- 汽車転覆等及び同致死罪
- 選挙妨害罪
- 住居侵入罪・不退去罪
- 凶器準備集合罪
- 脅迫罪
- 銃刀法違反
との関係について説明しました。
今回の記事では、傷害罪と
- 逮捕監禁罪・逮捕監禁致傷罪
との関係について説明します。
逮捕監禁罪・逮捕監禁致傷罪との関係
傷害罪と逮捕監禁罪(刑法220条)・逮捕監禁致傷罪(刑法221条)との関係について説明します。
監禁の手段としてなされた行為から傷害が生じた場合は、監禁致傷罪だけが成立する
監禁の手段としてなされた行為から傷害が生じた場合は、刑法221条の監禁致傷罪だけが成立します。
監禁の手段としてなされた行為から傷害が生じた場合は、傷害罪と監禁罪の二罪が成立するものではありません。
この点について、以下の判例があります。
大審院判決(昭和11年5月30日)
この判例で、裁判官は、
- 犯人を脅迫して一定の場所より去ること能わざらしめ、直接監視の下にその身体を勾留したる場合においては、不法監禁罪を構成するものにして別に脅迫罪を構成せざるものとす
と判示し、監禁の手段として脅迫した場合は、脅迫罪は成立せず、監禁罪のみが成立するとしました。
この判例の考え方は、脅迫罪を傷害罪に置き換えて考えても同様の結論になります。
監禁中に別の動機原因から暴行がなされ、その結果傷害が生じた場合は、監禁と傷害のニ罪が成立し、両者は併合罪となる
監禁中に、別の動機原因から暴行がなされ、その結果傷害が生じた場合(例えば、監禁中に、被監禁者の言動に憤慨して、被監禁者を殴り、傷害を負わせたような場合)は、監禁と傷害のニ罪が成立し、両者は併合罪の関係になります。
この点について、以下の判例があります。
この判例で、裁判官は、
- 暴行脅迫が不法監禁中になされたものであっても、不法監禁の状態を維持存続させるため、その手段としてなされたものでなく、全く別個の動機、原因からなされたものであるときは、右暴行脅迫の行為は、不法監禁罪に吸収されることなく、別罪を構成する
と判示し、監禁中に被害者の言動に憤激して行われた傷害罪は、監禁罪に吸収されて監禁致傷罪とはならず、別個の傷害罪を成立させ、傷害罪と監禁罪とは併合罪の関係になるとしました。
名古屋高裁判決(昭和31年5月31日)
監禁した上、「靴を盗んだのはお前だろう」と難詰して殴った事案で、裁判官は、
- 人を監禁し、その機会にこれに暴行を加え、よって傷害を負わせたというに止まり、監禁と傷害との間に因果関係のないことの明らかな場合には、もはやこれに対し、刑法221条を適用処断すべき余地のないもので、かかる場合には監禁の点につき刑法220条を、傷害の点につき刑法204条を適用した上、右両者を刑法45条前段の併合罪として処断するのが相当である
と判示しました。
この判例で、裁判官は、
- 被告人の被害者に対する暴行は、不法監禁の状態を保つための手段としてではなく、被告人が自動車内における被害者の態度に憤慨した結果なされた事実を判示したものと解されるから、たとえ、右暴行が不法監禁の機会になされ、その結果、被害者に傷害を負わせたとしても、監禁致傷罪は成立せず、監禁と傷害の二罪が成立し、両者は併合罪の関係になると解するのが相当である
と判示し、傷害が監禁の手段として行われたわけではない場合において、監禁致傷罪ではなく、傷害罪と監禁罪のニ罪が成立し、両罪は併合罪になるとしました。
はじめから傷害を加える目的で監禁し傷害を加えた場合は、牽連犯にはならない
はじめから傷害を加える目的で監禁し傷害を加えた場合について、傷害と監禁は手段と結果の関係にないから、牽連犯にはならないとされます。
たとえば、窃盗をするために住居に侵入する場合は、侵入行為は住居内で窃盗を行うために必ず付随することになる手段となるため、住居侵入と窃盗は、手段と結果の関係になり、住居侵入罪と窃盗罪が牽連犯として成立します。
これに対し、はじめから傷害を加える目的で監禁し傷害を加えた場合は、住居侵入と窃盗の関係とは異なり、監禁は傷害を行うために必ず付随する手段とはならないため、監禁罪と傷害罪は手段と結果の関係にならず、牽連犯とはなりません、
この点について示した以下の判例があります。
この判例で、裁判官は、
と判示し、傷害罪と監禁罪は併合罪になると認定しました。
東京地裁判決(昭和37年10月23日)
この判例は、暴力団組員が被害者を事務所に連れ込んで監禁し、その間に被害者を取囲んで「どこの者だ」などと問詰しながら殴打し、傷害を負わせた事案について、監禁罪と傷害の関係は牽連犯ではなく、観念的競合であるとしました。
罪となるべき事実は、『被告人ら4名は、K組組員数名と共謀の上、(イ)午前1時10分頃より同午前1時40分頃までの間、約30分間にわたり、K組事務所内において、Hを取り囲んで脱出を阻止し、同事務所から退去できないようにしてHを同事務所内に強いて抑留し、もって不法に監禁し、(ロ)その間に同所において前記のとおりHを取り囲んで「お前はどこの者だ、浅草のやくざだろう」「仲間の名前を云え」などと問詰しつつ、被告人A、Fらにおいて、Hの顔面、頭部等を殴打し、被告人WにおいてHの胸倉を小突くなどの暴行を加え、よってHに対し、約1週間の加療を要する両眼の打撲傷兼皮下出血の傷害を与えたものである』というものです。
裁判官は、
- (イ)の監禁と(ロ)の傷害とは1個の行為で数個の罪名に触れる場合であるから(最高裁判所昭和28年11月27日判決)、同法第54条第1項、第10条により重い傷害罪の刑をもって処断する
と判示し、監禁罪と傷害は観念的競合の関係になるとしました。
次回記事に続く
次回記事では、傷害罪と強盗罪・強盗致傷罪の関係について説明します。