刑法(総論)

刑罰(6)~没収①「没収とは?」「没収の対象物」「没収の及ぶ範囲」「第三者所有物の没収手続」を説明

 前回の記事の続きです。

没収とは?

 没収は、物の所有権をはく奪して国庫に帰属させる財産刑であり、附加刑です。

 実質的には、保安処分の色彩が濃いです。

没収の対象物

 没収することができる物は、次の①~⑥の物件です。

  1. 犯罪行為を組成した物(犯罪組成物件)(刑法19条1項1号
  2. 犯罪行為の用に供し、又は供しようとした物(犯罪供用物件)(刑法19条1項2号
  3. 犯罪行為によって生じた物(犯罪生成物件)(刑法19条1項3号
  4. 犯罪行為によって得た物(犯罪取得物件)(刑法19条1項3号
  5. 犯罪行為の報酬として得た物(刑法19条1項3号
  6. 上記③④⑤の物の対価として得た物(刑法19条1項4号

 以下でそれぞれについて詳しく説明します。

① 犯罪行為を組成した物(犯罪組成物件)(刑法19条1項1号

 例えば、

  • 偽造文書行使罪における偽造文書
  • 賭博罪における賭金

が該当します。

 犯罪組成物件の没収について参考となる以下の裁判例があります。

福岡高裁判決(昭和55年11月19日)

 道路交通法違反(無免許運転)における自動車が犯罪組成物であるとして没収できるとした判決です。

 裁判所は、

  • 普通乗用自動車は道路交通法違反(無免許運転)の犯罪構成要件の充足に不可欠のものであるから、犯罪組成物件にあたる

とし、犯罪組成物件として没収ができるとしました。

② 犯罪行為の用に供し、又は供しようとした物(犯罪供用物件)(刑法19条1項2号

 例えば、

  • 文書偽造の用に供した偽造の印章
  • 殺人に用いた日本刀
  • 住居侵入・窃盗のために使用しようと準備した懐中電灯

が該当します。

 犯罪供用物件の没収について参考となる以下の判例があります。

最高裁決定(平成30年6月26日)

 裁判所は、

  • 被告人が強姦(現行法:不同意性交等罪)及び強制わいせつ(現行法:不同意わいせつ罪)の犯行の様子を被害者に気付かれないように撮影し、各デジタルビデオカセットに録画したのは、被害者にそれぞれその犯行の様子を撮影録画したことを知らせて、捜査機関に被告人の処罰を求めることを断念させ、刑事責任の追及を免れようとしたためであるという本件事実関係の下においては、当該各デジタルビデオカセットは刑法19条1項2号にいう「犯罪行為の用に供した物」に当たる

と判示し、犯罪供用物件として没収できるとしました。

③ 犯罪行為によって生じた物(犯罪生成物件)(刑法19条1項3号

 例えば、

  • 通貨偽造罪における偽造通貨
  • 文書偽造罪における偽造文書

が該当します。

④ 犯罪行為によって得た物(犯罪取得物件)(刑法19条1項3号

 例えば、

  • 賭博罪を行い、賭博に勝って得た財物
  • 窃盗罪などの財産犯罪によって領得した財物

が該当します。

⑤ 犯罪行為の報酬として得た物(刑法19条1項3号

 例えば、

  • 殺人の依頼に応じて殺人を行ったことによって得た報酬金
  • 窃盗幇助の謝礼として得た財物

が該当します。

⑥ 上記③④⑤の物の対価として得た物(刑法19条1項4号

 例えば、

  • 窃盗罪を盗んだ物の売却代金

が該当します。

没収の制限

 拘留・科料のみに当たる罪については、上記のうち①の犯罪組成物件を除き、特別の規定がなければ没収することはできません(刑法20条)。

没収の及ぶ範囲

 没収の及ぶ範囲として、

  1. 物的範囲
  2. 人的範囲

とがあります。

 それぞれを説明します。

① 物的範囲

1⃣ 物的範囲として没収できるのはその物自体です。

2⃣ 金銭は、両替してもその性質が変わらないので、特定し得る限りは没収できます。

 この点を判示したのが以下の判例です。

大審院判決(大正7年3月27日)

 裁判所は、

  • 金銭はこれを両替するも、その性質を変更すべきものに非ざれば、供与に係る十円札2枚を両替したる一円札20枚を没収するは不法に非ず

と判示しました。

3⃣ 一般の物は、金銭と異なり、混同加工などにより原物との同一性が失われると没収できません。

4⃣ 主物(例えば、日本刀)を没収するときは、従物(その)も没収できます(民法87条2項)。

5⃣ 没収の要件が物の一部のみについて存する場合、その全体を没収し得るかについては問題があります。

 例えば、一部分だけが偽造された偽造文書において、偽造文書全部を没収できるかという問題です。

 結論として、

  • 偽造部分と真正部分(偽造ではない部分)が不可分の一体をなしているとき
  • 真正部分には特に法的な意味がなく第三者の利益をも害しないというとき

はその全体を没収し得ます。

 ただし、他の部分が真正で、かつ、その真正部分が独立の法的効力を有し、第三者の正当な利益に関係するという場合は、没収は偽造部分のみに限られるべきであるとされます。

 この点に関する以下の判例があります。

大審院判決(明治37年9月29日)

