過失運転致死傷罪、業務上過失致死傷罪、重過失傷害罪の罪数
過失運転致死傷罪(自動車運転死傷行為処罰法5条)と業務上過失致死傷罪、重過失傷害罪(刑法211条前段・後段)の罪数の考え方について説明します。
1個の過失行為により、数人を死傷させた場合
1個の過失行為により、数人を死亡させ、数人に傷害を負わせた場合は、1個の行為で数個の罪名に触れ、観念的競合となります(大審院判決 大正7年1月19日)。
例えば、1個の過失行為により、2個の衝突、3名の致死傷を発生させた場合について、観念的競合とした事例があります(東京高裁判決 昭和39年7月22日)。
業務上過失傷害罪が成立する場合は、重過失傷害罪は成立しない
業務上の過失によって人を負傷させたが、それが重過失にも当たる場合でも、業務上過失傷害罪のみが成立し、これとは別に重過失傷害罪は成立しません(仙台高裁判決 昭和30年11月16日)。
過失運転致死傷罪と業務上過失致死傷罪の関係では、過失運転致死傷罪のみが成立する
過失運転致死傷罪と業務上過失致死傷罪の関係では、過失運転致死傷罪のみが成立します。
これは、過失運転致死傷罪は、自動車の運転上必要な注意を怠り、人を死傷させた者を処罰することにより、人の生命・身体の安全を保護しようとする過失犯であり、業務上過失致死傷罪と罪質・保護法益を共通にするためです。
業務上の過失により傷害を与えた後、殺意をもってさらに加害行為に出て被害者を死亡させた場合
業務上の過失により傷害を与えた後、殺意をもってさらに加害行為に出て被害者を死亡させた場合は、業務上過失傷害罪と殺人罪が成立し、両者は併合罪の関係になります。
人を熊と誤認して猟銃を発射し、被害者に瀕死の重傷を負わせ、誤射に気付いた後、新たに殺意を抱いてさらに猟銃を一発発射して胸部に命中させて即死させた事案で、業務上過失致死罪と殺人罪が成立し、両罪は併合罪となるとしました(最高裁決定 昭和53年3月22日)。
《特異事例》
過失により傷害を与えた後、故意によりさらに傷害を与え死亡させたが、死因がどの段階の行為によって生じたか明らかでない場合には、業務上過失傷害罪と傷害罪が成立し、両者は併合罪の関係になるとした裁判例があります(東京高裁判決 昭和63年5月31日)。
無免許又は酒気帯び運転と過失運転致死傷罪は併合罪となる
無免許又は酒気帯び運転をして(道路交通法違反)と交通事故を起こした場合(過失運転致死傷罪)は、道路交通法違反と過失運転致死傷罪は併合罪に関係になります。
無免許など運転中における追越しの際の過失による事故について、道路交通法の無免許運転の罪と業務上過失致死傷罪(現行法:過失運転致死傷罪)とは併合罪であるとました(最高裁決定 昭和33年3月17日)。
酒に酔った状態で自動車を運転中(道路交通法違反)、過失により人身事故を発生させた場合における酒酔い運転の罪と業務上過失致死傷罪(現行法:過失運転致死傷罪)とは、酒に酔った状態で運転したことが過失の内容をなすかどうかにかかわりなく、道路交通法違反と過失運転致死傷罪とは併合罪であるとしました(最高裁決定 昭和49年5月29日)。
裁判官は、
- 酒に酔った状態で自動車を運転中に、過って人身事故を発生させた場合についてみるに、もともと自動車を運転する行為は、その形態が、通常、時間的継続と場所的移動とを伴うものであるのに対し、その過程において人身事故を発生させる行為は、運転継続中における一時点一場所における事象であって、前記の自然的観察からするならば、両者は、酒に酔つた状態で運転したことが事故を惹起した過失の内容をなすものかどうかにかかわりなく、社会的見解上、別個のものと評価すべきであって、これを一個のものとみることはできない
- したがって、本件における酒酔い運転の罪とその運転中に行なわれた業務上過失致死の罪とは併合罪の関係にあるものと解するのが相当である
と判示しました。
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