刑法(窃盗罪)

窃盗罪㉗ ~「常習累犯窃盗罪(盗犯等の防止及び処分に関する法律)」を説明【その1】~

 前回の記事の続きです。

 この記事では、常習累犯窃盗罪(盗犯等の防止及び処分に関する法律3条)を説明します。

 前条(2条)の常習特殊窃盗罪の詳しい説明は前の記事で行っています。 

盗犯等の防止及び処分に関する法律(盗犯等防止法)の制定経緯

 盗犯等の防止及び処分に関する法律(以下「盗犯等防止法)という)は、昭和5年、当時世間をにぎわせた説教強盗の出没などの事態に鑑み制定された法律です。

 その内容は、正当防衛の要件に関する特則を定めた1条と、強窃盗罪について特別の加重類型を設けた2~4条とに分かれます。

 窃盗罪に関しては、以下で記載する条文のとおり、第2条に常習特殊窃盗罪が、第3条に常習累犯窃盗罪が規定されています。

 いずれも法定刑は、3年以上の有期懲役であり、窃盗罪(刑法235条)の法定刑(10年以下の懲役又は50万円以下の罰金)よりも重い罪になっています。

盗犯等防止法の条文

第1条 左の各号の場合において、自己又は他人の生命、身体又は貞操に対する現在の危険を排除するため犯人を殺傷したるときは刑法第36条第1項の防衛行為ありたるものとす

1 盗犯を防止し又は盗贓を取還せんとするとき

2 凶器を携帯して又は門戸牆壁等を踰越損壊し、もしくは鎖鑰を開きて人の住居又は人の看守する邸宅、建造物もしくは船舶に侵入する者を防止せんとするとき

3 なく人の住居又は人の看守する邸宅、建造物もしくは船舶に侵入したる者又は要求を受けて、これらの場所より退去せざる者を排斥せんとするとき

② 前項各号の場合において、自己又は他人の生命、身体又は貞操に対する現在の危険あるに非ずといえども、行為者恐怖、驚愕、興奮又は狼狽により、現場において犯人を殺傷するに至りたるときは之を罰せず

第2条 常習として左の各号の方法により刑法第235条第236条第238条もしくは第239条の罪又はその未遂罪を犯したる者に対し、窃盗もって論ずべきときは3年以上、強盗をもって論ずべきときは7年以上の有期懲役に処す

1 凶器を携帯して犯したるとき

2 二人以上現場において共同して犯したるとき

3 門戸牆壁等を踰越損壊し又は鎖鑰を開き人の住居又は人の看守する邸宅、建造物もしくは艦船に侵入して犯したるとき

4 夜間人の住居又は人の看守する邸宅、建造物もしくは艦船に侵入して犯したるとき

第3条 常習として前条に掲げたる刑法各条の罪又はその未遂罪を犯したる者にして、その行為前10年内にこれらの罪又はこれらの罪と他の罪との併合罪につき3回以上6月の懲役以上の刑の執行を受け又はその執行の免除を得たるものに対し刑を科すべきときは前条の例による

第4条 常習として刑法第240条の罪(人を傷したるとき限る)又は第241条第1項の罪を犯したる者は無期又は10年以上の懲役に処す

常習累犯窃盗罪(3条)とは?

 常習累犯窃盗罪(3条)は、常習として窃盗罪等(窃盗罪・強盗罪・事後強盗罪・昏睡強盗罪、これらの未遂罪)を犯した犯人に、窃盗等の実刑前科がある場合に、刑を加重し、その犯人を通常の窃盗罪よりも重く処罰するものです。

 窃盗を繰り返す犯人の危険性に着目し、より重く処罰するという目的があります.

 常習累犯窃盗罪の成立が認められるためには、

  1. 常習性の要件
  2. 前科の要件

の2つを満たす必要があります。

 例えば、「②前科の要件」はあるが、「①常習性の要件」が認められない場合は、常習累犯窃盗罪は成立しません。

 以下で「①常習性の要件」、「②前科の要件」についてそれぞれ説明します。

① 常習性の要件

常習性とは?

