刑事訴訟法(捜査)

令状主義とは? ~令状主義の例外(令状なしでできる強制捜査)を憲法、刑事訴訟法に基づき解説~

令状主義とは?

 令状主義とは、犯罪捜査において、

逮捕捜索差押えなどの強制捜査は、裁判官の発する令状によらなければならない原則

をいいます。

 本来、捜査は、強制捜査ではなく、任意捜査が原則です(「任意捜査の原則)」)。

 任意捜査が原則になるのは、強制捜査は、犯人を逮捕をして身体を拘束するなど、犯人の人権を制約するため、必要最小限にすべきだからです。

 なので、強制捜査は、例外的に認められる捜査手法であり、その実行には、裁判官による令状(逮捕状、捜索差押許可状など)が必要になるのです。

令状が必要となる強制捜査の具体例

 令状が必要となる強制捜査には、

  • 逮捕(逮捕状、刑訴法200条)
  • 勾留(勾留状、刑訴法64条)
  • 捜索差押え(捜索差押許可状、刑訴法218条)
  • 検証(検証令状、刑訴法218条)
  • 身体検査(身体検査令状、刑訴法218条)
  • 鑑定(鑑定処分許可状、刑訴法168条)

があります。

令状なしでできる強制捜査(令状主義の例外)

 例外的に、令状なしで強制捜査ができる場合があります。

 具体的には、

  1. 現行犯逮捕憲法33条、刑訴法213条)
  2. 逮捕の現場における捜索・差押・検証(刑訴法220条)
  3. 勾留状勾引状の執行に伴う捜索(刑訴法126条)

について、令状なしで強制捜査ができます。

令状なしでできる強制捜査の根拠法令

①現行犯逮捕について

 現行犯逮捕は、逮捕状なしで行います。

 その根拠法令は、憲法33条と刑訴法213条にあります。

【憲法33条】

 憲法33条において、

『何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する司法官憲が発し、かつ理由となっている犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない。』

と規定し、現行犯の場合は、犯人を逮捕状なしで逮捕できることが明記されています。

【憲法35条】

 ちなみに、憲法35条において、憲法33条を引用し、

『何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第33条の場合を除いては、正当な理由に基いて発せられ、かつ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。』

と規定し、現行犯逮捕した場合は、令状なしで、逮捕現場における捜索・差押・検証ができることを明記しています。

【刑訴213条】

 刑訴213条では、

『現行犯人は、何人でも、逮捕状なくしてこれを逮捕することができる。』

と規定し、憲法33条の規定を明確化しています。

②逮捕の現場における捜索・差押・検証について

 逮捕の現場における捜索・差押・検証は、捜索差押令状・検証令状なしで行うことができます。

 根拠法令は、刑訴法220条にあります。

逮捕とは、全ての種類の逮捕を指します。

※ 逮捕は、現行犯逮捕、通常逮捕、緊急逮捕の3種類があります

【刑訴法220条】

 刑訴法220条において、

  • 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、第199条の規定により被疑者を逮捕する場合又は現行犯人を逮捕する場合において必要があるときは、左(下の1,2)の処分をすることができる。
  • 第210条の規定により被疑者を逮捕する場合において必要があるときも、同様である。
  • 1 人の住居又は人の看守する邸宅、建造物若しくは船舶内に入り被疑者の捜索をすること。
  • 2 逮捕の現場で差押、捜索又は検証をすること。

と規定し、全ての逮捕(現行犯逮捕、通常逮捕、緊急逮捕)の場合において、逮捕の現場における捜索・差押・検証を令状なしでできることを明記しています。

③勾留状、勾引状の執行に伴う捜索について

勾留状の執行に伴う令状なしでの捜索

 警察官に逮捕された犯人は、その後、捜査の必要があれば、裁判官の発する令状(勾留状)により、10~20日間、警察署などの刑事施設において、身体を拘束されます。

 勾留状を執行する際には、捜索令状なしで、犯人がいる家などに強制的に立ち入ることができます。

勾引状の執行に伴う令状なしでの捜索

 刑事事件が裁判になると、どんな人でも、証人として裁判所から呼び出しを受ける可能性があります。

 この裁判所から呼び出しは、実質的に拒否権はなく、絶対に応じなけばならない性質のものです。

 証人出廷は、納税の義務などと同様に、国民の義務になっているのです。

 たとえ、総理大臣だったとしても、裁判所から証人出廷の呼び出しがあれば、証人として裁判に出廷せざるを得ないのです。

 もし、証人出廷を拒んだ場合、裁判所から勾引状という令状が発付され、強制的に手錠をかけられて裁判に連れていかれます。

 勾引状を執行するときに、証人がいる家などに強制的に立ち入ることができます。

 勾留状、勾引状の執行に伴う令状なしでの捜索の根拠規定は、刑訴法126条にあります。

【刑訴法126条】

『検察事務官又は司法警察職員は、勾引状又は勾留状を執行する場合において必要があるときは、人の住居又は人の看守する邸宅、建造物若しくは船舶内に入り、被告人の捜索をすることができる。この場合には、捜索状は、これを必要としない。』

まとめ

 強制捜査(逮捕、捜索差押など)は、国民に対して重大な権利侵害を与える行為です。

 なので、法は、警察などの捜査機関の独断で強制捜査ができる設計にはせず、裁判所の事前の判断により、裁判所が令状を発した場合に強制捜査ができるという法の設計にしているのです。

 この裁判所が事前に発した令状があるときに強制捜査ができるルールを

令状主義

といいます。

 令状主義により、捜査機関の権限の濫用や、違法な捜査を抑制しているのです。

 しかし、令状主義の例外も用意されています。

 それが、

  1. 現行犯逮捕憲法33条、刑訴213条)
  2. 逮捕の現場における捜索・差押・検証(刑訴220条)
  3. 勾留状勾引状の執行に伴う捜索(刑訴126条)

です。

 ①、②については、現に犯罪を行った犯人が目の前にいるため、令状なしで強制捜査をしても、犯人誤認による権利侵害の可能性は低い上、令状の発付を待っていたのでは、犯人や犯罪の証拠を取り逃してしまうため、令状なしの強制捜査が認められているのです。

 ③については、勾留状、勾引状の執行を確実に実現するためには、執行対象となる人物がいる家などに立ち入る必要があるので、令状なしの捜索(立ち入り)が認められているのです。

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