 私文書偽造・同行使罪の事案で、裁判所は、

  • 借主が抵当貸主担保保証人として、ほしいままに他人の名義を借用証書に記入しこれを行使したる場合に在りては、その担保に関する部分のみを没収すべきものとす

と判示しました。

大審院判決(明治39年7月2日)

 裁判所は、

  • 犯人が借用証書の一部を偽造し、詐欺取財の手段としてこれを行使したる場合に該証書全部を偽造なりとし、これを没収したる判決は擬律錯誤の不法あるものとす

としました。

 なお、この部分没収の方法は、証拠品事務規程の41条に規定があります。

第41条(偽造、変造の没収部分の表示)

偽造又は変造の部分を没収された物について、刑訴法第498条第1項の規定による表示をする場合には、検察官は、偽造又は変造の部分を朱線をもって表示し、裁判年月日、事件名、裁判所名及び没収の旨を付記した上、これにその属する検察庁の名称及び官氏名を記入し、押印する。

② 人的範囲

1⃣ 人的範囲の観点からは、没収できるのは、没収する物が「犯人以外の者に属しない」ときだけです(刑法19条2項本文)。

 これは、犯人以外の者が、その物につき所有権・用益物権担保物権を有しない場合に限って没収できるという趣旨です。

 言い換えると、没収は、通常、

  • 犯人自身の所有に属する物

    又は

のみが没収できます。

 判例(大審院判決 明治36年6月30日)は、

  • 犯人以外の者に属さないとは、犯人以外の者がその物について所有権その他の物件を有しないことをいう

と判示しています。

2⃣ なお、ここにいう犯人には共犯者も含むので、犯人の所有物でなくても、共犯者の所有に属する物であれば、没収が可能です。

3⃣ 上記のとおり、没収しようとする物が犯人以外の者に属する場合には、これを没収できないのが原則ですが、もしその犯人以外の者が、犯罪の後、情を知ってその物を取得したものであるときは、これを没収することができます(刑法19条2項ただし書き)。

4⃣ 上記1⃣のとおり、「誰の所有にも属しない無主物」も没収の対象になります。

 この意味は、犯人や犯人以外の者が、没収物に対する「所有権放棄書」などを捜査機関に提出し、没収物の所有権を放棄をして、没収物が無主物になった場合でも、その没収物の没収ができることを意味します。

 この点に関する以下の判例・裁判例があります。

名古屋高裁判決(昭和24年9月24日)

 裁判所は、

  • 被告人が没収にかかる物件(白米押麦は現物として)に対する所有権の放棄をしていることは明らかである
  • しなしながらこの一事をもって直ちに右物件の所有権が国庫に帰属したものと即断するのは早計であるというべく被告人の右権利に法に上って一応無主物とたる筋合と解するのが妥当と考えられるから、刑法第19条第2項の、犯人以外の者に属したいときに該当する場合として没収の言渡があったものと見るべきである

と判示しました。

最高裁判決(昭和24年5月28日)

 裁判所は、

  • 日本刀及び鞘が被告人Aの父右Bの所有物であつたことは記録上明かであるが、同時に右Bが生駒警察署に提出した始末書には「御署において然るべく処置して頂いて結構でございます」という記載があって右Bは所論日本刀の返還請求權を放棄したものと認められる
  • 然らば原判決が犯人以外のものの所有に屬しないとして沒収したのは正当である

と判示しました。

最高裁決定(昭和41年4月7日)

 裁判所は、

  • 拳銃のうち…イタリア製22口径ベレッタ4型のものは、被告人が…Aより買戻しており、その余のものは、Aが被告人から買受けた後、同人が右拳銃を警察官へ任意提出するに際し、所有権を放棄しているから…これらを被告人以外の者に属しないとして没収した点に違法は存しない

と判示しました。

5⃣ 没収物が不法原因給付に該当する物(例えば、賭博の支払い)であるため、その没収物の所有者が返還請求権を有しない場合も没収するすることができます。

 この点に関する以下の判例があります。

大審院判決(大正4年1月20日)