 常習累犯窃盗罪の常習性とは、反復して窃盗を行う犯人の性癖をいいます。

 この常習性の認定は、犯人の前科・前歴・性格・素行・犯行の動機・態様・回数・間隔等を総合してなされます。

 常習性の認知に当たり、今回犯した窃盗行為の態様と、犯人の窃盗前科の存在を総合して認定しても差し支えないとされます(最高裁判例 昭和33年7月11日)。

 また、犯行手口が特殊な熟練性を要するものであることは必要ではないし、前科にかかる犯行と今回の犯行との間で、犯行手口の同一性、類似性があることは常習性認定の一要素となり得ます(広島高裁判例 平成10年3月19日)。

 とはいうものの、犯行手口の同一性、類似性が、常習性認定の必須要素というわけではありません。

 東京高裁判例(平成10年10月12日)において、裁判官は、

  • 窃盗の常習性は、窃盗を反復累行する習癖の問題であって、手口の熟練性や同一性、類似性までをも必要とするものではない

と判示しています。

 ちなみに、犯行動機、態様が、窃盗前科のものとは著しく異なるとして、常習性を否定し単純窃盗罪の成立を認めた以下の判例があります。

東京高裁判例(平成5年11月30日)

  • 被告人には、前科(10年以内に3回以上6月の懲役以上の刑の執行を受けた前科)があるので、その点では、盗犯等の防止及び処分に関する法律3条所定の処罰歴の要件を備えているということができる
  • しかしながら、同条の罪が成立するためには、常習性のあること、すなわち本件が窃盗の習癖の発現としてなされたものであることが必要である
  • 本件は、スーパーマーケットで買い物をした折に缶詰2缶を万引きした事案であって、他に万引の事犯は全く行われず、多数ある窃盗前科も、その犯行がアパートでの侵入盗などで本件とはその動機、態様を著しく異にし、結局本件が窃盗の習癖の発現としてなされたもので常習性があるとは認められない

と判示し、これまでの窃盗前科における窃盗の犯行態様と、今回の窃盗の犯行態様が異なり、常習性が認められないとして、常習累犯窃盗罪は成立せず、窃盗罪が成立するとしました。

常習性の判断の見解

 常習性の判断に当たっては、

  1. 手口や態様の類似性を欠く場合には常習性を否定すべきだとする見解(①説)
  2. 反復して窃盗や強盗を行う習癖があれば足り、手口や態様の類似性は不要であるとする見解(②説)

とがあります。

 ①説の論拠としては、

  • 窃盗や強盗の常習者は一定の手口・態様で犯行を行うのが通常であり、習癖という以上は手口や態様の類似性が必要であること
  • 異なる手口・態様での犯行は偶発的色彩が強くなりがちであり、習癖の発現としての犯行とは言い難いこと

が挙げられています。

 ②説の論拠としては、

  • 盗犯等防止法3条が常習累犯窃盗の常習性の判断について特段の制限をしていないこと
  • 手口・態様の類似性といっても相対的なものであり、窃盗や強盗の常習者には現場の状況などによって手口・態様を変える者も少なくないのであるから、手口・態様の類似性を要件とするのは妥当ではないこと

が挙げられています。

 裁判例がどの見解に立っているかは、個別の事件ごとに異なります。

①説に立つと思われる裁判例

東京高裁判決(平成5年11月30日)

 盗犯の動機、態様が前科のそれとは著しく異にするとして、常習累犯窃盗罪の罪の成立を認めた原判決を破棄し、単純窃盗罪を認定した事例です。

 弁護人は、

  • 原判決は、被告人がその行為前10年内に3回窃盗罪あるいは常習累犯窃盜罪で6月以上の懲役刑の執行を受け、更に常習として、平成5年6月4日午後6時10分ころ、株式会社甲野ストア学芸大学店一階食料品売場において缶詰2缶を窃取したとして常習累犯窃盗罪の成立を認め、盜犯等の防止及び処分に関する法律2条、2条(刑法235条)を適用しているが、被告人には本件窃盗について常習性が認められないから、原判決には、この点で判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認及び法令適用の誤りがある

