前回の記事の続きです。
公判手続は、冒頭手続→証拠調べ手続 →弁論手続→判決宣告の順序で行われます(詳しくは前の記事参照)。
前回の記事では、冒頭手続を説明しました。
今回の記事では、証拠調べ手続の最初に行う
冒頭陳述(ぼうとうちんじゅつ)
を説明します。
検察官の冒頭陳述
冒頭手続が終わると、証拠調べの手続(裁判官に犯罪を証明する証拠を提出し、その証拠を公判廷で取り調べる手続)に入ります(刑訴法292条)。
そして、証拠調べの手続は、検察官の冒頭陳述から始まります。
検察官の冒頭陳述とは、
検察官が、証拠調べの始めに、公判廷において、証拠によって証明する事実(立証事実)を述べる手続
をいいます。
例えば、窃盗事件であれば、
- 被告人は、〇月〇日、車で東京都内のコンビニに行き、そこでパン1個をバッグに入れ、精算しないで店を出て万引きし、そのまま車で自宅に帰り、自宅でそのパンを食べた
という感じで、検察官がこれらから証拠によって証明すべき事実を述べます。
冒頭陳述の規定は刑訴法292条にあり、「検察官は、証拠調べの始めに、証拠によって証明すべき事実を明らかにしなければならない」と規定されています。
検察官の冒頭陳述の目的
検察官の冒頭陳述は、
- 事案の全ぼうを明らかにすること
- 検察官の立証方針の大綱を示すことにより、裁判所が証拠調べに関する訴訟指揮を適切に行えるようにすること
- 被告人・弁護人が、検察官の攻撃の範囲(犯罪事実の証明範囲)を把握し、防御の準備ができるようにすること
を目的として行われます。
検察官の冒頭陳述に対し、被告人・弁護人は異議を申し立てることができる
検察官の冒頭陳述に対しては、被告人・弁護人は、証拠調べに関する異議を申し立てることができます(刑訴法309条)。
理由は、検察官の冒頭陳述は、証拠調べの始めに行われるものであり、証拠調べの手続の一つであるためです。
検察官が冒頭陳述で述べる事項
検察官が冒頭陳述で述べる事項は、証拠によって証明する事実(立証事実)です。
よって、証拠により証明しない(できない)事実を述べることはできません。
この点は、刑訴法296条ただし書に規定があり、
とあります。
検察官が証拠により証明しない(又は証明できない)事実を述べた場合、被告人・弁護人は、証拠調べに関する異議を申し立てることができます(刑訴法309条1項)。
裁判所がこの異議を認めた場合、
- 検察官は、証拠により証明しない(又は証明できない)事実を述べた部分を自発的に撤回する
又は
- 裁判所において、その部分を決定で排除する
という措置が採られます。
被告人又は弁護人の冒頭陳述
裁判所は、検察官の冒頭陳述が終わった後、被告人又は弁護人に対しても、冒頭陳述を行うことを許し、証拠により証明すべき事実を述べることを許すことができます(刑訴法規則198条1項)。
被告人又は弁護人の冒頭陳述は、検察官の冒頭陳述と異なり、行わなければならないというものではなく、自由に行えるものでもありません。
被告人又は弁護人が冒頭陳述を行いたい場合は、裁判所の許可を得る必要があります。
ただし、公判前整理手続に付された事件については、争点の明確化のために、被告人又は弁護人は、証拠により証明すべき事実その他の事実上及び法律上の主張があるときは、検察官の冒頭陳述に引き続い、被告人又は弁護人の冒頭陳述を行う必要があります(刑訴法316の30)。
被告人又は弁護人の冒頭陳述も、検察官の冒頭陳述と同様に、証拠により証明しない(又は証明できない)事実を述べることはできません。
この点は、刑訴法規則198条2項に規定があり、
- 証拠とすることができず、又は証拠としてその取調べを請求する意思のない資料に基いて、裁判所に事件について偏見又は予断を生ぜしめるおそれのある事項を述べることはできない
とあります。
もし、被告人又は弁護人がこれに違反する冒頭陳述を行った場合、検察官は、証拠調べに関する異議を申し立てることができます(刑訴法309条1項)。
【補足】事件の移送の決定、土地管轄の管轄違の申立ては、検察官の冒頭陳述が始まったらできなくなる
事件の移送の決定(刑訴法19条1項)と土地管轄の管轄違の申立て(刑訴法331条1項)は、証拠調べ開始後はできないと規定されます(刑訴法19条2項、刑訴法331条2項)。
よって、証拠調べの手続の一つである検察官の冒頭陳述が開始された後は、事件の移送の決定と土地管轄の管轄違の申立てはできなくなります(東京高裁判決 昭和26年9月6日)。
次回の記事に続く
次回の記事では、証拠調べ手続のうち、冒頭陳述の次に行う
証拠調べ請求
を説明します。