刑法(総論)

刑罰(5)~「罰金、科料とは?」「労役場留置」「仮納付とは?」を説明

 前回の記事の続きです。

罰金、科料とは?

 罰金(刑法15条)と科料(かりょう)(刑法17条)は、いずれも一定額の財産を受刑者から徴収する財産刑です。

1⃣ 罰金は1万円以上であり、これを減軽する場合には1万円未満に下げることができます(刑法15条)。

 なお、罰金に上限の制限はありません。

 つまり、1億円や1兆円の罰金を科すことも法律上可能です。

2⃣ 科料は千円以上1万円未満です(刑法17条)。

労役場留置

1⃣ 罰金、科料の全部又は一部を完納することができない場合には、一定期間、換刑処分としての労役場留置の処分がなされます(刑法18条)。

 労役場留置とは、罰金や科料の支払い義務を完遂できない場合に、刑事施設の労役場内で一定期間、労役(刑務作業)に服させられる刑罰です。

 具体的には、労役場留置は、罰金や科料を支払う金がない場合に、労役によって罰金や科料の裁判を執行する仕組みです。

 労役場は、法務大臣が指定する刑事施設に附置される施設です。

2⃣ 労役場留置の執行をするには、裁判確定後、罰金については30日以内、科料については10日以内は、本人の承諾を必要とします(刑法18条5項)。

 つまり、罰金、科料の裁判が確定し、罰金、科料の判決を受けた者に金がなく、罰金、科料を納付できない場合でも、裁判確定後、罰金については30日以内、科料については10日以内は、本人の「労役場留置となることを承諾します」といった承諾がない限り、すぐに労役場留置を執行することはできないということです。

3⃣ 少年に対しては労役場留置の言渡しができません(少年法54条)。

労役場留置の期間

 労役場留置の期間は、刑法18条1~3項において、

1項 罰金を完納することができない者は、1日以上2年以下の期間、労役場に留置する

2項 科料を完納することができない者は、1日以上30日以下の期間、労役場に留置する

3項 罰金を併科した場合又は罰金と科料とを併科した場合における留置の期間は、3年を超えることができない。科料を併科した場合における留置の期間は、60日を超えることができない

と規定されます。

 端的にいうと、労役場留置の期間は、

  • 罰金については1日以上2年以下(1項)
  • 科料については1日以上30日以下(2項)
  • 罰金を併科し又は罰金と科料とを併科したときは1日以上3年以下(3項前段)
  • 科料を併科したときは1日以上60日以下(3項後段)

となります。

 そして、この期間の範囲内で裁判(判決又は略式命令)において労役場留置の期間を定めて判決又は略式命令が言い渡されることになります(刑法18条4項)。

 例えば、罰金50万円、労役場留置1日換算5000円という判決が言い渡された場合で、金がなくて罰金50万円を納めることができない場合の労役場留置期間は100日(50万÷5000)となります。

3項前段の意味

 刑法18条3項前段の「罰金を併科した場合又は罰金と科料とを併科した場合における留置の期間は、3年を超えることができない」について説明します。

 以下で、

  • 「罰金を併科した場合」
  • 「超えることができない」
  • 「罰金と科料とを併科した場合」

の意味を説明します。

1⃣ 「罰金を併科した場合」とは、数個の罰金を同時に科した場合をいいます。

 併科とは、同時に二つ以上の刑を科することをいいます。

 具体的には、確定裁判の介在によって数個の罪が併合罪の関係にない場合の各罪について罰金を言い渡すとき(例えば、1つの裁判の判決で、罰金50万円の判決と罰金30万円の判決の2つの罰金判決を同時に言い渡すとき)が該当します。

 この点を判示した以下の裁判例があります。

福岡高裁判決(昭和60年1月31日)

 裁判所は、

  • 刑法18条3項によれば、罰金を併科した場合においては、3年以下の期間労役場に留置することができる旨明定されているが、右条項にいわゆる罰金の併科というのは、同法48条2項の適用により1個の罰金刑を科する場合のことではなく、併合罪でありながら同条項の適用がないため数個の罰金刑を科する場合(例えばたばこ専売法78条※現在は廃止)及び確定裁判の介在により併合罪関係がないため各罪別に数個の罰金刑を科する場合を指称するものである

と判示しました。

福岡高裁判決(昭和33年3月25日)

 裁判所は、

  • 刑法第18条第1項には「罰金を完納すること能わざる者は1日以上2年以下の期間これを労役場に留置する」とあり、同条第3項には「罰金を併科したる場合…における留置の期間は3年を超ゆることを得ず」と規定している
  • 故に罰金を併科した場合には留置期間は3年に至ることをうるのであるが、ここにいわゆる罰金を併科したる場合とは数個の罰金を同時に科した場合をいうのであって、懲役と罰金を併科する場合はもちろん、同法第48条第2項の規定による2個以上の罰金につきその合算額以下において処断する場合をいうものではない
  • 従って、本件の如く、自由刑及び罰金刑を科すべき罪が数十個あって、これらの罪が併合罪として懲役刑については刑法第47条第10条を、罰金刑については同法第48条第2項を適用し、1個の懲役刑及び罰金刑をもって処断すべき場合にはその罰金の換刑処分としての留置期間は刑法第18条第1項の定めるところにより2年以下に制限せられるものといわねばならない
  • すると、原判決が本件において被告人に対し懲役刑のほか罰金40万円を科し、換刑処分と
  • しての留置期間を金500円を1日に換算した期間、すなわち2年を超える800日としたことは法令の解釈適用を誤ったものであり、この誤は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから原判決は破棄を免れない