 詐欺でだまし取った金について、裁判所は、

  • 刑法第19条第2項は、その物の所有権が犯人以外の者に属せる場合のみならず、その物の返還請求権が犯人以外の者に属せざる場合においてもまたこれを没収する法意なり

と判示しました。

第三者所有物の没収手続

 刑法の規定する没収は、刑法19条2項ただし書の場合を除いては、犯人以外の第三者の所有物にまで及ばす、犯人以外の第三者の所有物を没収することはできません。

 なお、特別刑法の中には、第三者所有物が没収の対象になることを定めているものがあります。

 例えば、

  • 麻薬及び向精神薬取締法(69条の3第1項
  • 国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律(16条1項
  • 関税法(118条1項
  • 酒税法(54条4項)、(56条2項
  • 組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律(18条

が該当します。

 没収しようとする物が犯人以外の者に属する場合でも、没収ができないということはなく、「第三者所有物の没収手続」を採ることで、犯人以外の所有に属する物(第三者所有物)を没収できるようになります。

 「第三者所有物の没収手続」とは、刑事事件における第三者所有物の没収手続に関する応急措置法による手続といい、没収しようとする没収物の所有者にその物を没収することを告知するなどの手続を踏むことで、犯人以外の所有に属する物(第三者所有物)を没収することができるようになる手続です。

 最高裁は、所有者である第三者に告知・弁解・防御の機会を与えずにその所有権を奪うことは、憲法29条31条に違反するとしていることから(最高裁判決 昭和37年11月28日)、「第三者所有物の没収手続」を採ることが必要となります。

追徴には、第三者所有物の没収手続のような手続規定はない

 「第三者所有物の没収手続」は没収を対象とした規定です。

 追徴には、第三者所有物の没収手続のような手続規定はありません。

 追徴には第三者所有物の没収手続のような手続規定がないとはいえ、第三者に対し、弁解・防御の機会を与えずにを追徴すれば、それは憲法違反と評価されることになります。

 この点を判示したのが以下の判例です。

最高裁判決(昭和40年4月28日)(刑集第19巻3号203頁)

 裁判所は、刑法197条の2(※旧刑法の規定)による追徴につき、憲法29条1項、31条を引用した後、

  • 第三者に対する追徴は、被告人に対する刑と共に言渡されるものであるが、没収に代わる処分として直接に第三者に対し一定額の金員の納付を命ずるものであるから、当該第三者に対し告知せず、弁解防御の機会を与えないで追徴を命ずることは、適正な法律手続によらないで財産権を侵害する制裁を科するものであって、憲法の右規定に違反するものといわなければならない
  • 然るに、前記刑法197条の4(※旧刑法の規定)は情を知った第三者の収受した賄賂の全部又は一部を没収することができないときはその価額を追徴する旨を規定しながら、その追徴を命ぜられる第三者に対する 告知の手続及び弁解、防御の機会を与える手続に関しては刑訴法その他の法令になんらの規定するところがなく、本件においても第三者たるAは単に証人として第一審裁判所及び原審裁判所において取調べられているに過ぎないのであるから、右手続を履むことなく刑法の右規定によって同人から賄賂に代わる価額を追徴することは、憲法31条、29条に違反するものと断ぜざるをえない

と判示し、追徴についても没収と同様に、第三者に対する弁解、防御の機会の付与が必要であるとしました。

第三者から追徴をするに当たっての第三者に対する弁解、防御の機会の付与方法

 第三者から追徴をするに当たっての第三者に対する弁解、防御の機会の付与について言及した以下の判例があります。

 以下の判例は、第三者供賄罪刑法197条の2)の事案で、第三者から賄賂の額に相当する金額を追徴した事例です。

最高裁判決(昭和40年4月28日)(刑集第19巻3号300頁)

 裁判所は、

  • 本件において京都市農業協同組合太秦支部は被告人以外の第三者ではあるが、その代表者である被告人Mが公判手続を通じ本件犯罪事実につき弁解、防御の機会を与えられていたことは記録上明らかであるから、同組合支部も、結局これに対する本件追徴につき実質上弁解、防御の機会が与えられていたものと認められる

と判示しました。

 この判例が引用する第三者没収に関する大法廷判決(最高裁判決 昭和39年7月1日)は、会社代表取締役が被告人として弁解、防御の機会を与えられていることを理由に当該会社にその機会が与えられていたとしており、この判決はそれを追徴に及ぼしたものです。

 追徴は、没収と異なり、第三者没収に関する法規はなくても、上記判例のような程度で第三者に対して弁解、防御の機会を与えたとして憲法の要件を満たすと判断されています。

 ただし、上記判例の事案のように、被告人が第三者の代表者でないような場合には、事実上第三者所有物の没収手続に参加させて、弁解・防御の機会を与えない限り、その第三者から賄賂相当額を追徴することはできないことになります。

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