刑法(盗品等に関する罪)

盗品等に関する罪⑫ ~「窃盗罪、強盗罪、横領罪、詐欺罪との関係(教唆犯、幇助犯、罪数、併合罪、牽連犯)」を判例で解説~

 盗品等に関する罪と、他罪(窃盗罪、強盗罪、横領罪、詐欺罪とその教唆、幇助など)を併発して起こした場合の関係について説明します。

窃盗罪との関係

1⃣ 窃盗教唆との関係

 窃盗を教唆した者(窃盗の教唆犯)が、本犯(窃盗犯人)が窃取した盗品について、盗品等に関する罪(刑法256条)を犯した場合、窃盗教唆罪とは別に、盗品等に関する罪が成立します。

 この点について、以下の判例があります。

最高裁判決(昭和25年11月10日)

 この判例で、裁判官は、

  • 被告人が犯意のないAに対し、窃盜実行の決意を生ぜしめ、窃盜をなさしめたことは明らかであるから、原判決が被告人を窃盜教唆罪をもって処断したのは相当である
  • 加うるに、被告人が窃盜についてAと共同加功の意思があった事実は原判決の認定しなかったところであるから、被告人を窃盜の共同正犯(窃盗の共犯)をもって処断すべしとの論旨は採用に値しない
  • そうして窃盜教唆と贓物故買盗品等有償譲受け罪)の別個独立の2罪が成立する
  • 刑法第54条後段牽連犯が成立するためには、ある犯罪と他の犯罪との間に、通常、手段又は結果の関係があることが必要であって、被告人が主観的に、ある犯罪を他の犯罪の手段として行ったということだけでは足りないのである。
  • そうして窃盜教唆と贓物故買(盗品等有償譲受罪)との間には、通常手段又は結果の関係はないのであるから、被告人が贓物故買の手段として窃盜教唆を行ったものであっても牽連犯にあたるものでなく両者は併合罪の関係に立つ

と判示しました。

 なお、盗品等に関する罪は、本犯(窃盗等の犯人)以外の者が、犯罪の主体になります。

 なので、本犯(本犯の共犯者を含む)に対しては、盗品等に関する罪は成立しません。

 しかし、本犯の教唆犯幇助犯に対しては、本犯ではないので、盗品等に関する罪が成立します。

最高裁判決(昭和24年7月30日)

 この判例で、裁判官は、

  • 窃盗教唆罪と贓物牙保罪(盗品等有償処分あっせん罪)とは、別個独立の犯罪であるから、同一人が「窃取して来れば売却してやる」と言って、他人に対し、窃盗を教唆し、かつ、その贓物の売却を周旋して牙保あっせん)をしたときでも、それは窃盗教唆と贓物牙保罪(盗品等有償処分あっせん罪)の2罪が成立するのであって、後者が前者に吸収さるべきものではない
  • そして、窃盗教唆が、正犯たる窃盗に準して処断されるということから、贓物牙保罪(盗品等有償処分あっせん罪)は、窃盗教唆罪に当然に吸収されるという結論を導きだすことは到底できないのである

と判示し、窃盗の教唆犯に対しては、盗品等に関する罪(盗品等有償処分あっせん罪)が成立するとしました。

窃盗教唆・幇助と盗品等に関する罪は、併合罪である

 上記判例のとおり、窃盗教唆幇助と、盗品等に関する罪は、通常の手段・結果の関係にないとして、牽連犯ではなく、併合罪になります。

2⃣ 窃盗幇助との関係

 窃盗を幇助した者(窃盗幇助犯)が、その盗品に関して、盗品等に関する罪を犯した場合も、教唆の場合と同様に、窃盗幇助と盗品等に関する罪の両罪が成立し、併合罪となります。

 この点について、以下の判例があります。

最高裁判決(昭和28年3月6日)

 この判例で、裁判官は、

  • 犯行の用に供するため器具類を貸与して窃盗を幇助した者が、その盗贓寄蔵した場合においては、正犯者間における贓物の分配寄蔵と異なり、窃盗幇助と贓物寄蔵(盗品等保管罪)の2罪が成立するものと解するのを相当とする

と判示しました。

窃盗本犯と共同して盗品を運搬した場合

 窃盗本犯と共同して盗品を運搬した場合は、窃盗本犯に対して、盗品等に関する罪(盗品等運搬罪)は成立しませんが、本犯でない者に対しては、盗品等運搬罪が成立します。

 この点について、以下の判例があります。

最高裁決定(昭和35年12月22日)

 窃盗本犯である米兵らが横須賀市a所在の米軍倉庫から窃取した贓物を、貨物自動車に積載して売却するのに都合のよい東京都内に運搬するにあたり、被告人は贓物であることの情を知りながら、米兵らの依頼を受けて、米兵らに協力し、共同して横須賀市b町付近から東京都台東区e町まで運搬した事案で、裁判官は、

