委託販売によって取得した代金を領得した場合、横領罪が成立する
委託販売によって取得した代金を、委託者が領得した場合、横領罪が成立します。
この点について、以下の判例があります。
他人から物品の売却を依頼されたときは、特約ないし特殊の事情がない限り、委託品の所有権は、その売却に至るまで委託者に存し、また、その売却代金は委託者に帰属するものであるから、その代金をほしいままに着服又は費消するときは横領罪を構成するとしました。
東京高裁判決(昭和30年8月27日)
問屋業者は、自己の名をもって物品の販売や買入れを行うが、それは委託者のため、その計算において行われるものであって、販売によって得た代金は委託者の所有となり、その代金を領得すれば、横領罪となるとしました。
福岡高裁判決(昭和26年10月23日)
法令に違反して主務大臣の許可を受けずに行った無効な取引であっても、その売買代金の帰属には影響しないとし、その売買代金を領得すれば、横領罪となるとしました。
札幌高裁判決(昭和25年5月13日)
物品販売の委託に当たって、特に販売値段を仕切った場合においても、委託品の販売代金は全額委託者の所有に属し、委託者が給料又は歩合等を支給される契約があったとしても、精算前にこれを領得すれば、全額につき横領罪が成立するとしました。
仙台高裁判決(昭和29年6月17日)
指定価格で物品の販売を委託され、その指定価格より高く売却したときは、超過額を受託者の所得とする特約がある場合でも、売却代金中、指定価格に満つるまでの分は、受領すると同時に委託金の性質を有し、これをほしいままに費消するときは横領罪が成立するとしました。
大審院判決(大正3年6月22日)
会社の役員が、 自己の担当事務の執行として、会社の不用品を売却するに際し、会社に代わって代金を受領したときは、その全部が会社の所有となり、これを占有中に、その一部を領得したときは横領罪となるとしました。
委託販売代金を受託者が自己資金と混同して銀行に預金して業務上保管中、後にこれを補填する見込みがなく、代金の支払が不能となることを分かっていながら、その預金を引き出して自己の会社の債務の支払に充当した場合は、業務上横領罪が成立するとしました。
仙台高裁判決(昭和29年2月17日)
家畜商の委託販売で預かった馬を、借財に充当するために他者に交付した事案で、業務上横領罪を認定しました。
裁判官は、馬喰仲間における委託販売の場合は、家畜の所有権が受託者に移転して代金支払の民事債務のみが残るというような商慣習は認められないとしました。
委託販売によって取得した代金を領得した事案で、横領罪ではなく、背任罪の成立を認めた事例
委託販売によって取得した代金を領得した事案で、横領罪ではなく、背任罪の成立を認めた事例として、以下の判例があります。
この判例で、裁判官は、
- 自動車販売会社の販売外交員Aが集金した自動車販売代金について、これをAの当座預金口座に入金すること及び会社に対する引渡しは、その口座を利用してA振出の小切手によることを会社が黙認しており、この口座にはA個人の預金も多く含まれているという特殊な事情の認められる場合においては、集金した自動車販売代金自体は会社の所有となるが、それが当座預金に入金されたときには、その預金債権はAのものとなり、会社の所有に属するものではない
とし、業務上横領罪ではなく、背任罪(刑法244条)を認定しました。