刑法(威力業務妨害罪)

威力業務妨害罪(15) ~「①凶器準備集合罪、②恐喝罪、③建造物侵入罪、④鉄道営業法38条の罪との関係」を説明~

 前回の記事の続きです。

威力業務妨害罪と他罪との関係

威力業務妨害罪と

1⃣ 凶器準備集合罪刑法208条の2第1項

2⃣ 恐喝罪刑法249条

3⃣ 建造物侵入罪(刑法130条

4⃣ 鉄道営業法38条の罪

との関係を説明します。

1⃣ 凶器準備集合罪との関係

 「威力」の内容が凶器準備集合罪を成立させる場合、凶器準備集合罪と威力業務妨害罪とは別個に成立し、両罪は観念的競合になるとした判例があります。

東京地裁判決(昭和47年2月17日)

 多数の鉄パイプ・石塊等を準備・集合して病院を占拠し、診療業務を妨害するなとした行為について、凶器準備集合罪と威力業務妨害罪が成立し、両罪は観念的競合になるとしました。

2⃣ 恐喝罪との関係

 「威力」の内容が恐喝罪を成立させる場合、恐喝罪と威力業務妨害罪とは別個に成立し、両罪は手段と結果の関係にあるため、牽連犯になるとした判例があります。

大審院判決(大正2年11月5日)

 恐喝を遂行するため、他人の営業を妨害すべき虚偽事項を新聞紙上に掲載し、金を出さなければ引き続き記事を掲載する態度を示して他人を畏怖させ金員を交付せしめた事案です。

 裁判所は、

  • 被告は恐喝罪を遂行せんがため、他人の営業を妨害すべき虚偽の事項を新聞紙上に掲載し、もし出金せざるにおいては、引き続きその記事を掲載すべき態度を示し、他人を畏怖せしめて、もって金員を交付せしめたりというに在りしは、右営業妨害の行為は恐喝罪の具体的構成事実なりといえども金員交付を為さしむるために施したる手段にほかならざれば、刑法第54条第1項後段にいわゆる犯罪の手段たる行為にして他の罪名に触れるものなりとす

と判示しました。

 この判決において、恐喝罪と牽連犯の関係に立つ業務妨害罪が、威力業務妨害罪、偽計業務妨害罪、虚偽風説流布業務妨害罪のいずれであるのかについては、判文上は明らかにされていません。

 単純に考えれば、「他人の営業を妨害すべき虚偽の事項を新聞紙上に掲載した」行為を捉えているとみられ、そうとすれば虚偽風説流布業務妨害罪ということになります。

 しかし、他方で、判示に係る「右営業妨害の行為は金員交付を為さしむるために施したる手段にほかならない」という部分については、「他人の営業を妨害すべき虚偽の事項を新聞紙上に掲載し、もし金を出さなければ引き続きその虚偽の記事を掲載する態度を示して他人を畏怖させた行為」を指して言っているともみられ、そうすると、このような脅迫行為は、「威力」に当たるから、威力業務妨害罪ということになります。

 あるいは、虚偽風説流布業務妨害罪と威力業務妨害罪の両方ということである場合、罪数関係については、この両罪に当たる単純一罪とする立場と、この両罪の包括一罪とする立場とが考えられます。

3⃣ 建造物侵入罪との関係

 「威力」の内容が建造物侵入罪を成立させる場合、建造物侵入罪と威力業務妨害罪とは別個に成立し、両罪は手段と結果の関係にあるため、牽連犯になるとした判例があります。

京都地裁判決(昭和44年8月30日)

 被告人が大学入試を妨害するため、共闘に所属する学生数十人と大学内に侵入し、バリケードを築いて通路を閉塞し、階段や踊り場に立ちふさがったり、座り込み、「試験実施の理由を説明せよ。」「学部長に合わせろ。」などと叫ぶなどし、大学入試試験の開始を予定時刻より約2時間30分遅延させた事案で、建造物侵入罪と威力業務妨害が成立し、両罪は手段結果の関係があるため、牽連犯となるとしました。

大阪地裁判決(昭和47年2月17日)

 日本万博博覧会のテーマ館である「太陽の塔」の頭頂部に入り込み、約1時間滞留した行為につき、建造物侵入罪と威力業務妨害が成立し、両罪は手段結果の関係があるため、牽連犯となるとしました。

