過失運転致死傷罪

過失運転致死傷罪(27)~「速度超過を過失と認定する場合の考え方」を判例で解説~

速度超過を過失と認定する場合の考え方

 道路では最高速度が定められており、道路交通法はこれを超過して運転することを禁止していて、罰則も定められています(道路交通法22条、118条1項1号)。

 しかし、道路交通法ではなく、刑法において、制限時速を超過することが直ちに過失になるものではなく、個別の状況に応じて、その速度で走ることについて過失の有無が判定されます。

 具体的には、

  • 道路における速度の規制状況
  • 速度の超過程度
  • 運転の時間帯(昼か夜か)
  • 天候(晴れか雨か)
  • 道路状況(市街地か田舎か、人車の通行が頻繁か閑散か、道路の幅員は広いか狭いか)
  • 交差点の状況
  • 事故の相手の年齢、行動状況

など、様々な要因が考慮され、その速度で走ったことの過失の有無が判定されます。

事例

 裁判例は、

  • 速度超過のみを過失としたもの
  • 速度超過及び前方不注視を過失とするなど、他の要因とあわせて過失を認定しているもの

に大別できます。

速度超過のみを過失とした事例

 相当の高速度で進行していた場合について、速度超過のみを過失とした事例として、以下のものがあります。

① 夜間、被告人がコンクリートミキサー車を運転し、市街地を時速約70キロメートル(制限時速30キロメートル)で進行中、 自動二輪車が被告車進路上に斜めに対向して来たのを約40メートル前方で発見し、急停車の措置をとったが衝突し、自動二輪車運転者を死亡させた事案で、被告人の速度超過のみを過失と認定しました(広島高裁判決 昭和44年2月13日)。

② 深夜、タクシーを時速60キロメートル(制限時速40キロメートル)で、車道幅員11メートルの道路(歩車道別あり)を運転し、車道幅員15.6メートルの道路(歩車道別あり)と交差する交通整理の行われていない交差点を直進しようとしたところ、交差点出口付近を右から左に駆け足で横断していた者(52歳)を前方約28メートルの対向車線上に認め、急制動、左転把の措置をとったが衝突して死亡させた事案で、被告人の速度超過のみを過失と認定しました(東京地裁判決 昭和47年3月30日)。

速度超過及び前方不注視を過失とした事例

 速度超過及び前方不注視を過失とした事例として、以下のものがあります。

① 夜間、被告人が普通乗用自動車(前照灯下向き)を運転して、時速約70キロメートルで進行中、小走りで斜め横断中の者(39歳)を前方約16.7メートルで発見し、急制動の措置をとったが衝突死亡させた事案で、速度超過及び前方不注視を被告人の過失として認定しました(大阪高裁判決 昭和60年4月1日)。

② 早朝、被告人がダンプカーを運転し、優先道路を時速約70キロメートル(制限時速40キロメートル)で進行中、一時停止の道路標識、道路標示が設けられている非優先道路と交差する閑散とした交差点を直進しようとしたところ、右方道路から時速20~30キロメートルで進行して来た相手車を前方約18.5メートルで発見し、衝突して死亡させた事案で、速度超過及び前方不注視を被告人の過失として認定しました(東京高裁判決 昭和55年3月4日)。

③ 夜間、雨中、被告人が大型貨物自動車を運転して、国道を時速約55キロメートル(制限時速40キロメートル)で進行中、前方を右から左に横断中の者(51歳)を前方約25メートルで発見し、急制動の措置をとったが衝突死亡させた事案で、速度超過及び前方不注視を被告人の過失として認定しました(札幌高裁判決 昭和48年9月20日)。

④ 昼間、被告人がタクシーを運転し、公団住宅内道路を時速約50キロメートル(制限時速40キロメートル)で進行中、前方を右から左に横断中の幼児(2歳)を、右前方約20メートルで発見し、急制動の措置をとったが衝突死亡させた事案で、速度超過及び前方不注視を被告人の過失として認定しました(東京高裁判決 昭和44年8月4日)。

⑤ 夜間、降雨中、被告人が普通乗用自動車(前照灯下向き)を運転して、時速約50キロメートルで進行中、前方を右から左に横断中の自転車を右斜め前方14.85メートルで発見し急制動の措置をとったが衝突し、自転車操縦者に傷害を与えた事案で、速度超過及び前方不注視を被告人の過失として認定しました(東京高裁判決 昭和50年9月30日)。

速度超過があったのに過失なしとされた事例

 速度超過があったのに過失なしとされた事例として、以下のものがあります。

① 夜間、被告人が普通貨物自動車を運転して、幅員約24.9メートル(歩車と車道の別あり)の府道を時速約70キロメートル(制限時速40キロメートル)で進行中、狭い道路(幅員4.2~4.8メートル、歩車と車道の別なし)と交差する交通整理の行われている交差点を青色信号に従って直進しようとした際、右方道路から赤色信号を無視して進行して来る自転車を約32メートル前方で発見し、急制動の措置をとったが衝突し、自転車操縦者が死亡した事案で、速度超過があったものの、被告人に過失なしとしました(大阪高裁判決 昭和46年8月17日)。

② 夜間、被告人が普通乗用自動車を運転し、時速約80キロメートル(制限時速60キロメートル)で国道(幅員9.6メートル)を進行し、農道(幅員3メートル)と交差する交通整理の行われていない交差点を直進しようとした際、右方農道から進行して来る点灯した自動二輪車を、交差点手前約72メートルで発見し、そのまま進行を続けたところ交差点内において衝突し、自動二輪車の運転者が死亡した事案です(最高裁判決 昭和45年12月22日)。

 裁判官は、

  • 本件では、被害者が一時停止をして被告人に進路を譲るべきものであったのである
  • もちろん、被告人が法定速度である時速60キロメートルで運転していたとすれば、あるいは本件のような事故は起こらなかったかもしれない
  • この意味で、道路交通法違反(速度違反)と被害者の死亡との間には条件的な因果関係はあるが、このような因果関係があるからといって、ただちに過失があるということができない

と判示し、被告人の過失を否定しました。

③ 雨の中、被告人が普通乗用自動車を運転し、国道(車道幅員11.2メートル)を時速約70 キロメートル(制限時速60キロメートル)で進行し、車道幅員約7メートルの道路と交差する交差点を直進しようとした際、左方道路から進行して来て、国道へ右折しようとして国道に進出した普通貨物自動車を前方約22.2メートルで発見し、軽く制動し、やや右寄りに進行して、これを避けようとしたが衝突し、相手車運転者が傷害を負った事案で、速度超過があったものの、被告人に過失なしとしました(東京高裁判決 昭和45年5月6日)。

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