去に禁錮以上の刑の言い渡しを受けた確定判決を受けている犯罪が入ることで、併合罪が分断される』
という話をしました(刑法45条後段)。
なので、A罪とB罪を合わせて懲役〇年、D罪とC罪を合わせて懲役〇年というかたちで、刑を2つに分けて言い渡す場合とは、間に入るZ罪の確定判決が、禁錮以上の刑の言い渡しを受けた確定判決の場合に限ります。
裏を返せば、Z罪の確定判決が、禁錮より軽い「拘留」、「罰金」、「科料」の刑の言い渡しを受けた確定判決だった場合は、A罪、B罪、D罪、C罪は分断されず、1個のかたまりの併合罪となり、A罪、B罪、C罪とD罪を合わせて懲役〇年というかたちで、1つの刑を言い渡すことになります。
併合罪の刑の重さの計算方法
たとえば、窃盗罪1つ、詐欺罪1つ、傷害罪1つの合計3つの犯罪を犯した犯人に刑罰を科す場合を考えます。
この3つの犯罪は、併合罪の関係にあり、刑の計算にあたっては、刑法47条が適用されます。
刑法47条は、
- 併合罪のうちの2個以上の罪について、有期の懲役又は禁錮に処するときは、その最も重い罪について定めた刑の長期にその2分の1を加えたものを長期とする
- ただし、それぞれの罪について定めた刑の長期の合計を超えることはできない
と規定しており、このルールにのっとって計算します。
【計算】
窃盗罪の法定刑は、10年以下の懲役 or 50万円以下の罰金です。
詐欺罪の法定刑は、10年以下の懲役です。
傷害罪の法定刑は、15年以下の懲役 or 50万円以下の罰金です。
刑の長期(最も重く処罰した場合の刑の上限)は、『最も重い罪について定めた刑の長期にその2分の1を加えたものを長期とする』とあるので、傷害罪の懲役15年に、7年6月(15年の2分の1)を加えた数である22年6月になります。
15年+7年6月=22年6月
よって、この例の場合は、犯人は懲役22年6月の範囲内の刑罰を科されることになります。
計算パターン2
刑法47条に『それぞれの罪について定めた刑の長期の合計を超えることはできない』とありますが、この意味について、別の例を用いて説明します。
窃盗罪の法定刑は、10年以下の懲役 or 50万円以下の罰金です。
暴行罪の法定刑は、2年以下の懲役 or 30万円以下の罰金です。
この場合、刑の長期は、最も重い窃盗罪の懲役10年に、5年(10年の2分の1)を加えた数である懲役15年になります。
10年+5年15年
しかし、ここで『それぞれの罪について定めた刑の長期の合計を超えることはできない』というルールが適用されます。
窃盗罪(懲役10年)と暴行罪(懲役2年)の刑の長期の合計は、懲役12年になります。
先ほど計算した懲役15年は、懲役12年を超えているので、刑の長期として適用できません。
よって、この場合、懲役12年が刑の長期となります。
なので、犯人は懲役12年の範囲内の刑罰を科されることになります。
併合罪における罰金刑の計算
併合罪における罰金の計算について触れていなかったので説明します。
罰金の計算は、刑法48条の
『併合罪のうちの2個以上の罪について罰金に処するときは、それぞれの罪について定めた罰金の多額の合計以下で処断する』
というルールにのっとって計算します。
窃盗罪と傷害罪の併合罪における罰金刑の重さを計算します。
窃盗罪の法定刑は、10年以下の懲役 or 50万円以下の罰金です。
傷害罪の法定刑は、15年以下の懲役 or 50万円以下の罰金です。
罰金の場合は、それぞれの多額(罰金の最高額)の合計以下となるので、
50万円+50万円=100万円
という計算になり、犯人に罰金刑が科される場合は、100万円以下の範囲内で罰金刑が科されることになります。
余談ですが、もし窃盗罪を10回行った場合、罰金刑の計算は、
50万+50万+50万+50万+50万+50万+50万+50万+50万=5000万円
となり、法律上の考え方として、5000万円というビックリするような額の罰金刑が科される可能性が生まれます。
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