刑法(強盗罪)

強盗罪(26) ~罪数②「窃盗と強盗が同時に行われた場合、包括一罪として強盗罪のみが成立する」を判例で解説~

窃盗と強盗が同時に行われた場合、包括一罪として強盗罪のみが成立する

 同一の機会に、窃盗と強盗とが同一の占有を侵害する形で行われた場合、包括一罪として、強盗罪(刑法236条)のみが成立することになります。

 窃盗罪(刑法235条)は、強盗罪の包含され、強盗罪と一括評価されることになります。

 参考となる判例として、以下のものがあります。

 いずれの判例も、窃盗と強盗とが財産犯として共通である点に一括評価の理由をおいています。

 窃取と強取とを共に盗罪とする点に一括評価の基準をおけば、刑が重い方の強盗罪によって、犯罪の成否を考えるのは当然といえます。

大審院判決(明治43年1月25日)

 住居に侵入してまず窃取し、さらにそれでは足りないとして強取した事案で、裁判官は、

  • 前段における金員奪取と、後段における金円奪取とは、共にひとつの盗罪を犯そうとする単一なる決意の実行行為なれば、相合して単一の犯罪行為を組成すべきものにして、各財物奪取の行為ごとに各個の犯罪行為を組成するものにあらざるをもって、これに単に刑法第236条第1項(強盗罪)のみを適用し、同法第235条(窃盗罪)を適用せざりしは相当なり

と判示しました。

仙台高裁秋田支部判決(昭和26年2月2日)

 この判例は、強盗の意思をもって金品を窃取し、引き続き脅迫して金品を強取した行為について、1個の強盗罪が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 論旨(被告人の弁護人の控訴理由)は、原判決が、被告人らが本件犯行当夜、暴行、脅迫によらないで、K方に卦いて窃取した手提金庫の現金2100円をも強取したものと認定したことを非難するものである
  • なるほど、記録によると、被告人らが、Kを脅迫して現金2万4000円を強取する以前に、現金2100円を暴行、脅迫によらないで、すなわち、Kが不知の間に窃取したことが認められ、これは一見、窃盗罪に該当する
  • したがって、被告人らは2100円について窃盗、2万4000円については強盗の責に任すべきようであるが、しかし、本件のように強盗の意思をもって、凶器を携え、他家に押し入り、被害者を脅迫して金品を強取した事実のある以上、たとえその強取に先立つ暴行、脅迫によらないで、金品を窃取したことがあったとしても、その時間的場所的関係からみて、これを一個の強盗罪として問擬(もんぎ)し得ると解するを相当とする

と判示しました。

高松高裁判決(昭和28年7月27日)

 まず、被告人の弁護人は、

  • 被告人らが、A方において、Aに対し脅迫行為をなす前に、クリーム、剃刀、ネクタイ等を窃取した行為をも強盗罪に問擬したのは法律適用を誤っている

と主張しました。

 この主張に対し、裁判官は、

  • 同一家屋内において、まず金品を窃取し、更に引き続き家人に対し、暴行脅迫を加えて金品を強取したときは、これを包括的に観察して、1個の強盗罪を構成するものと解すべきである
  • 原審がその認定した事実、すなわち被告人らが共謀の上、A方において、まずクリーム1個、剃刀2個及びネクタイ1本を窃取した後、物音に目覚めたAに誰何されるや、Aを脅迫し、その反抗を抑圧してAより現金500円を強取した事実に対し、刑法第236条第1項を適用し、単一の強盗罪として処断したのは正当であって、原判決は何ら法律の適用を誤っていない

と判示しました。

高松高裁判決(昭和31年11月12日)

 この判例は、窃盗の後、更に暴行脅迫によって金品を強取した場合は、強盗罪の一罪が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 証拠を検討すると、被告人は、Aほか1名と共謀の上、窃盗を企て、Y方屋内に侵入し、店舗内において、Y所有の軍手6双等の物品を窃取し、なお、引き続き金品を物色中、物音に目覚めて、同所に出て来たYの内縁の妻Kに誰何せられるや、Kに対し、それぞれ所携(しょけい)の包丁を突きつけ「金を出せ」と脅迫し、その反抗を抑圧して、更にその場でKから現金2000円を強取した事実を肯認できる
  • ところで、犯人が窃盗を企て、まず財物を窃取し、なお引き続き金品物色中、家人に発見せられたため、これに暴行脅迫を加え、その反抗を抑圧して、更に金員を強取したときは、その前後の奪取行為を合わせて、強盗の一罪を構成するものと解するを相当とする