と主張しました。

 この主張に対し、裁判所は、

  • 記録を精査し、当審における事実取調の結果を併せて検討すると、被告人には右の前科があるので、その点では盗犯等の防止及び処分に関する法律3条所定の処罰歴の要件を備えているということができる
  • しかしながら、同条の罪が成立するためには、常習性のあること即ち本件が窃盗の習癖の発現としてなされたものであることが必要である
  • そこで更にこの点につき検討すると、記録によれば、本件は、被告人が株式会社甲野ストア学芸大学店一階食料品売場で食料品を買い求めて一旦店外に出た後、同棲している女性のためにカ二の缶詰を買おうと思いついて再度右食料品売場に戻り、陳列棚からカニの缶詰4缶を手にした後2缶を戻し、続いて隙を窺い残りの2缶を持っていた甲野ストアのビニール袋に素早く人れて盗取した、といういわゆる万引の事案であり、その動機につき、 被告人は、本件当時6万円位の現金を所持していたが、レジが混んでいた上缶詰の値段(1個1480円)も高いと思ったことから代金を払わずこれを盗んでしまおうと考えた旨述べており、これを覆すに足る証拠もない
  • このように本件は万引一件の事案であるが、記録を調べても、被告人が当時他に万引をやっていたことを伺わせる証拠は見当たらない
  • もっとも被告人は本件当時ドライバー2本及び軍手一双を所持していたことが認められ、被告人は、これはカーテンの取付けをするなどした時に使ったもので預金通帳など他の私物とともにセカンドバッグに人れて持ち歩いていたものであると述べているが、その点の真偽はともかくとして、このことから被告人が万引を常習としていたと認めることもできない
  • 被告人には、昭和45年以来多数の窃盗等の前科があり、古いものの内容は分らないが、原判示の昭和58年以降の窃盗及び常習累犯窃盗は、いずれも古いアパートに所携のドライバーで錠のラッチを送るなどして侵人し、すべて現金を盗んだもの(但し、現金とともにライター1個を盜んだものが一件ある。)であり、平成2年及び3年の住居侵人の前科もアパートに窃盗目的で侵入したものであって、これらはいずれも本件とは著しくその態様を異にする
  • このように、本件は、スーパーマーケットで買い物をした折りに缶詰2缶を万引した事案であって、他に万引の事犯は全く伺われず、多数ある窃盗等の前科も、その犯行がアパートでの侵入盗などで本件とはその動機、態様を著しく異にし、結局本件が窃盗の習癖の発現としてなされたもので常習性があるとは認められない

と判示し、弁護人の主張を認め、常習性が認められないので常習累犯窃盗罪は成立せず、窃盗罪が成立するとしました。

①説に立ちつつも手口・態様の類似性を緩やかに判断した裁判例

東京高裁判決(昭和50年10月13日)

 裁判所は、

  • 所論は、右窃盗の常習性を争うので、この点について案ずるに、「常習」とは所論のとおり反復して窃盗行為をする習癖をいうものであり、それは行為の属性ではなく、行為者の属性であって、同法第2条の常習性の認定についてはその資料につき何らの制限はないのであるから、所論のように、原判示第二の一、二の各窃盗と、原判示第二の(一)ないし(三)の窃盗前科との間に犯行の動機、態様、手段等に明白な相違がある場合には、前者について常習性を認定することができないものと制限的に解釈すべきではなく、問題とされているその行為自体について、その動機、態様、手段、反復累行の事実等のみによって常習性を認定することも可能であり、また、これと、その行為前10年間3回以上刑を受けた事実とを総合して、行為の常習性を認定することも可能であると解するのが相当である(最高裁判所第二小法廷昭和33年7月11日判決・刑集2553頁参照)
  • そこで、これを本件についてみると、原判決挙示の関係証拠を総合すると、原判示第二の一 二の各窃盗は、わずか15日の間に2回にわたり、止宿先の旅館の茶の間や主人夫婦の寝室に侵人し、茶ダンスや整理ダンスの中に置いてあった現金の各一部をそれぞれ抜き取り窃取したことが認められるのであって、右各行為の手口、方法、反復累行の事実に加えて、被告人は、これまで昭和41年9月20日窃盗罪により懲役1年4月に処せられて受刑したうえに、原判示第二の(一)の窃盜罪により懲役8月に、同(二)の窃盗罪により懲役2年に、同(三)の常習累犯窃盗罪により懲役3年に各処せられ、それぞれ受刑した事実が認められるから、これらを総合すると、原判示第二の一、二の各窃盗行為について被告人の窃盗の習癖の発現として、その常習性を優に認めることができるから、原判決には所論のような事実誤認又は法令適用の誤りはない

