刑法(わいせつ物頒布等罪)

わいせつ物頒布等の罪(11)~「電気通信の送信によるわいせつな電磁的記録その他の記録の頒布とは?」を説明

 前回の記事の続きです。

電気通信の送信によるわいせつな電磁的記録その他の記録の頒布とは?

  わいせつ物頒布等の罪(刑法175条)の行為の内容は、

  1. わいせつ物・電磁的記録に係る記録媒体その他の物の頒布又はこれらの公然陳列(1項前段)
  2. 電気通信の送信によるわいせつな電磁的記録その他の記録の頒布(1項後段)
  3. 有償頒布目的でのわいせつ物の所持・電磁的記録の保管(2項)

です。

 この記事では、②の

  • 電気通信の送信によるわいせつな電磁的記録その他の記録の頒布

を説明します。

 ②の「電気通信の送信によるわいせつな電磁的記録その他の記録の頒布」行為の罪名は、「わいせつ電磁的記録等送信頒布罪」(刑法175条1項後段)となります。

 「電気通信」とは、

有線、無線その他の電磁的方式により、符号、音響又は影像を送り、伝え、又は受けること

をいいます。

 「送信」とは、このうち「送る」行為をいいます。

 「わいせつな」の意義は、わいせつ物頒布等の罪(3)の参照。

 「電磁的記録」とは、

電子的方法、磁気的方法その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるもの

をいいます(刑法7条の2)。

 「その他の記録」について、わいせつな画像等をファクシミリで送信した場合には、頒布先において電磁的記録以外の形態による記録として存在するに至ることもあり得るから、「その他の記録」も刑法175条1項後段(わいせつ電磁的記録等送信頒布罪)の客体に掲げられました。

 電磁的記録その他の記録の「頒布」とは、

不特定又は多数の者の記録媒体上に電磁的記録その他の記録を存在するに至らしめること

を意味します。

 「頒布」は有償でも無償でもよいとされます。

 単に、特定かつ少数の者に電子メールでわいせつな電磁的記録を送信し、これを受信させたとしても、「頒布」には当たりませんが、不特定又は多数の者に送信する行為の一環として、あるいは、不特定又は多数の者に対して送信するという反復の意思をもって、これを受信させれば、「頒布」に当たり得ると考えられています。

 「頒布」に当たるためには、単に送信しただけでは足りず、相手方の記録媒体上に「電磁的記録その他の記録」として存在するに至らしめることが必要です。

 そのような状態に至っていない場合には、「頒布」には当たりません。

 具体的には、例えば電子メールにわいせつな画像データを添付して送信するような場合は、メールサーバのメールボックスに到達した時点で既遂に達すると考えられています。

 これは、相手方がこれを手元のパソコンにダウンロードすることが必要であるとすると、GmailのようなWebメールの場合には、そのメールボックスに記録されるにとどまっている限り、わいせつ電磁的記録等送信頒布罪(刑法175条1項後段)は成立しないこととなり、処罰範囲が不当に狭くなると考えられる上、メールサーバのメールボックスに電子メールが届いた状態は、手紙が郵便受けに入って受信者の支配下に入った場合と同視し得るから、その時点で既遂に達するといえるためです。

 一方で、例えばテレビ放送によりわいせつな画像を送信した場合については、通常は、受信させる映像はテレビ受信機に記録されるわけでないので、わいせつ物陳列罪(刑法175条1項前段)又は公然わいせつ罪刑法174条、テレビの生中継で放映したような場合)が成立する場合があることは別として、わいせつ電磁的記録等送信頒布罪(刑法175条1項後段)は成立しないと考えらています。

Webサーバを介してわいせつな電磁的記録を頒布した場合は、「わいせつ物陳列罪」と「わいせつ電磁的記録等送信頒布罪」が成立する

 Webサーバのハードディスクにわいせつな画像データを記憶・蔵置させて、不特定又は多数の者がその画像を認識できる状態を設定した場合、当該ハードディスクはわいせつな電磁的記録に係る記録媒体に当たることから、わいせつ物陳列罪(刑法175条1項前段)が成立し得ます。

 この場合において、不特定又は多数の者が、その画像を閲覧するために、当該ハードディスクにアクセスしてそのわいせつな画像データを自己のコンピュータにダウンロードした場合には、これらの者の行為を介して、同人らのコンピュータにわいせつ画像データを記録させて頒布したことになるから、わいせつ電磁的記録等送信頒布罪(刑法175条1項後段)も成立し得ることとなります。

 この場合の「わいせつ物陳列罪」と「わいせつ電磁的記録等送信頒布罪」の罪数については、判例が、詐欺罪について、1個の欺く行為によって財物をだまし取り、かつ不法の利益を得た場合には刑法246条に該当する単一の詐欺罪を構成する、あるいは、盗品等に関する罪について、運搬と保管等、刑法256条の個寿の類型を重複して犯す場合、包括一罪として扱っていることからすると、同様に、単一のあるいは包括一罪として処理するのが妥当ではないかと学説では考えられてます。

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