と判示しました。

窃盗に引き続き強盗を行い、強盗が未遂に終わった場合、強盗既遂罪が成立するとした判例と、強盗未遂罪が成立するとした判例がある

 窃盗に引き続き、強盗を行い、強盗が未遂に終わった場合、強盗既遂罪が成立するとした判例と、強盗未遂罪が成立するとした判例の2つがあり、判例の結論は分かれています。

強盗既遂罪が成立するとした判例

広島高裁松江支部判決(昭和32年5月27日)

 この判例は、強盗の目的で住居に侵入し、金品を窃取後に、引き続いて家人に暴行・脅迫を加えて金品を強取しようとしてこれを遂げなかった場合について、包括して単一の強盗既遂罪が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 犯人が強盗の目的をもって侵入し、同一家屋内において、先ず金品を窃取し、更に、引き続き暴行又は脅迫をもって、家人から金品を強取せんとして未遂に終った場合にも、同一の被害者に対して加えられた財物に対する侵害と、その直後になされた脅迫とは、これを包括的に観察し、単一の強盗罪の既遂をもって論ずるのが相当である
  • されば、原審において、窃盗と強盗未遂各別個の犯罪が成立すると判断し、各別罪に問擬(もんぎ)したのは、法令の適用を誤ったものというべく、右誤謬が判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、原判決は、この点において破棄を免れない

と判示し、原審が窃盗罪と強盗既遂罪が成立するした判決を否定し、強盗既遂罪の一罪が成立するとしました。

強盗未遂罪成立するとした判例

 上記判例の結論と異なり、窃盗の目的で住居に侵入し、金品を窃取した後に家人に発見され、強盗の意思をもって家人に暴行、脅迫を加えたが、財物を強取できなかった事案について、包括して強盗未遂罪の一罪が成立するとした判例として、以下のものがあります。

東京高裁判決(昭和28年10月23日)

 この判例で、裁判官は、

  • 証拠によれば、被告人は、窃盗の目的で、J方屋内に侵入し、同家応接間で、目覚時計1個、離れの部屋で現金700円をそれぞれ窃取した後、同家女中部屋に至りたるところ、同所に就寝中の女中Hに発見されて、Hに対し、「強盗だ」「金を出せ」等と申し向け、脅迫し、剰さえ、同家ありあわせのネクタイ2本でHの手足を縛るの暴行に出でたが、Hに「主人夫妻が向こうで裸で寝ている」と言われたことが動機となって、何物も強取するところなく、ただ、先に窃取した物品を所持して逃亡した事実が窺い得られる
  • その態様において、被告人は、窃盗の後、家人に発見されるや、強盗の意思をもって金品を強取しようとしたが、その目的を遂げるに至らなかった強盗未遂の場合に該当する

と判示し、強盗未遂罪の一罪が成立するとしました。

大阪高裁判決(昭和33年11月18日)

