昏酔強盗罪(刑法239条)に関し、罪数が問題となった事例として、以下の判例があります。
昏酔の行為が失敗に終わったが、その後、窃盗を犯した場合は、昏酔強盗未遂の一罪が成立します。
広島高裁判決(昭和35年10月25日)
昏酔強盗罪を犯す目的で、被害者に睡眠薬を服用させたものの、量が少なかったため昏酔にいたらなかったので、被害者が就寝して熟睡するのを待った上、財物を奪取したという事案において、強盗昏酔未遂と窃盗罪の併合罪となるのではなく、強盗昏酔未遂の包括一罪であるとしました。
この判例の昏酔強盗罪の既遂が認めなかった結論は、財物を窃取した後、強盗に着手して未遂に終わった場合について、これを強盗未遂の一罪とするのが判例(詳しくは前の記事参照)があることに照らしても肯定できます。
さらに、事後強盗により被害者を殺害した後、新たに財物奪取の犯意を生じて腕時計を盗んだ事例について、強盗殺人罪の一罪だけが成立し、腕時計についての窃盗罪が別に成立するとはしなかった以下の札幌高裁判決(昭和32年7月11日)に照らしても肯定できるものです。
札幌高裁判決(昭和32年7月11日)
この判例で、裁判官は、
- 被告人が、被害者Mの所携(しょけい)していた腕時計を奪取したのは、その当初から窃取の意思のあった銅板につき、窃盗の着手をなし、未だこれを遂げないうちにMに発見されて、その逮捕を免れるため、Mを殺害したうえ、右銅板奪取に出たと同一機会、同一場所において行われたものである
- Fの殺人行為と財物(腕時計)奪取との間に、1時間余りの時間的経過があり、時計については、当初奪取の目的がなかったからといっても、右銅板が奪取された以上、時計もまた右銅板奪取の意思に包含され、その全行為を合して単一の強取行為と認むべきで、時計についてだけ新たな犯意による窃取行為を認むべきではない
- してみると、本件強盗殺人の公訴事実につき、銅板については強取の犯意を認めたから、時計については単に窃取の犯意しかなかったものと認め、右銅板の奪取を強盗殺人罪とし、時計の奪取を窃盗罪とし、両者は併合罪の関係にあるものとして、それぞれの法条を適用処断した原判決は、事実の構成要件的評価を誤り、ひいて判決に影響をおよぼすことが明らかな法令適用の誤りをしたものというべきである
と判示し、殺人後の窃取行為について、強盗殺人罪を認定しました。