刑事訴訟法(公判)

証拠裁判主義とは? ~厳格な証明、自由な証明を説明

証拠裁判主義とは? 厳格な証明とは?

 刑事裁判において、犯罪事実はすべて証拠によって認定されます。

 これを

証拠裁判主義

といいます。

 証拠裁判主義は、刑事訴訟法317条に法的根拠があり、この条文で

「事実の認定は、証拠による。」

と規定しています。

 この条文における「証拠」とは、

証拠能力があり、かつ、適法な証拠調べを経た証拠

の意味します。

 このような証拠による証明を「厳格な証明」といいます。

厳格な証明の対象となる事実

 刑事訴訟法317条によって厳格な証明を要求される「事実」は、

  1. 公訴事実
  2. 処罰条件・処罰阻却事由
  3. 刑の加重事由・刑の減免事由
  4. 犯罪事実の内容をなす情状

が該当します。

 ①~④について以下で詳しく説明します。

① 公訴事実

 公訴事実は、刑事裁判の中心をなす最も重要な事実であり、厳格な証明が必要となります。

 公訴事実の存否の証明には、

の証明が該当します。

② 処罰条件・処罰阻却事由

 処罰条件とは

犯罪が成立しても、それだけでは刑罰権が発動しない特定の犯罪に対し、刑罰権を発動させるための条件

をいいます。

 親族間の犯罪に関する特例刑法244条1項257条1項)という法の規定があり、これが処罰阻却事由です。

 親族間の犯罪に関する特例とは、親族との間で起こした窃盗、詐欺などの犯罪は、刑を免除するという規定です。

 例えば、父親の財布から千円札を抜いても窃盗罪を犯しても刑が免除されます。

 処罰条件が必要な犯罪は、事前収賄罪刑法197条2項:これから公務員になろうとする人が賄賂をもらう犯罪)です。

 事前収賄罪は、「公務員となったという事実」(=処罰条件)がなければ、国は犯人に刑罰を与えることができません。

 処罰阻却事由とは

成立した犯罪につき、刑罰権の発生を妨げる条件

をいいます。

 処罰条件・処罰阻却事由は、犯罪そのものの成立要件ではありませんが、刑罰権の発生を左右する重要な事実なので、厳格な証明を必要とすると解されています。

※ 処罰条件・処罰阻却事由のより詳しい説明は前の記事参照

③ 刑の加重事由・刑の減免事由

 刑の加重事由は、

  1. 結果的加重犯における結果
  2. 常習犯罪における常習性
  3. 再犯加重刑法57条)の要件となる前科
  4. 数個の事実が併合罪となることを妨げる中間確定裁判(刑法45条後段

が該当します。

 刑の減免事由は

が該当します。

 刑の加重事由・刑の減免事由は、公訴事実の証明や、処断刑の範囲を定めることに関わるので、厳格な証明を要します。

④ 犯罪事実の内容をなす情状

 情状(裁判官が刑の重さを決めるにあたって汲み取る事情、犯人の性格・年齢・境遇など)に関する事実のうち、

  • 犯罪の動機・手段・方法
  • 被害の程度

は、単なる情状事実ではなく、犯罪事実の内容に属するものなので、厳格な証明を要します。

 このように、

  1. 公訴事実
  2. 処罰条件・処罰阻却事由
  3. 刑の加重事由・刑の減免事由
  4. 犯罪事実の内容をなす情状

の証明は「厳格な証明」が求められます。

 これに対し、上記①~④以外の重要性が少ない事実については「厳格な証明」までは必要とされず、「自由な証明」で足ります。

自由な証明とは?

 自由な証明とは、証明に厳格性が求められない証明をいいます。

 自由な証明の対象となる事実は、上記「①公訴事実、②処罰条件・処罰阻却事由、③刑の加重事由・刑の減免事由、④犯罪事実の内容をなす情状」の厳格な証明の対象となる事実以外の重要性が少ない事実です。

 具体的には以下の事実が該当します。

① 単なる情状

単なる情状は、上記の犯罪事実の内容をなす情状ではない状況であり、具体的には

が該当します。

 単なる情状は、犯罪事実の内容をなす情状とは異なり、重要性が少ない上に、その内容や形態は複雑かつ非類型的なので、その認定に厳格な証明を要求することは適当ではないとされます。

 そのため自由な証明でよいとされています。

② 没収・追徴に関する事実

 没収に関する事実とは、

  • 没収の対象となる物が存在すること
  • それが没収事由に該当して没収できること

をいいます。

 追徴に関する事実とは、

  • 追徴の事由が存在すること
  • 追徴金額の算出方法

をいいます。

 没収・追徴に関する事実は、没収・追徴が付加刑にすぎず、あえて厳格な証明を要求するまでの必要はないとされ、自由な証明で足ります。

③ 訴訟法的事実

 訴訟法的事実は、公訴事実の存否を判断するための前提となる事実にすぎないため、自由な証明で足ります。

 訴訟法的事実は、例えば、

などが該当します。

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