過失運転致死傷罪

過失運転致死傷罪(23)~「道路脇などから飛び出した者に対する注意義務」を判例で解説~

道路脇などから飛び出した者に対する注意義務

 過失運転致死傷罪(自動車運転死傷行為処罰法5条)における「自動車の運転上必要な注意」とは、

自動車運転者が、自動車の各種装置を操作し、そのコントロール下において自動車を動かす上で必要とされる注意義務

を意味します。

 (注意義務の考え方は、業務上過失致死傷罪と同じであり、前の記事参照)

 その注意義務の具体的内容は、個別具体的な事案に即して認定されることになります。

 今回は、道路脇などから飛び出した者に対する注意義務について説明します。

注意義務の内容

 道路脇などから飛び出した者に対する事故について、車の運転手である被告人に過失が認められるかは、被害者が児童(幼児を含む)と成人とでは大きく異なります。

 これは、児童については、その行動が予測不可能であり、合理的行動を期待できないためです。

 以下で、児童と成人(児童以外)とに分けて説明します。

① 児童に対する場合

 児童については、いつ何どき不測な行動に出るかもしれないことを考慮して対応する必要があり、路傍の児童については、飛び出しの徴表が見られない場合であっても、児童の動静に注視し、児童が進路前方に飛び出した場合にも急停車し得るよう徐行すべき義務があるとされます(東京高裁判決 昭和42年9月21日)。

 車の運転手である被告人に、その注意義務違反があり、過失があったとされるためには、被告人が児童の存在について、認識又は認識する可能性があったといえる必要があります。

 例えば、駐車車両の前方の死角から児童が飛び出した場合など、被告人が前方注視義務を尽くしていても、児童の存在を認識した時点では衝突を回避できない場合には、被告人の過失は否定されます(水戸地裁判決 平成20年1月17日)。

 児童と衝突することの結果回避可能な時点で、児童の存在についての認識又は認識の可能性が肯定される場合には、児童が飛び出すことの予見可能性も肯定され、これに対応して、被告人に対し、警音器吹鳴、徐行、一時停止等の結果を回避するための措置をとるべき義務が生じ、被告人がこれを怠れば、過失ありとされるのが通常です。

事例

 被告人に過失ありとした事例として、以下のものがあります。

① 道路脇、道路端で遊んでいた児童が飛び出してきて衝突した事案で、被告人に過失ありとしました(東京高裁判決 昭和42年9月21日)

② 道路端に佇立していた児童が飛び出してきて衝突した事案で、、被告人に過失ありとしました(高松高裁判決 昭和30年7月29日)

③ 道路左側防護壁裏側から飛び出した児童に衝突した事案で、被告人がこの道路を約1年間通勤のため自動車を運転して通行し、事故現場の状況に詳しいことから、子供の飛び出しが予見できたことを前提とし、被告人に過失ありとしました(福岡高裁宮崎支部判決 昭和50年11月7日)。

 上記事例とは逆に、被告人の過失を否定した事例として、以下のものがあります。

① 道路左側を同方向に歩行中の子供2人の兄弟(8歳と11歳)のうち、兄が駆け出し、次いで弟も駆け出して衝突した事案で、被告人の警音器吹鳴により2人がいったん道路左端に避難しており、飛び出しの予見可能性なしとし、被告人の過失を否定しました(東京高裁判決 昭和32年5月7日)。

② 道路左前方の住宅前庭、住宅の囲いをなしている生垣など、児童が佇立、存在していることが認識されない箇所から児童が飛び出しきて、衝突した事案で、飛び出しの予見可能性がないとし、被告人の過失を否定しました(名古屋高裁金沢支部判決 昭和41年1月25日)。

② 保護者、監督者に付き添われている児童に対する場合

 保護者・監督者に付き添われている児童に対する事故については、外形的に見て、幼児に対する保護者・監督者の保護・監督が十分であるか否かが、幼児の飛び出しについての予見可能性の有無の認定に影響を与えます。

 被告人に過失ありとした事例として、以下のものがあります。

① 保護者がいても、児童同士で手をつないでいて、その児童が飛び出し来て、衝突した事案で、被告人に過失ありとしました(広島高裁判決 昭和37年5月10日)。

② 保護者に付き添われている4人の児童中1人が飛び出し、次いでもう1人が飛び出し、この児童がはねられた事案で、被告人に過失ありとしました(高松高裁判決 昭和29年2月24日)。

③ 横断歩道付近の歩道に立ち話をしている母親とともに立っていた児童が飛び出し、衝突した事案で、被告人に過失ありとしました(広島高裁判決 昭和57年10月5日)。

④ 道路右側の幼稚園前に立っている保母が、反対側にいる児童を手招きし、それに応じて別の児童が飛び出し、衝突した事案で、被告人に過失ありとしました(仙台高裁判決 昭和41年4月15日)

 被告人に過失なしとした事例として、以下のものがあります。

① 歩道上を母親に手を引かれて同一方向に歩行中の児童が、母親の手を振り放して車道に走り出し、衝突した事案で、被告人に過失なしとしました(大阪地裁判決 昭和40年7月9日)。

② 前方道路交差点左側で父親が児童の手を握って自動車通過を待っている姿勢でたたずんでいたところ、父親が突然手を放し、児童を1人で駆け出させ、衝突した事案で、被告人に過失なしとしました(名古屋高裁判決 昭和34年3月16日)。

③ 道路右側に停車中のタクシーの後ろから、佇立している父親の手を離れて車道に小走りに出て来た児童と衝突した事案で、被告人に過失なしとしました(東京高裁判決 昭和44年2月17日)。

③ 成人(児童以外)に対する場合

 成人の飛び出しについては、停車中のバス・電車の陰など、人が飛び出すことが予見可能な場所から飛び出した者と衝突した場合について過失ありとした事例があります(東京高裁判決 昭和54年4月11日、仙台高裁秋田支部判決 昭和36年11月15日)。

 道路脇などからの飛び出しについては、以下の事例のように、過失が否定される場合があります。

① 道路左端に小学一年生とともに立っていた心身障害者(実際には心身障害者であるが、一見しては心身障害者であることが分からない者)が、その小学一年生が制止したのに飛び出し、衝突した事案で、被告人に過失なしとしました(東京高裁判決 昭和45年12月23日)。

② 成人が夜間に見通しが悪い店舗から飛び出し来て衝突した事案で、被告人に過失なしとしました(大阪高裁判決 昭和42年3月28日)。

③ 横断禁止とされている車道上でタクシーを止めるため佇立していた者が走り出し、衝突した事案で被告人に過失なしとしました(東京高裁判決 昭和55年9月2日)。

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