  • 被告人の所為は贓物運搬(盗品等運搬)の罪を構成する
  • 窃盗本犯らにおいて、窃盗罪のほかに贓物運搬罪(盗品等運搬罪)をもっては問擬(もんぎ)せられないからといって、これがため被告人の贓物運搬の罪の成立に消長をきたすものとはいえない

と判示し、本犯と共同で盗品等運搬罪を実行した者に対し、本犯には盗品等運搬罪が成立せずとも、共同で同罪を実行した者に対しては、盗品等運搬罪が成立するとしました。

盗品等に関する罪が成立する場合、窃盗本犯との共同正犯にならない

 盗品等に関する罪が成立する場合、同罪を犯した犯人に対し、窃盗本犯の共犯者として、窃盗罪の罪も科されることはありません。

 この点について、以下の判例があります。

高松高裁判決(昭和26年4月12日)

 この判例は、窃盗犯人であるAと一緒に、被告人が盗品を運搬した事案です。

 この判例で、裁判官は、

  • Aは窃盗犯人であり、従ってAの窃取に係る贓物を、A自ら他に販売し、又は運搬したからといって、贓物に関する犯罪の成立しない
  • Aと被告人とが共謀して、判示の所為(盗品の運搬)を行ったものとし、これを共同正犯として刑法第60条を適用したのは誤りである

と判示し、盗品の運搬をした被告人を、窃盗犯人Aとの窃盗罪の共犯者として処断した原判決の誤りを指摘しました。

 盗品を運搬した被告人に対しては、窃盗罪は成立せず、盗品等に関する罪のみが成立するとしました。

強盗罪との関係

1⃣ 強盗教唆との関係

 窃盗本犯の場合と同じく、強盗を教唆した者(強盗の教唆犯)が、強盗をした本犯が奪取した盗品について、盗品等に関する罪を犯した場合にも、強盗教唆罪と盗品等に関する罪の2罪が成立し、両罪は併合罪になります。

 判例も、強盗教唆罪と盗品等無償譲受け罪について、この考え方をとっています(大審院判決 昭和5年9月15日)。

2⃣ 強盗幇助との関係

 強盗幇助の場合についても、強盗教唆の場合と同じく、強盗幇助罪と盗品等に関する罪の両罪が成立し,両罪は併合罪になります。

 この点について、以下の判例があります。

最高裁判決(昭和24年10月1日)

 この判例で、裁判官は、

  • 従犯は他人の犯罪に加功する意思をもって、有形、無形の方法によりこれを幇助し、他人の犯罪を容易ならしむるものであって、自ら、当該犯罪行為、それ自体を実行するものでない点においては、教唆と異るところはないのである
  • しかして、自ら強窃盗を実行するものについては、その窃取した財物に関して、重ねて贓物罪(盗品等に関する罪)の成立を認めることのできないことは疑のないところである
  • けれども、従犯(幇助犯)は、自ら強窃盗の行為を実行するものではないのであるから、強盗の幇助をした者が、正犯の盗取した財物を、その贓物たるの情を知りながら買受けた場合においては、教唆の場合と同じく、従犯について、贓物故買の罪(盗品等有償譲受け罪)は成立するものとみとめなければならない

と判示、強盗教唆罪と盗品等有償譲受け罪の2罪が成立するとしました。

横領罪との関係

 他人の物の占有者と、その物を横領することを共謀し、両者の間で、その占有物を授受する行為…

たとえば、Aが知人から預かっている宝石を、AとBが横領することを共謀し、AがBにその宝石を無償で譲り渡す行為

について、横領罪と盗品無償譲受け罪の成立関係が問題になります。

 このような場合、AとBの両名に対し、横領罪の共同正犯(共犯)が成立し、盗品等無償譲受け罪は成立しません。

 盗品を無償で譲り渡す行為は、横領の実行行為であって、横領の共同正犯(共犯)を認めるべきなので、盗品等に関する罪は成立しません。

 この点について、以下の判例があります。

大審院判決(昭和8年5月2日)

 この判例で、裁判官は、

  • 他人の物の占有者とその物を横領せんことを共謀し、両者の間において、その占有物を授受するは横領罪の実行行為なりとす

と判示し、盗品等に関する罪は成立しないとしました。

【横領教唆・横領教唆との関係】

 横領罪の教唆犯・幇助犯と、盗品等に関する罪との関係についても、窃盗教唆・幇助の場合の考え方と同じです。

 横領教唆・横領幇助と、盗品等に関する罪の両罪が成立し、両罪は併合罪の関係になると解されます。

盗品を現に所持する窃盗本犯に対して、窃盗罪・強盗罪・詐欺罪・恐喝罪が行われた場合

 盗品を現に所持する本犯(窃盗などの犯人)に対して、別の犯人が、その盗品をさらに領得することを企て、窃盗罪・強盗罪・詐欺罪・恐喝罪といった犯罪を行った場合に、盗品等に関する罪が成立するかについて説明します。