と判示しました。

広島高裁判決(平成10年3月19日)

 常習累犯窃盗罪における常習性の要件について、当該犯行と前科との間における犯行同様等の類似性は、常習性認定のための1つの要素であるとしたうえで、常習性を否定して単純窃盗罪を認定した原判決を破棄して常習累犯窃盗罪を認定した事例です。

 検察官は、

  • 原判決は、「被告人は、昭和61年8月26日広島簡易裁判所において窃盜罪等により懲役1年2月に、昭和63年3月26日広島地方裁判所において常習累犯窃盗罪等により懲役4年に、平成4年10月14日 広島地方裁判所において常習累犯窃盗罪等により懲役3年6月に各処せられ、いずれもそのころ各刑の執行を受けたものであるが、更に常習として、平成8年4月23日午後4時35分ころ、広島市中区《番地略》株式会社 甲野甲野クラン広島において、同店店長D管理に係る紳士スエード靴2足ほか3点(販売価格合計7万6500円) を窃取したものである。」との常習累犯窃盗罪の公訴事実に対し、常習性を否定し、単純窃盗罪を認定しているが、被告人は多数の窃盗等の前科があり、本件と窃盗の前科における犯行の手口、態様、窃盗物品の類似性を考慮すれば、被告人には、反復して窃盗行為をなす習癖、すなわち常習性があり、本件が常習累犯窃盗罪に該当することは明らかであるから、原判決は、常習性に関する事実を誤認し、それが判決に影響を及ぼすことは明らかである