 裁判官は、

  • 太陽の塔は画家岡本太郎氏の構想、制作にかかるもので、その正面、背面および先端にそれぞれ現在、過去および未来を表象すべき表情の顔を画き備えたそれ自体1個の巨大な芸術作品ではあるが、その構造は、高さ約60メートルの周囲が牆壁によって支えられ、内部は1階から地下に降って工スカレーターにより「生命の樹」と題する塔内展示品を順次下から上に眺めて6階に至り、同所から「塔の腕」と称する部分を通り抜けて地上約30メートルの空中回廊に出られる仕組みとなっていて、その間が展示部分として一般観客の観覧の用に供せられ、6階から上は塔内の空気調整および電気関係の機械、器具が設置された「空気調整室」「電気室」と称する部屋がつづき、さらに「電気室」から6個の鉄はしごが連けいして塔内の最上段部に達し、そこから鉄のパイプをくぐり抜けて「黄金の顔」に出られるようになっていること、そして太陽の塔は協会テーマ課の所轄に属し、開館中は塔内およびその近辺に多数の職員、警備員を配置して観客の誘導、警備に当らせるほか、随時技術員等による塔内全般の機械器具の点検、補修等が行われ、閉館後は同職員等による塔内の清掃、整理がなされたうえ、各出入口に施錠し、地下の管理事務所にその鍵を保管して宿直職員による夜間の管理がなされていたことが認められる
  • 以上のような事実に照らすと、太陽の塔は現に万国博覧会協会の管理、支配する1個の建造物であって、刑法第130条にいう「人の看守する建造物」に該当するものであることは明白である
  • 「黄金の顔」の眼孔部は地上約60メートルの狭隘かつ不安定な場所であるうえ、左右にそれぞれ電力約4キロワットのクセノンサーチライト1基が装置され、また「黄金の顔」の後背部には「太陽の鐘」と題するチャイム放送用のスピーカーが設置されているところ、前者はそれが点燈されることによって生ずる高熱と強い照明度のため、後者はそれが放送される際の音響の大きさから、いずれも、その近辺に滞留する被告人の生命、身体に危害を及ぼし、もしくはそれが原因となって被告人が地上に落下するおそれも十分予想されたので、このような結果の発生を防止するため、協会においてやむなく右の設備、機能の作動を停止するに至ったことを証拠上認定することができ、その事実によると、被告人の本件占拠行為が右にいう「威力」に該当することは明らかである。(赤軍のヘルメットを着用し、気勢を挙げたこと)
  • 刑法第234条にいう「業務を妨害」するとは、それによって業務の正常な運営、機能が阻害され、もしくは阻害されるおそれのある状態が発生することをいい、必ずしも経済的な面からみた営業成績が低下したことを要するものではないというべきである
  • 本件において、協会は被告人の一連の行為によって「黄金の顔」の照明用クセノンサーチライトの投光および「太陽の鐘」のチャイム放送を、被告人が黄金の顔眼孔部付近に滞留した全期間延約159時間余にわたって全面的に中止し、また被告人からの危険物の投てきによる一般観客への危害を防止するため、被告人を発見した昭和45年4月26日午後5時過ぎから同月28日正午ごろまで空中展示場の全部を封鎖し、その後、同日一杯は同回廊西南部にある「生活セクション」を除くその余の三展示場の観覧規制が行なわれ、さらに塔の正面階段および入口付近への立入りも、その範囲が途中狭められたとはいえ、全期間にわたって制限されたことが証拠上明らかであって、以上の事実によれば、協会の太陽の塔およびその付近における展示機能および業務の正常な運営は現に著しく阻害されたというべきである
  • 建造物侵入と威力業務竑害との間には手段結果の関係があるので、刑法第54条第1項後段第10条により一罪として犯情の重い威力業務妨害罪の刑により処断すべき

と判示しました。

4⃣ 鉄道営業法38条の罪との関係

 暴行・脅迫をもって鉄道係員の職務執行を妨害した場合は、威力業務妨害罪と鉄道営業法38条の罪が成立し、両者は観念的競合となると考えられます。

 この点、公務執行妨害罪刑法95条1項)と鉄道営業法38条の罪が観念的競合になるとした判例が参考になります。

最高裁判決(昭和29年7月7日)

 裁判所は、

  • 公務員たる鉄道係員(駅助役)の執務中、同係員の脅迫してその職務の執行を妨害した場合には、1個の行為にして刑法第95条と鉄道営業法第38条との2個の罪名に触れるものとして、重き前者の刑をもって処断すべきである

と判示し、公務執行妨害罪と鉄道営業法38条の罪は観念的競合の関係になるとしました。

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