刑法(身の代金略取・誘拐・拐取罪)

身の代金略取・誘拐・拐取罪(5) ~「他罪との関係」を説明

 前回の記事の続きです。

 この記事では、身の代金略取罪、身の代金誘拐罪、身の代金拐取罪(刑法225条の2第1項)を「本罪」といって説明します。

他罪との関係

この記事では、本罪と

  1. 拐取者身の代金要求罪(刑法225条の2第2項
  2. 殺人罪刑法199条
  3. 暴行罪刑法208条)・脅迫罪刑法222条
  4. 逮捕罪・監禁罪刑法220条
  5. 遺棄罪刑法217条

との関係を説明します。

① 拐取者身の代金要求罪との関係

 本罪の犯人が拐取者身の代金要求罪(刑法225条の2第2項)を犯した場合、本罪と拐取者身の代金要求罪とは手段と結果の関係にあるので、牽連犯の関係になります。

 この点を判示したのが以下の判例です。

最高裁決定(昭和58年9月27日)

 裁判所は、

  • みのしろ金取得の目的で人を拐取した者が、更に被拐取者を監禁し、その間にみのしろ金を要求した場合には、みのしろ金目的拐取罪(刑法225条の2第1項)とみのしろ金要求罪(刑法225条の2第2項)とは牽連犯の関係に、以上の各罪と監禁罪とは併合罪の関係にあると解するのが相当である

と判示し、身の代金略取・誘拐の後に監禁が行われた場合、身の代金略取・誘拐罪と監禁罪とが併合罪の関係にあるとしました。

② 殺人罪との関係

 本罪と殺人罪の関係について、裁判例は、併合罪としています。

仙台地裁判決(昭和40年4月5日)

 身の代金目的で幼児を誘拐した後、殺害し、幼児の遺体を被告人方の物置小屋内に放置して遺棄し、その後も身の代金取得の目的を捨てず、幼児の母親に電話をかけ、「子供を預かっている。お金と引き換えに返す。」など言って要求し、母親から現金170万円の交付を受けようとしたが、待機していた警察官に逮捕された「身の代金拐取罪」、「殺人罪」、「死体遺棄罪」、「拐取者身の代金要求罪」の事案です。

 裁判官は、

  • 身の代金拐取罪と拐取者身の代金要求罪は、手段と結果の関係にあるので牽連犯の関係があるので刑法54条1項後段刑法10条により一罪として犯情の重い拐取者身の代金要求罪の刑で処断する
  • 「身の代金拐取罪と拐取者身の代金要求罪」、「殺人罪」、「死体遺棄罪」の各罪は併合罪である

としました。

③ 暴行罪、脅迫罪との関係

 略取の手段として行われた暴行・脅迫は略取罪に吸収されます。

 なので、身の代金略取罪の手段として行われた暴行・脅迫は略取罪に吸収され、身の代金略取罪のみが成立し、暴行罪、脅迫罪は成立しません。

④ 逮捕罪、監禁罪との関係

略取の手段として行われた逮捕・監禁と逮捕罪・監禁罪の関係

 略取の手段として逮捕・監禁が行われた場合における「略取罪」と「逮捕罪・監禁罪」との関係については、吸収説、観念的競合説、牽連犯説、併合罪説に分かれています。

 学説の見解として、

  • 逮捕によって拐取が行なわれたような場合であれ、拐取の後に監禁が行なわれたような場合であれ、社会生活上の観念に従って、「継続」した一連の犯行と評価しうる場合は、観念的競合を認めるべきであり、場所的・時間的懸隔、犯行態様の変化などが著しい場合(たとえば、「拐取」後の「監禁」を、数日後、さらに脱出困難な場所に移して「強化」するような場合)には、併合罪ないしは牽連犯を考えるべきである
  • 略取・誘拐が同時に逮捕・監禁となる場合は想像的競合となり、両者が手段・結果の関係に立つときは牽連関係があり得るものと解する

とするものがあります。

 裁判例では、以下のものがあります。

大阪高裁判決(昭和53年7月28日)

 身の代金要求罪(刑法225条の2第2項)と監禁罪との関係を併合罪とするとともに、営利略取罪を継続犯だとして、監禁を手段として営利略取が行われた場合、監禁罪と営利略取罪が成立し、両罪は観念的競合の関係に立つとしました。

略取・誘拐に引き続く逮捕・監禁と逮捕罪・監禁罪の関係

 略取・誘拐に引き続く逮捕・監禁と逮捕罪・監禁罪の関係についても、吸収説、観念的競合説、牽連犯説、併合罪説に分かれています。

 学説では、

  • 略取・誘拐罪が継続犯の性質を有する場合には、略取・誘拐罪と監禁罪との観念的競合認めるべきである
  • 略取・誘拐罪が状態犯の性質を有する場合には、両罪の牽連犯を認めるべきである

とする見解があります。

 判例では、以下のものがあります。

最高裁決定(昭和58年9月27日)

 裁判所は、

  • みのしろ金取得の目的で人を拐取した者が、更に被拐取者を監禁し、その間にみのしろ金を要求した場合には、みのしろ金目的拐取罪(刑法225条の2第1項)とみのしろ金要求罪(刑法225条の2第2項)とは牽連犯の関係に、以上の各罪と監禁罪とは併合罪の関係にあると解するのが相当である

と判示し、身の代金略取・誘拐の後に監禁が行われた場合、身の代金略取・誘拐罪と監禁罪とが併合罪の関係にあるとしました。

遣棄罪との関係

 略取・誘拐罪と遺棄罪刑法217条)との関係については、牽連犯説と併合罪説とに分かれています。

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