と原判決が常習累犯窃盗罪の成立を認めない判断をしたことは間違ってると主張しました。

 この主張に対し、裁判所は、

  • 原審記録を調査し、当審における事実取調べの結果を併せて検討するに、被告人は、本件犯行前10年間に窃盗罪等で三回六か月以上の懲役刑の執行を受けたほか、他に多数の窃盗等の前科を有すること、本件犯行と前科における窃盗の犯行との間でその手口及び態様が原判決がいうように著しく異なっているとはいえず、窃盗物品等については類似していること等を総合考慮すれば、被告人には、反復して窃盗行為をなす習癖、すなわち常習性があると認められるから、常習性を否定した原判決を肯定することはできない。以下、詳述する
  • 常習累犯窃盜罪の成立要件としては、その行為前10年間に窃盗罪等で3回以上6か月の懲役刑以上の刑の執行を受けたことのほかに、当該窃盗の犯行が常習として行われたこと、すなわち、当該犯行が、反復して窃盗行為をする習癖の発現としてなされることが必要であるが、右習癖はあるかないかで判断されれば足りるものであり、右習癖が特に顕著なものに限られるという原判決の判断は、常習性の要件を限定的に狭くとらえるものであって、相当ではない
  • そして、右の常習性の判断につき、常習特殊窃盗罪のように定まった手口、態様の犯行をなすことまで必要ではなく、当該犯行と前科の犯行の態様等の類似性は、常習性認定のための要件そのものではなく、常習性認定判断に用いる資料の内の一要素であると解すべきである
  • そこで、本件窃盗が窃盗の習癖の発現としてなされたものであるかどうかにつき、前科調書、判決書謄本10通及び調書判決謄本4通等により検討する
  • 1 被告人は、昭和27年3月29日から平成4年9月29日までの間、窃盜罪または常習累犯窃盗罪によって(罪名に右の各罪を含んでいる場合を含む。)、合計12回懲役刑に処せられ、通算約40年間近く服役していたものである上、本件は、常習累犯窃盗罪等による前刑の執行終了から約5か月後の犯行、前刑は、常習累犯窃盗罪等による前々刑の執行終了から1か月も経過しない内の犯行であるなど、被告人は前刑出所後短期間の内に 窃盗を行って再び服役するということを繰り返していることに照らすと、被告人は、窃盗行為を反復しているといわざるをえない
  • 2 次に、被告人の前記12回にわたる窃盜罪または常習累犯窃盗罪等の前科の内容をみると、合計210回を超える窃盗行為を行っており、その手口は、いわゆる空き巣や店舗荒らし等の侵入盗が多数であるが、他に自動車盜、自転車盜、車上狙いや置き引き等の事案も認められ、被告人は、多くの態様の窃盗行為を反復していることが認められる
  • したがって、確かに、被告人の多数の前科の中には本件と同様のいわゆる万引きの前科は存しないが、被告人は、多くの態様の窃盗行為を反復している上、その前科の中には、所有者や管理者の目を盗んで持ち去る点で万引きと形態において類似する置き引きや自転車盗等の事案も認められるのであることに照らすと、本件窃盗が、被告人の前科における窃盗とその犯行態様を著しく異にしているということはできない
  • 3 さらに、被告人の窃盜の前科における被害物品についてみると、現金だけでなく、貴金属類から始まり、自動車、自転車、電気製品や衣類、バッグ類、靴類等の日常品等様々な種類の物品を窃取していることが認められ、本件の被害品であるジャンパー、セカンドバッグ及び靴とは類似性が認められる
  • 以上のとおり、被告人の多数の窃盗罪または常習累犯窃盗罪の前科関係、前刑出所後短期間の内に窃盜を繰り返して再び服役するという生活を繰り返しており、本件も常習累犯窃盗罪等による前刑の執行終了から約5か月後の犯行であること、被告人は多くの態様の窃盗行為を反復しており、その中には、万引きと形態において類似する置き引きや自転車盗等の事案も認められること、本件の被害物品は、被告人の窃盗の前科における被害物品と類似性を有することなどの事実を総合考慮すれば、原判決が判示するように、被告人は、本件窃盗につき、知人にプレゼントしたいという動機を有しており、約5万7000円の現金を所持していたことから、必ずしも計画的な犯行とまではいえず、また、被告人が本件以外に万引きをしたという事実は窺われないとしても、被告人は、反復して窃盗行為をする習癖があり、本件窃盗は、その習癖の発現として行われたものであると認めることができる
  • したがって、常習性を否定して単純窃盗罪を認定した原判決は、常習性の有無につき事実を誤認したものであり、それが判決に影響を及ぼすことは明らかである
  • 検察官の論旨は理由がある

と判示し、原判決の常習性を認めず常習累犯窃盗罪を成立を否定し窃盗罪が成立するとした判断は誤りであり、常習性が認められ常習累犯窃盗罪成立するとしました。

②説に立っと思われる裁判例

東京高裁判決(平成10年10月12日)

 裁判所は、

  • 前科の回数、間隔、その動機、態様、出所後本件犯行に至るまでの期間やその間の生活態度、本件犯行及びその動機等判示の諸事情(判文参照)を総合すると、常習累犯窃盗罪の常習性が認められ、手口が熟練性を要しない単純なものであり、その手口のものが前科に含まれていないことは、本件犯行が常習性の発現として行われたことを否定すべき理由にはならない

と判示しました。

常習性の認定する証拠に制限はない


 常習性を認定する証拠に制限はありません。

 そのため、

  • 数回にわたり反復された窃盗行為の態様から常習性を認定すること(広島高裁判決 昭和24年10月19日)
  • 当該窃盗行為の態様とその行為前10年間に3回受刑した事実とを総合して認定すること(最高裁判決 昭和33年7月11日
  • それ以前の窃盗等の前科、非行歴、起訴猶予とされた事実、公訴時効の完成した事実とを総合して認定すること(暴力行為等処罰に関する法律違反についての福岡高裁判決 昭和42年8月18日:暴力行為等処罰に関する法律違反の事例)

もできます。

常習特殊窃盗罪(2条)との常習性との違い

 常習累犯窃盗罪の「常習として」の意義は、常習特殊窃盗罪(2条)の「常習として」の意義と同じです。

 ただし、常習累犯窃盗罪の常習性は、

  • 反復して窃盗罪・強盗罪等を犯す習癖を有すれば足りる

ものであり、常習特殊窃盗罪の常習性で必要とされる

  1. 凶器を携帯して犯したるとき
  2. 二人以上現場において共同して犯したるとき
  3. 門戸牆壁等を踰越損壊し又は鎖鑰を開き人の住居又は人の看守する邸宅、建造物もしくは艦船に侵入して犯したるとき
  4. 夜間人の住居又は人の看守する邸宅、建造物もしくは艦船に侵入して犯したるとき

