刑事訴訟法(公判)

伝聞証拠⑫~刑訴法321条の2のビデオリンク方式による証人尋問調書の説明(証拠能力の付与の方法など)

 前回の記事の続きです。

 前回の記事では、刑訴法321条4項の「鑑定書」の説明をしました。

 今回の記事では、刑訴法321条の2のビデオリンク方式による証人尋問調書の説明をします。

刑訴法321条の2のビデオリンク方式による証人尋問調書の説明

ビデオリンク方式による証人尋問とは?

 証人が性被害者の場合、法廷に立ち、被告人や傍聴人の面前で、性被害の内容を証言することは、かなり精神的負担が大きいです。

 そこで、証人が法廷において、被告人や傍聴人に姿をさらさなくて済むように、証人は裁判所の別室にいて、その裁判所別室にいる証人の映像・音声を法廷に映して証人尋問を行う方法が採られる場合があります(刑訴法157条の6)。

 この方法による証人尋問を

ビデオリンク方式による証人尋問

といいます(刑訴法157条の6)。

 ビデオリンク方式による証人尋問は、証人が入る別室には、証人のみが入り、裁判官、検察官、被告人、弁護人は、法廷に残ってモニターを通じて証人の姿を見ます。

※ ビデオリンク方式による証人尋問による証人尋問の詳しい説明は前の記事参照

 ビデオリンク方式による証人尋問がなされると、その様子を記録したDVD等の記録媒体が作成されます。

 その記録媒体は証人尋問調書の一部となり、その証人尋問調書は、尋問内容が記載された紙面部分と記録媒体から構成されることになります(刑訴法157条の6第3項・4項)。

ビデオリンク方式による証人尋問調書への証拠能力の付与の方法

 記録媒体が添付されていない証人尋問調書は、刑訴法326条の証拠として採用しても良いとする相手方(検察官又は被告人・弁護人)の同意により証拠能力が付与されるか、刑訴法321条1項1号の要件を満たさない限り、裁判官が証拠採用できません。

 これに対して、ビデオリンク方式による記録媒体がその一部とされた証人尋問調書の場合は、刑訴法321条の2により証拠能力が付与されます。

 刑訴法321条の2は、

ビデオリンク方式による記録媒体がその一部とされた証人尋問調書は証拠とすることができる

と規定しており、ビデオリンク方式による証人尋問調書であること自体で証拠能力が認められます。

 このように証拠能力が認められる理由は、

  • 前に裁判官の面前で宣誓の上で証人の証人尋問が行われており、尋問時の裁判官が心証を得たのと同じ証人尋問の状況が記録媒体を再生すれば再現でき、直接主義の要請を相当程度充たすことができること
  • 訴訟関係人(検察官、被告人・弁護人)に証人尋問の機会を与えていることから、証拠能力を認めても差し支えないこと

が理由として挙げられます。

 刑訴法321条の2の規定により証拠能力が付与されるのは、

「被告事件の公判準備若しくは公判期日における手続以外の刑事手続」又は「他の事件の刑事手続」においてなされた証人の証言等を記録した記録媒体がその一部とされた調書

です。

 「被告事件の公判準備若しくは公判期日における手続以外の刑事手続」とは、

当該事件についての刑訴法226条又は刑訴法227条の規定による第1回公判期日前の証人尋問及び刑訴法179条の規定による証拠保全の手続

を指します。

 「他の事件の刑事手続」とは、

共犯者などの他の被告事件の公判準備又は公判期日における証人尋問手続など

を指します。

 他の刑事事件等においてなされたビデオリンク方式による証人尋問の状況を記録した記録媒体がその一部とされた証人尋問は、後の公判においては、被告人以外の者の裁判官の面前における供述を録取した書面であって伝聞証拠に該当することとなるため、本来であれば、刑訴法321条1項1号の要件をみたす場合に限って証拠能力が認められると考えることができます。

 しかし、法は、証人の負担を軽減するという観点から、刑訴法321条の2の規定を作り、ビデオリンク方式による証人尋問調書であること自体で証拠能力が認めることとしました。

刑訴法321条の2によりビデオリンク方式による証人尋問調書の証拠能力が認められた場合の手続

 刑訴法321条の2によりビデオリンク方式による証人尋問調書の証拠能力が認められた場合には、裁判所は、調書に添付された記録媒体を再生する方法により取り調べなければなりません(刑訴法321条の2第2項)。

 さらに、当該証人尋問調書を取り調べた後で、訴訟関係人に対し、その供述者を尋問する機会を与えなければなりません(刑訴法321の2第1項後段)。

 しかし、再び証人が尋問されたのでは、証人の負担軽減になりません。

 そこで、法は、この場合において、当該証人尋問調書中の証人の供述は、刑訴法295条1項及び321条1項1号・2号の適用については、当該公判廷で証言したのと同様に取り扱われる旨定めました(刑訴法321の2第3項)。

 その結果、当該証人尋問調書を取り調べた後に、供述者の証人尋問が実施された際、既にビデオリンクによる証人尋問によって尋問された事項について重ねて尋問された場合には、重複尋問としてその尋問を制限することができます。

 さらに、ビデオリンクによる証人尋問によって証人が供述したところと、別の裁判官調書や検察官調書の供述が相反している場合には、刑訴法321条1項1号1号書面若しくは同項2号2号書面の相反性の要件を満たすことになるので、別の裁判官調書や検察官調書にも証拠能力が付与されます。

 これにより、ビデオリンク方式により尋問された証人に、被害状況などを重ねて証言させて著しい精神的負担をかけさせることを避けることができます。

次回の記事に続く

 次回の記事では、

刑訴法322条の被告人の供述代用書面(供述書・供述録取書)

の説明の説明をします。

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