と判示しました。

東京高裁判決(昭和55年12月24日)

 裁判所は、

  • 各所論はいずれも、要するに、原判決は、被告人に対し2年を超える期間の労役場留置を言い渡した点において法令の適用を誤ったものである、というのである
  • そこで検討してみるのに、原判決は、判示第五及び第七の各営利目的での覚せい剤輸入罪についてそれぞれ有期懲役刑及び罰金刑を選択し、刑法45条前段併合罪である右両罪の罰金について同法48条2項により各罪所定の罰金額を合算し、その金額の範囲内で被告人を罰金500万円に処し、同法18条によりその換刑処分として5000円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する旨言い渡し、その労役場留置期間が約2年9月となるように定めたことが明らかである
  • ところで、刑法18条3項によれば、罰金を併科した場合においては、3年以下の期間労役場に留置することができる旨明定されているが、右条項にいわゆる罰金の併科というのは、同法48条2項の適用により1個の罰金刑を科する場合のことではなく、併合罪でありながら同条項の適用がないため数個の罰金刑を科する場合及び確定裁判の介在により併合罪関係がないため各罪別に数個の罰金刑を科する場合を指称するものと解すべきであるから、本件は同法18条3項の「罰金を併科したる場合」に該当しないことが明白である
  • そうだとすると、本件において被告人を労役場に留置できる期間は、刑法18条1項により2年以下であり、換刑処分の換算率もそのように定めなければならないのに、原判決が前記のような換刑処分を言い渡したのは、法令の適用を誤ったものであり、その誤りが判決に影響を及ぼすことが明らかである

と判示しました。

2⃣ 「超えることができない」とは、労役場留置の期間が各罰金の一つ一つについて2年を超えてはならない(1項)とともに、併科された各罰金の留置期間の全体が3年を超えてはならない(3項)ことを意味します。

 この点を判示した以下の判例があります。

東京高裁判決(昭和36年3月20日)

 裁判所は、

  • 刑法第18条第3項には、罰金を併科した場合は、労役場留置期間は3年を超えてはならぬ旨の規定があるも、同条第1項には、罰金不完納の場合1日以上2年以下労役場に留置すとあるから、各罰金刑の労役場留置は、各罰金刑一々につき2年を超えてはならないし、これを併科する場合は全体として3年を超えてはならないと解すべきである

と判示しました。

 例えば、「被告人を第1の罪について罰金200万円に、第2の罪について罰金250万円に、第3の罪について罰金300万円に処する。右の各罰金を完納することができないときは、金4000円を1日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。」という判決があった場合、第3の罪の罰金が2年(720日)を超えている点で(300万÷4000=750日)、また全体として3年(1080日)を超えている点でも(第1の罪:200万÷4000=500日、第2の罪:250万÷4000円=625日、第1~3の罪合計1875日)、刑法18条に違反することとなります。

3⃣ 「罰金と科料とを併科した場合」とは、刑法53条1項による場合をいいます。

 併科とは、同時に二つ以上の刑を科することをいいます。

 罰金と科料は別に判決の主文に表示して言い渡されます。

 例えば、窃盗罪(刑法235条:罰金の法定刑…50万円以下罰金)と暴行罪(刑法208条:科料あり)が起訴され、窃盗罪は罰金30万円に処し、暴行罪については科料9000円に処す場合、判決において、罰金30万円と科料9000円がそれぞれ言い渡されます。

 なお、罰金と科料とを併科する場合、罰金の留置期間は2年を、科料の留置期間は30日を超えてはならないとともに、併科された各刑の留置期間の全体が3年を超えてはなりません。

3項後段の意味

 刑法18条3項後段の「科料を併科した場合における留置の期間は、60日を超えることができない」の意味を説明します。

 「科料を併科した場合」とは、刑法53条2項による場合をいいます。

 併科とは、同時に二つ以上の刑を科することをいいます。

 例えば、暴行罪(刑法208条:科料あり)と公然わいせつ罪(刑法174条:科料あり)が起訴され、暴行罪と公然わいせつ罪の両方ともそれぞれ科料9000円に処す場合、判決において、暴行罪につき科料9000円、公然わいせつ罪につき科料9000円の判決がそれぞれ言い渡されます。

 各罪の科料ごとに判決の主文に刑が表示され、この場合、労役場留置の期間は、各科料ごとに30日を、また併科された科料の全体が60日を超えることはできません。

財産刑の執行

 罰金・科料・没収追徴などの財産刑は、検察官の命令によって執行されます。

 この検察官の命令は、執行力のある債務名義(民事執行法22条)と同一の効力を有するので、執行手続については民事執行法の手続が準用されます(刑訴法490条)。

仮納付とは?

 罰金・科料・追徴には仮納付(かりのうふ)の制度があります(刑訴法348条493条494条)。

 仮納付の制度とは、判決が確定する前に、罰金・科料・追徴に相当する金額を納付することができる制度です。

 原則として、刑の執行は、判決が確定してから執行されます。

 しかし、罰金、科料、追徴については、裁判所は、検察官の請求により又は職権で、被告人に対し、判決が確定する前に、罰金、科料、追徴に相当する金額を納付すべきことを命ずることができます。

 裁判所が仮納付を命ずる場合、仮納付の命令は、罰金、科料、追徴の判決や略式命令と一緒に言い渡されます。

 仮納付の命令があった場合、罰金、科料の納付者は、判決が確定する前に、罰金・科料・追徴に相当する金額を納付し、刑の執行を早期に終えることができます。

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