という特別な方法についての常習性は必要とされません。

② 前科の要件

常習累犯窃盗罪が成立する要件となる前科

1⃣ 常習累犯窃盗罪が成立するためには、今回処断すべき窃盗等の行為の前10年内に、

  • 窃盗罪・強盗罪・事後強盗罪・昏睡強盗罪、これらの未遂罪・教唆犯幇助犯

    または

  • 上記窃盗罪等と他の罪との併合罪

により、3回以上、6月の懲役以上の刑の執行を受けていること(または刑の執行の免除を得たこと) が要件になります。

 具体的には、窃盗罪を犯して捕まった犯人に、前に窃盗罪等の罪を犯して、6か月以上の実刑に処せられ、刑務所で受刑している前科が3回以上ある場合、今回の窃盗罪は、常習累犯窃盗として成立することになります。

2⃣ 教唆犯幇助犯が含まれることは法文に規定はありませんが、教唆犯や幇助犯を除外する理由はなく、当然含まれるものであるため法文に規定されなかったと理解されています。

 幇助犯(従犯)が常習累犯窃盗罪が成立する要件となる前科に含まれることを判示した判例があります。

最高裁判決(昭和33年7月11日)

 裁判所は、

と判示しました。 

常習累犯窃盗が成立する要件となる前科には未遂、教唆、幇助も含まれる

 常習累犯窃盗罪を成立させる窃盗等(または窃盗と他の罪との併合罪の前科には、窃盗・強盗等の既遂の正犯のほか、窃盗等の未遂、教唆、幇助も含まれます。

 もちろん、常習累犯窃盗罪も含まれるし、強盗致死傷罪刑法240条)や強盗強制性交等罪及び同致死罪刑法241条)の罪の前科も含まれます。

 なお、幇助が含まれることつき、最高裁判例(昭和43年3月29日)で、強盗致死傷罪(刑法240条)が含まれることにつき、名古屋高裁判例(平8年11月13日)で示されています。

常習累犯窃盗が成立する要件となる前科には少年の時の前科も含まれる

 常習累犯窃盗罪を成立させる前科には、少年時の前科も含まれます。

 この手について、以下の判例で明らかにされています。

東京高裁判例(昭和51年10月5日)

【犯人の弁護人の主張】

 犯人の弁護人は、

  • 少年法60条によれば、「少年のときに犯した罪により刑に処せられて、その執行を受け終わり、又は刑の免除を受けた者は、人の資格に関する法令の適用については、将来に向かって刑の言渡を受けなったものとみなす」とされている
  • だから、少年の時の前科については、常習累犯窃盗の要件とすることはできない

と主張しました。

【裁判官の判断】

 弁護人の主張に対し、裁判官は、

  • 少年法の条項は、執行猶予または累犯に関する刑法に関する規定はこれに該当しないと解されている(昭和27年2月21日、東京高等裁判所判決参照)
  • この趣旨からすれば、累犯の場合に準ずべき本件常習累犯窃盗に関する盗犯等の防止及び処分に関する法律3条、2条の場合にも、少年法60条1項は適用されないものと解すべきである

と判示し、少年の時の前科についても、常習累犯窃盗罪の要件にできるとしました。

今回処断すべき窃盗等の行為の前10年内』とは?

 『今回処断すべき窃盗等の行為の前10年内』とは、 今回処断される窃盗等の行為の開始前10年以内(行為開始の前日からさかのぼって10年目の日以降)という意味です。

 具体的には、前に窃盗罪等で懲役刑に処せられて、その懲役刑の受刑を終えて、刑務所から出所した日が、上記10年以内に3回あれば、常習累犯窃盗の成立要件を満たすことになります。

 また、常習累犯窃盗は、複数の窃盗を犯しても、常習一罪として、まとめて1個の罪が成立することになります。

 たとえば、今回犯人が3回の窃盗行為をして逮捕されていて、常習累犯窃盗で起訴される場合、3回の窃盗罪をまとめて1個の常習累犯窃盗の罪で起訴されることになります。

 なので、数個の窃取行為がある場合は、その最初の窃盗行為の日が、上記10年内に入っていれば、常習累犯窃盗罪の成立要件を満たすことになります。

6月の懲役以上の刑の執行を受けていること』とは?

