前回の記事の続きです。
刑の加重
「刑罰」は、「法定刑」→「処断刑」→「宣告刑」という過程を経て裁判所により決定されます(詳しくは前の記事参照)。
その中で「処断刑」は、法定刑に
- 加重(かちょう)
- 減軽
の修正を加え、処断の範囲を画する刑罰です。
①の刑の加重は、あらかじめ法律によって規定されている事由(法律上の加重事由)がある場合においてのみなされます。
これは罪刑法定主義の要請によるものです。
この刑の加重事由には、
の2つがあります。
この記事では、累犯加重について説明します。
累犯加重の考え方
累犯とは、広義では、確定裁判を経た犯罪(前犯)に対して、その後に犯された犯罪(後犯)を意味しますが、狭義では、そのうち、刑法により一定の要件の下に刑の加重原因とされる犯罪を指します。
刑法の規定する累犯であるためには、以下の①~③の3つの要件を具備することが必要です(刑法56条)。
- 前犯として、拘禁刑に処せられた者、拘禁刑に当たる罪と同質の罪により死刑に処せられた者、若しくは、併合罪について処断され、その併合罪のうちに拘禁刑に処すべき罪があった者であること
- 前犯の刑につき、その執行を終わり(死刑に処せられた者にあっては減刑により拘禁刑に減軽されてその執行を終わり)、又は、執行の免除を得た日から5年以内に更に後犯を犯したこと(これが一度のときは再犯とされ、二度のときは3犯、三度のときは4犯となり、以下順に5犯、6犯となっていく)
- 後犯につき処断刑が有期拘禁刑であること。
①の「併合罪のうちに拘禁刑に処すべき罪があった」とは、科刑上一罪を含む広義の併合罪中、処断罪以外の罪につき、法定刑が拘禁刑のみとされているか、あるいは、法定刑中に拘禁刑が含まれており、かつ、拘禁刑以外の刑種選択がなされていない場合をいいます。
この点を判示した以下の裁判例があります。
東京高裁判決(昭和60年12月23日)
裁判所は、
- 刑法56条3項(※旧刑法)の法意に照らすと、ここに「懲役に処すべき罪ありたるとき」とあるのは、科刑上一罪を含む広義の併合罪中処断罪以外の罪につき、法定刑が懲役刑のみとされているか、あるいは法定刑中に懲役刑が含まれており、かつ、懲役刑以外の刑種選択がなされていない場合をいうものと解するのが相当
と判示しました(なお、刑法改正により、令和7年6月1日から懲役は拘禁刑に改正されています)。
③の「その執行を終わった日から5年以内」とは、受刑の最終日の翌日から起算して5年以内をいいます(最高裁判決 昭和57年3月11日)。
また、③の「5年以内に更に罪を犯す(更に後犯を犯した)」とは、5年の期間内に犯罪の着手があれば足り、犯罪の終了の時を標準とすべきものではありません(最高裁判決 昭和24年4月23日)。
累犯の刑は、再犯であること、3犯、4犯それ以上であることを問わず、その罪につき定められた拘禁刑の長期の2倍以下に加重されます(刑法57条、59条)。
ただし、加重した結果の長期が30年を超えることはできません(刑法14条2項)。
例えば、傷害致死罪を累犯加重した場合の計算は以下のようになります。
傷害致死罪(刑法205条)の法定刑は、「3年以上の有期拘禁刑」です。
有期拘禁刑は、「1月以上20年以下」とされるので(刑法12条1項)、傷害致死罪の法定刑は、より正確にいうと「3年以上の20年以下の拘禁刑」となります。
例えば、今回犯した傷害致死罪の1年前に、窃盗罪を犯して拘禁刑に処せられて受刑していた場合、今回犯した傷害致死罪は累犯となり、累犯加重することになります。
累犯加重は、拘禁刑の長期が2倍で計算されるので(刑法57条、59条)、これを傷害致死罪に当てはめると「3年以上の40年以下(20年×2)の拘禁刑」となります。
しかし、加重した結果の長期が30年を超えることはできなので(刑法14条2項)、累犯加重をした後の傷害致死罪の長期は「40年以下の拘禁刑」ではなく「30年以下の拘禁刑」となります。
よって、累犯加重をした後の傷害致死罪の処断刑は「3年以上の30年以下の拘禁刑」となります。
併合罪加重よりも累犯加重の方が刑の加重が重い
「併合罪加重」は、併合罪のうちの2個以上の罪について有期の拘禁刑に処するときは、その最も重い罪について定めた刑の長期にその2分の1を加えたものを長期とします(刑法47条)(詳しい説明は前回の記事参照)。
これに対し、「累加加重」は、累犯となっている罪につき定められた拘禁刑の長期が2倍に加重されます(刑法57条、59条)。
つまり、「併合罪加重」よりも「累加加重」の方が加重が重くなっています。
理由は、累犯は、有罪の言渡しのみならず、刑の執行という国家の司法作用を現実に受けている(前刑で有罪判決を受けて受刑し、受刑し終わっている)にもかかわらず、更に罪を犯したという意味において、併合罪の場合よりも非難の程度が高いためです。
累犯と常習犯の区別
1⃣ 累犯と区別すべきものに常習犯があります。
常習犯とは、同一の性質を有する犯罪を反覆累行することであり、常習賭博罪(刑法186条1項)、常習累犯窃盗罪(盗犯等防止法3条)などのようにそれ自体が構成要件として規定されている場合もあります。
累犯は必ずしも同種の犯罪の反覆累行である必要はありませんが、常習犯は同種の犯罪の反覆累行を必要とします。
また、累犯は確定裁判を経た犯罪に対しその後に犯された犯罪ですが、常習犯は確定裁判を経たことを必ずしも前提としない点において、両者は概念上区別されます。
2⃣ 常習累犯窃盗罪についても、累犯加重の規定の適用があります(最高裁決定 昭和44年6月5日)。
常習累犯窃盗罪の法定刑は、「3年以上の有期拘禁刑」です。
有期拘禁刑は、「1月以上20年以下」とされるので(刑法12条1項)、常習累犯窃盗罪の法定刑は、より正確にいうと「3年以上の20年以下の拘禁刑」となります。
ここに再犯加重をすると、長期が「40年(20年×2)以下の拘禁刑」となり、累犯加重した結果の長期は30年を超えることはできなので(刑法14条2項)、累犯加重をした後の常習累犯窃盗罪の長期は「30年以下の拘禁刑」となります。
よって、累犯加重をした後の常習累犯窃盗罪の処断刑は「3年以上の30年以下の拘禁刑」となります。