 この場合に、別の犯人に対して、窃盗罪・強盗罪・詐欺罪・恐喝罪が成立することはもちろんです。

 しかし、盗品を奪ったからといって、窃盗等の上記の犯罪のほかに、盗品等に関する罪は成立しません。

 本犯でない者が盗品を所持しており、その者に対して、窃盗等の上記の犯罪が行われた場合も同様です。

 盗品を他人から窃取した場合に、盗品の所持者が本犯であるか否かで結論が変わることはないというのが判例の立場です。

 この点について、以下の判例があります。

札幌高裁判決(昭和27年3月8日)

 この判例で、裁判官は、

  • 本件銅線は、B鉱業所所有の電線を第三者が切断盗取して、これを原判示場所に隠匿しておいたもので、その占有はなお第三者に属していたこと、及び被告人はこれを不法に自己に領得する意思で運搬した
  • かように、他人の占有に属する贓物を不法領得する意思をもって運搬するときは、窃盗罪が成立し、贓物運搬罪(盗品等運搬罪)は成立しないものと解すべきである

と判示し、窃盗犯人が盗んだ盗品を、第三者がさらに盗んだ場合は、第三者に対しては、窃盗罪が成立し、盗品等運搬罪は成立しないとしました。

盗品等に関する罪の後に横領罪が行われた場合は、盗品等に関する罪のみが成立する

 盗品等に関する罪を犯した後に、それによって占有する物を横領した場合は、盗品等に関する罪のみの成立を認めるのが判例の立場です。

大審院判決(大正11年7月12日)

 盗品等保管罪を犯した後に、保管中の盗品を横領した事案で、裁判官は、

  • 贓物寄蔵罪(盗品等保管罪)を犯したる者が、その後、その贓物に関し、横領行為をなすも、別に横領罪を構成せざるものとす

と判示し、盗品等保管罪を犯して占有する盗品を横領した場合、盗品等保管罪のみが成立し、横領罪は成立しないとしました。

 盗品等保管罪は、状態犯なので、保管中の盗品を横領するなどの処分をしても、不可罰的事後行為として、横領罪は罰せられないと考えられます。

大審院判決(大正8年11月19日)

 盗品等有償処分あっせん罪により得た受領代金を横領した事案で、裁判官は、

  • 牙保(盗品等有償処分あっせん)により騙取したる代金については、これを不正に領得するも、買主に対して、別に横領罪を構成せざるものとす

と判示し、盗品等有償処分あっせん罪により得た代金を横領しても、横領罪は成立しないとしました。

福岡高裁判決(昭和29年3月30日)

 盗品等有償処分あっせん罪の犯人が、盗品を担保に借り受けた金銭を横領した事案で、裁判官は、

  • 被告人は、窃盗本犯であるAの委託によって、贓物(盗品)である本件自転車を、その情を知りながら、Bに担保に供し、Bから3000円を借り受け、その金員をAのために保管中に費消して横領した
  • 委託契約は、民法90条の規定があるため、無効に帰する結果、Aにおいては、借受金の上に、所有権を取得するいわれがないから、被告人の所為は、Aの対する関係においては、横領罪を構成しない
  • 被告人が、牙保(盗品等有償処分あっせん)によって、Bから受け取った3000円については、これを不正に領得しても、Bに対して、別に横領罪を構成しないことは、なお窃盗犯人が、その取得した物を第三者に売却して、代金を受け取り、これを費消しても、これがために、別に横領罪に問われないのと、何ら異なるところはない

と判示し、盗品等有償処分あっせん罪で得た金銭を横領しても、横領罪は成立しないとしました。

盗品等有償処分あっせん罪の実行に当たり、詐欺罪が行われた場合は、盗品等に関する罪のみが成立する

 盗品等処分をあっせん罪を行うにあたり、情を知らない買主から代金を受け取る行為は、あっせんの当然の結果であって、別に詐欺罪を構成しないとするのが判例の立場です。

大審院判決(大正8年11月19日)

 この判例で、裁判官は、

  • 贓物牙保(盗品等有償処分あっせん)により、その情を知らざる買主より代金を受け取るは、買主を欺罔して、代金を騙取するの事実なきにあらずいえども、これは全く牙保当然の結果にして、別に詐欺罪を構成するものにあらず

と判示し、盗品等有償処分あっせんの実行にあたり、詐欺罪を犯した場合は、盗品等有償処分あっせん罪のみが成立し、別に詐欺罪は成立しないとしました。

 とはいえ、上記のようなケースにおいて、盗品の買主が、盗品であることを知らず、買い取る物が盗品と分かっていれば、その盗品を買い受けて代金を交付しなったとする場合は、別に詐欺罪が成立すると考えられます。

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