 6月以上の懲役とは、判決で宣告された刑が6月以上の懲役という意味です。

 宜告された刑が6月以上であればよいので、現実に上記10年の期間内に執行を受けた期間が6月以上である必要はありません。

『3回以上』とは?

 懲役刑を宣告されて、実際に刑務所に刑の執行ために収容された回数が3回以上という意味です。

 具体的には、窃盗等の懲役刑の実刑前科が3回以上ある状態です。

 これらの3回以上の実刑前科の間に、刑法56条の累犯関係がある必要はあません(最高裁判例 昭和44年7月8日)。

『刑の執行を受けたこと』とは?

 『執行を受けたこと』とは、現実に刑務所に収容されて執行を受け、受刑を終えたことを意味します。

 なお、受刑を開始して、本来の刑の執行終了日が到来する前に刑務所を出所できる「仮出獄」という制度があります。

 仮出獄があった場合は、仮出獄期間(仮出獄日から本来の刑の執行終了日までの期間)の一部が10年の期間にかかっていれば、常習累犯窃盗の成立要件を満たします。

 この点について、以下の判例があります。

東京地裁判例(昭和63年10月7日)

 裁判官は、

  • 「刑の執行を受け」とは、収監を必須の要件とするものではなく、法が予定した方法による刑の執行を受ければ足りると解するのが相当である
  • 受刑者は、仮出獄期間が満了した揚合、その時点で、出獄中の日数を刑期に算入する方法で残余の刑の執行を受けたとされるとする

と判示しました。

 仮出獄期間の開始日が、刑の執行終了日になるのではなく、仮出獄期間の満了日が、刑の執行期間の満了日になるという理解になります。

 仮出獄しようがしまいが、刑の執行終了日は、予定どおり刑務所内で刑期を終えた場合と変わらないのです。

『刑の執行の免除を得たこと』とは?

 『刑の執行の免除を得た』とは、刑の言渡しの効力は存続したまま、実際には刑の執行を受けることが法律上なくなった場合をさします。

 具体的には、外国判決の効力による刑の執行の免除(刑法5条)、刑の時効完成による刑の免除(刑法31条)、恩赦による刑の執行の免除(恩赦8条)などが行われた場合に、刑の執行が免除されます。

 ただし、刑の言渡しの効力自体が消減する場合(刑の執行猶予期間の満了、大赦特赦)の場合は、刑の言い渡し自体がなかったことになるので、『刑の執行の免除を得た』に含まれません。

 さらに、「刑の免除」(刑法43条ただし書など)の場合も、そもそも刑の言渡し自体がない状態なので、当然に『刑の執行の免除を得た』に含まれません。

常習特殊窃盗と常習累犯窃盗の抑えるべき共通のポイント

 以下では、常習特殊窃盗罪と常習累犯窃盗罪のことを、常習窃盗といいます。

未遂軽減は適用されない

 2条(常習特殊窃盗罪)、3条(常習累犯窃盗罪)で、「その未遂罪を犯したる者に対し刑を科すべきとき」と規定していることから、窃盗行為が未遂に終わった場合でも、未遂減軽にり、未遂罪に適用する軽い刑を科すことはできません。

 この点について、以下の判例があります。

東京高裁判例 昭和60年10月3日

 第一審の判決で、常習累犯窃盗の罪を、窃盗行為が未遂であることを理由に、刑法43条を適用して未遂減軽したことに対し、高等裁判所の裁判官は、

  • 常習累犯窃盗については、窃盗行為自体が未遂であっても、未遂減軽をすることはできない
  • このことは、常習累犯窃盗の構成要件を規定した盗犯等の防止及び処分に関する法律3条、2条に照らし、明らかである

