刑法(横領罪)

横領罪(20) ~「還付を受けた仮差押え・仮処分の保証金を領得した場合、横領罪が成立する」を判例で解説~

還付を受けた仮差押え・仮処分の保証金を領得した場合、横領罪が成立する

 還付を受けた仮差押え仮処分保証金を領得した場合、横領罪が成立します。

 この点について、以下の判例があります。

大審院判決(大正9年4月14日)

 債権取立ての目的で債権譲渡を受けた者が、債務者の財産に仮差押えをするに当たり、そのための保証金を、譲渡人から預かって裁判所に供託した後に、下付を受けた場合、債権の譲受人が自己名義で供託をし、下付を受けている上、その金銭が同一物ではないとしても、あらかじめ下付金の所有権を譲渡人に移転する物権的意思表示をしていたときは、下付金の所有権は下付を受けると同時に譲渡人に移転するから、これを譲受人が領得するときは横領罪となるとしました。

大審院判決(昭和5年3月4日)

 仮差押手続をするに当たり、委任者から保証金を預かり供託した後、その下付を受けた場合、下付金の所有権は、委任者に帰属するのが通例であり、このことは、委任者が民法649 条により受任者に対して費用前払義務を負担することによって影響を受けないから、弁護士が、仮差押えなどに要する保証金として委託された金銭の残余や保証供託の必要がなくなった還付金等を自己の用途に費消するときは横領罪とるとしました。

大審院判決(昭和9年10月3日)

 弁護士のため、事件の取次ぎ、訴状の提出、依頼者から事件のため寄託を受けた金員の保管等の業務に従事する者が、依頼者から仮処分申請のため保証金を受け取り供託した後、和解成立により供託金の還付を受け、これを保管している場合、保証金の還付を受けたのは委任事務の処理としてのものであり、あらかじめ供託金の所有権を移付されてもいないときは、たとえ還付金が供託した金銭と同一でないとしても、この還付金は依頼者に属するものであり、自己の用途に費消するときは横領罪となるとしました。

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