刑法(横領罪)

横領罪(21) ~「①寄付金・共同募金、②債権譲渡人が譲渡通知前に債務の弁済として受領した金銭、③出張費、④郵便物の不足料金を領得した場合、横領罪が成立する」を判例で解説~

寄付金、共同募金を領得した場合、横領罪が成立する

 寄付金、共同募金を領得した場合は、横領罪が成立します。

 団体の名義で寄付や共同募金を募った場合、その寄付金や共同募金の所有権は、その団体に帰属するため、その団体において寄付金や共同募金を管理する者が、その寄付金や共同募金を領得すれば、横領罪となります。

 この点について、以下の判例があります。

大審院判決(大正12年5月18日)

 道路敷地を買収して市に寄付する趣旨で受け取った寄付金を領得した事案で、裁判官は、

  • 一定の事業に要する資金を得るために行う寄付金の所有権は、寄付者の特別の意思表示がない限り、事業の発起人団体に帰属するとして、行為者らが道路委員として代表する敷地買収費寄付金募集事業の発起団体に寄付金の所有権が帰属する

とし、横領罪が成立するとしました。

広島高裁判決(昭和31年2月18日)

 県知事を会長とする共同募金委員会による共同募金に関し、同委員会が設置した事務局の職員らが保管していた募金を費消するなどした事案で、裁判官は、

  • 募金は受益団体に配分されるため、同委員会を構成する委員全員に信託されて、その所有に帰している

とし、横領罪が成立するとしました。

債権譲渡人が譲渡通知前に債務の弁済として受領した金銭を領得した場合、横領罪が成立する

 債権譲渡人が、譲渡通知前に、債務弁済として受領した金銭を領得した場合は、横領罪が成立します。

 この点について、以下の判例があります。

最高裁決定(昭和33年5月1日)

 債権譲渡人が、未だその通知をしないうちに、債務の弁済として受領した金銭を費消した場合、通知は対抗要件にすぎず、その金銭の所有権は債権の譲受人に帰属するので、横領罪を構成することになるとしまいた。

 なお、この判例は、横領罪は成立しないという一部の裁判官の反対意見が付されています(弁済が有効であり、金銭の所有権は譲渡人に帰するので、横領罪は成立せず、背任罪が成立する)。

出張費を領得した場合、横領罪が成立する

 出張費を領得した場合、横領罪が成立することについて、以下の判例があります。

大審院判決(明治37年10月27日)

 公務員が出張旅費概算として受け取った金員中、現実に出張に要した分以外の金員については、当該官庁に返還すべきものであって、返還まで保管する責務があり、虚偽の旅費内訳明細書を提出した上でこれを費消することは委託金費消罪(旧刑法395条後段、現行刑法に置き換えると横領罪)に該当するとしました。

郵便物の不足料金を領得した場合、横領罪が成立する

 郵便物の不足料金を領得した場合、横領罪が成立することについて、以下の判例があります。

大審院判決(明治31年1月25日)

 郵便局の雇員が、郵便物の不足料金を徴収した後に、犯意を生じて当該金員を費消した場合には、委託金費消罪(旧刑法395 条前段、現行刑法に置き換えると横領罪)が成立するとしました。

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