刑法(業務上横領罪)

業務上横領罪(1) ~「業務上横領罪とは?」「『業務』とは、社会生活上の地位に基づいて反復・継続して行う事務をいう」を判例で解説~

業務上横領罪とは?

 業務上横領罪(刑法253条)は、業務上他人の物を占有する者を主体とする横領罪刑法252条)の加重類型です。

 他人の物を占有する者を主体とする点では、横領罪と同様です、その占有が、業務上の占有であることによって、横領罪に比べ、刑が加重されています。

刑が加重される理由

 占有が業務上の占有であることによって刑が加重される根拠について、大審院判例は、業務上占有する物に対する横領行為は、

  1. 性質上、法益侵害の範囲が多岐にわたり、社会の信用を害することが極めて大きいこと(大審院判決 大正3年6月17日)
  2. 同種犯罪が頻発するおそれが大きく、一般予防の見地から法定刑を重くする必要性が高いこと(大審院判決 昭和13年3月9日)

を理由に、業務上横領罪の法定刑を横領罪よりも加重したと説明しています。

 最高裁判例においては、

  • 刑法253条の業務上横領罪につき、刑法252条の単純横領罪に比し、その刑が加重されているのは、業務上占有する他人の物を横領することが、単純横領に比し、反社会性が顕著で犯情が重いとされるからである

と説明しています(最高裁判例 昭和30年8月18日)。

業務上横領罪の主体

 業務上横領罪は、

業務上他人の物を占有する者

を主体(犯人)とします。

 なので、業務上横領罪は、業務者・占有者という二重の身分が要求される身分犯です。

「業務」とは?

 業務上横領罪の「業務」とは、一般には、

社会生活上の地位に基づいて、反復又は継続して行う事務

をいいます。

 また、上記「事務」とは、

委託を受けて他人の物を管理(占有・保管)することを内容とする事務

をいいます。

補足説明

 「業務」というと、「仕事」をイメージしてしまいがちですが、そうではなく、刑法上の「業務」とは、「反復・継続して行っていること」と捉えればOKです。

 仕事でなくても、反復・継続して行っていることであれば、業務となります。

 たとえば、従前から町内会費の集金を繰り返し行っている人が、集金した町内会費を着服すれば、横領罪ではなく、業務上横領罪が成立します。

判例

 判例は、業務上横領罪の「業務」について、以下のように判示しています。

大審院判決(大正3年6月17日)

 この判例は、業務上横領罪の「業務」について、

  • 職務又は営業等これによりて、自己の生活を維持する業務に限定せらるるものに非ずして、苟も一定の事務を常業として行う以上は、等しくこれに該当する

と判示しました。

最高裁判決(昭和25年3月24日)

 この判例は、業務上横領罪の「業務」について、

  • 法令によると慣例によると、将た契約によるとを問わず、苟も一定の事務を常業として反覆する場合を指称する

と判示しました。

大審院判決(大正3年6月17日)

 この判例は、業務上横領罪が単純横領罪よりも重く処罰される理由を判示するに際し、

  • 普通の横領罪に在りては、他人の物件を保管するをもって常業とするものに非ず
  • 他人の物件を保管するをもって常業と為し、居常その事務に従事するものが横領行為に及ぶと、法益侵害の範囲が多岐にわたり、社会の信用を害することが大きい

と判示しました。

大審院判決(大正11年5月17日)

 この判例は、

  • 業務上の占有は、他人の物の占有保管を主たる職務又は営業とする場合における占有のみに限局すべきものに非ず
  • 苟も職務又は営業に附随して、他人の物を占有保管する以上は、特に法令において、これを職務又は営業の範囲より除外せざる限り、本罪の業務上の占有に該当する

と判示しました。

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