 この判例で、裁判官は、

  • 刑法第236条に、いわゆる強盗の罪は、暴行又は脅迫の手段をもって、他人の財物を強取す ることにより成立するものであるから、たとえ犯人において犯行に先だち、暴行又は脅迫の手段をもって他人の財物を強取するの意図があったとしても、犯行に際しては、現実に暴行又は脅迫の手段を加えないで、他人の財物を単に窃取したに止まる場合には窃盗罪を構成するのみで、強盗罪は未だその着手があったものとは認められない
  • また、いわゆる居直り強盗、すなわち、犯人が財物を窃取した後、引き続き犯行の現場において強盗の犯意をもって、同一被害者に対し、暴行又は脅迫の手段を講じて、更に財物を強取しようとしたが、遂げられなかった場合には、窃盗の既遂罪と強盗の未遂罪とを包括的に観察し、単に重い強盗の未遂罪のみによって処断すべきである
  • かかる場合に、犯人の動機、目的、窃盗の既遂行為、引続く暴行又は脅迫の手段による強盗の未遂行為等、一連の行為態様を包括的に観察し、強いて強盗既遂の一罪を認めようとする見は当裁判所の採らないところである
  • 何となれば、先きの窃盗行為には、未だ暴行又は脅迫の手段を用いていないし、また、後の強盗行為によっては、未だ他人の財物を強取してはいない
  • 後の暴行又は脅迫行為が窃盗の時期に遡ってあったものとし、先の窃盗の既遂をもって後の強盗の未遂をその既遂に擬制するが如きは、理論上到底許されないことであるからである
  • 今、本件につき、これを観るに、原判示第一の事実は、被告人は金品を窃取する目的で、その際、場合によってはその家人を威して金品を奪い、または逮捕を免れるために使うべく、包丁1本を携えて、被害者方に入り、現金約450円及びたばこ20個位を盗み、更に被害者Bを威して現金を出させる目的で、寝ていたBに対し、所持していた携帯電燈を照らし、包丁を突き付けて「金を出せ」と言い、Bと一緒に寝ていたC、DのうちCが逃げ出るや「騒ぐと殺すぞ」と言ってBを脅迫したが、続いて他の二人も逃げ出したので、被告人は前示金品を取っただけで同家から逃げたというにある
  • その事実は窃盗罪の既遂と強盗罪の未遂とを包括的に観察し、重い強盗罪の未遂をもって処
  • 断すべきである

と判示しました。

東京地裁判決(昭和55年10月30日)

 この判例は、財物を窃取した後、強盗に着手したが未遂に終わった事案で、強盗未遂罪の一罪が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 検察官は、被告人が本件手提金庫を1階出入口シャッター内側まで運んだ時点においては、未だ右金庫の占有を取得せず、その後、被害者に暴行、脅迫を加えたうえ、逃走の途中、右金庫を持ち去ったことにより、はじめて被告人は右金庫の占有を取得したことになるので、強盗既遂の罪が成立すると主張する
  • しかし、本件金庫については、1階出入口シャッター内側まで運んだ時点において、既に被告人は占有を取得して、窃盗罪が成立していると解すべきである
  • なるほど、検察官主張のように、右時点において、金庫は未だシャッターの内側で建物内にあり、被告人は、その後も金品を物色しているので、窃取行為を完了した意思でなかったことは認められる
  • しかし、被害者方の建物は、主として、A産業株式会社の用に供せられているとは言うものの1階倉庫、2階社長事務室、被害者家族の居室、3階経理等事務室として、それぞれ独立の用途に供せられ、2階、3階の各事務室には、施錠のできるドアが設置されている3階建の建物であって、被告人は、本件金庫をその2階の事務室から1階の出入口まで運び、シャッターの内側とは言え、シャッターからへだたることわずか2、30センチメートルの所に置いたものであり、また、そのシャッターも被告人が押し上げて入った時のままの状態にあったのである
  • 被告人の供述によれば、右金庫をいつでも持ち出せるように置いておいたというのであるが、右金庫の形状を考えれば、まさにそのような状態で置かれてあり、現に被告人は右シャッターの出入口から逃走する際、右金庫につまずき、その存在に気づきこれを持ち去ったのである
  • また、被告人は確かになお金品の物色を継続しており、その意味において検察官主張のような窃取行為を完了した意思ではなかったであろうが、右金庫について窃取行為は完了した意思であったのである
  • このような場合、右時点において、被告人は右金庫の占有を取得した、すなわち、自己の事実的支配のもとに置いたと認めるのが相当である
  • そうすると、被告人は他に何らの財物をも盗取していないのであるから、本件は窃盗既遂後に強盗の着手があり、その強盗が未遂に終った場合の擬律の問題となる
  • 検察官は、窃盗着手以後の行為を包括して強盗既遂の一罪が成立すると主張する
  • しかし、強盗の罪は、暴行又は脅迫の手段をもって、他人の財物を強取することにより成立するところに特徴があるのであるから、こうした定型性が認められない以上、強盗既遂の罪が成立する理由がなく、また、窃盗既遂と強盗未遂とを包括的に評価するとしても、それによって窃盗既遂の犯罪事実の一部が強盗未遂が犯罪事実の一部になる理由もない
  • 検察官の主張は採用できない
  • 本件はいわゆる居直り強盗の事案であり、社会的事実の一個性から、窃盗既遂の罪と強盗未遂の罪との二罪が成立し、両者は併合罪の関係にあるとするのも妥当でなく、本件のように、強盗未遂に窃盗が先行することは、強盗未遂の類型的な社会的事実であると認められるので、強盗未遂の構成要件は既に先行する窃盗を考慮して定められているものとして、強盗未遂の一罪が成立し、先行する窃盗は独立して評価の対象にならないものと解するのが相当である
  • 以上の理由により、本件は強盗未遂の一罪が成立するものと認めた

と判示しました。

大阪高裁判決(昭和62年9月10日)

 この判例は、現金を窃取した後、強姦をし、更に被害者の畏怖に乗じて強盗未遂を敢行した事案で、窃盗と強盗未遂の罪数は、包括一罪となるから、刑が重い強盗未遂罪の一罪が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 被告人は、強姦及び窃盗の両目的をもって室内に侵入し、ハンドバックの中から現金を窃取し、被害者を強姦した後、更に同女を脅して現金を奪おうと企て、強姦の際の暴行脅迫により同女が極度に畏怖しているのを認識しながら、「金はどこにある。」と語気鋭く申し向けたところ、もし現金の在り場所を言わなければ、更に生命・身体にいかなる危害を加えられるかもしれないと畏怖した同女が「そこらへんにあるでしょう」と言って、右のハンドバックを指し示したものの、もうそこからは現金を抜き取った後だったので、現金を奪う気がなくなり、それ以上現金を探す事なく、その場を立ち去ったことが認められ、強姦後の行動だけをとらえても、優に強盗(未遂)罪の構成要件を充たすものといわなければならない
  • すなわち、本件は、住居侵入の後、まず窃盗があり、次に強姦があり、最後に強盗未遂があった事案であり、窃盗と強盗未遂とは、財物奪取に向けた社会的に同質の行為が、同一場所で同一機会に連続してなされたものと評価されるので、両罪のいわゆる包括一罪として重い強盗未遂罪の刑で処断すべきものと解するのが相当である
  • 現金は、暴行脅迫によって奪取されたものではないので、強盗既遂罪は成立しない

と判示し、①住居侵入と窃盗、②強姦と強盗未遂との間には、それぞれ手段結果の関係があるので、牽連犯であり、窃盗と強盗未遂との間には包括一罪の関係があるので、一罪として重い強盗未遂罪の刑で処断するとしました。

考え方

 前者の強盗既遂罪が成立するとした判例は、当初から強盗をする故意の下に窃取がまずあり、ついで暴行・脅迫が行われた点で、強盗既遂罪としての包括評価が可能であるとしたものです。

 これに対し、後者の強盗未遂罪が成立するに止まるとした判例の場合は、窃盗自体がまず完全に成立したものの、それから強盗の故意に基づく暴行、脅迫が行われて未遂に終わっている点で、強盗による包括評価が、強盗未遂罪の限界内にとどまるとしたものです。

 どちらの判例の考え方が正しいか、誤っているかという問題ではなく、個別の事件の事案ごとに、正しいと思われる結論を導いていくことになります。

強盗罪の罪数の記事一覧

強盗罪(25) ~罪数①「強盗罪の罪数の決定基準」「強盗罪の罪数に関する判例」を判例で解説~

強盗罪(26) ~罪数②「窃盗と強盗が同時に行われた場合、包括一罪として強盗罪のみが成立する」を判例で解説~

強盗罪(27) ~罪数③「1個の強盗行為によって、1項強盗と2項強盗が行われた場合は、強盗罪の一罪が成立する」を判例で解説~