と判示しました。

累犯加重はできる

 未遂軽減はできませんが、今回処断すべき罪と前科との間に刑法56条の累犯関係がある場合には、累犯加重刑法57条)をすることができます(最高裁判例 昭和44年6月5日)。

常習性の認定は、自白だけではできず、補強証拠が必要である

 受刑前科の存在、常習性は、常習累犯窃盗罪の重要な構成要件なので、その認定は、被告人の自白だけでは足りず、補強証拠が必要になります。

 この点について、以下の判例があります。

東京高裁判例 平成2年5月10日

 この判例で、裁判官は、

  • 前科及び常習性は、常習累犯窃盗の重要な構成要件となっているから、これを認定するにあたっては、刑訴法319条に従い、被告人の自白のほか、補強証拠の存在を必要とする
  • そうしてみると、原判決は、被告人の自白を補強するに足りる証拠を挙示することなく、有罪の認定をしていることになり、これは刑訴法319条に違反するものである

と判示しました。

 このことから、常習累犯窃盗罪の前科、常習性の認定は、被告人の自白だけでは足りず、前科調書や被告人の自白以外の客観的な証拠で証明する必要があります。

 また、常習累犯窃盗罪を構成する個々の窃盗を認定するについても、当然、被告人の自白だけでは足りず、補強証拠を要します。

 この点について、以下の判例があります。

東京高裁判例(昭和61年8月7日

 この判例で、裁判官は、

  • 常習累犯窃盗を構成する個々の窃盗行為を認定するには、被告人の自白がある場合でも、そのほかに各行為ごとに、これを補強する証拠を要する
  • 原判決が、第3の事実について挙示する証拠は、被告人の自白のほかには、受刑の事実及び窃盗の常習性を証明する証拠にとどまり、個別的事実についての補強証拠足りうるものは掲げられていない
  • そうすると、原判決は、第3の事実については、被告人の自白を唯一の証拠として有罪の言渡しをしたものであって、刑訴法319条2項に違反する

と判示しました。

数個の窃取行為があっても、それらは単純一罪(常習一罪)になる

  常習特殊窃盗と常習累犯窃盗罪は、いわゆる集合犯であって、複数回の反復が構成要件上も予定されているので、数個の窃取行為があっても、それらは単純一罪(常習一罪)を構成します。

 たとえば、3回の窃盗行為をしても、その3回は、常習的に行った窃盗一罪として認定されるということです。

犯行途中に、常習窃盗とは別種の確定裁判が存在する場合の罪数

 常習窃盗の犯行途中に、確定裁判を経た罪が別種の罪である場合には、常習窃盗は2個に分割されず、常習窃盗はその確定裁判の後に終了したこととなって、常習窃盗とその確定裁判を経た罪とは、刑法45条後段の併合罪になりません。

 この意味ついて、以下の例を用いて説明します。 

R3.4.1 窃盗罪①を実行

R3.4.3 以前裁判にかけられた道路交通法違反の判決確定

R3.5.9 窃盗罪②を実行

R3.8.1 窃盗罪①と窃盗罪②を合わせて常習窃盗罪として裁判にかけられ、判決が言い渡される

 上記の例の場合、これから裁判を行う窃盗罪①と窃盗罪②の間に、道路交通法違反の確定判決が挟まっています。

 この場合、今回行った犯罪と犯罪との間に、過去に行った犯罪の確定判決を挟む状態であるため、刑法45条が適用され、窃盗罪①と窃盗罪②は、併合罪の関係になりません。

 すると、窃盗罪①と窃盗罪②を合わせて懲役2年といった1個の判決を出すことはできません。

 なので、この場合は、窃盗罪①につき懲役1年、窃盗罪②につき懲役1年というように、言い渡す刑を2個に分割して判決を出す必要があります。

 これが併合罪の通常の考え方です。

 しかし、常習窃盗のような常習犯の場合は、考え方が異なります。

 常習窃盗は、窃盗罪①と窃盗罪②をひっくるめて1個常習窃盗の罪が成立するという考え方をとります。

 つまり、犯行の開始日は、窃盗罪①の犯行に着手した日、犯行終了日は、窃盗罪②の犯行が終了した日となります。

 考え方として、窃盗罪①と窃盗罪②を合わせて常習窃盗罪とした場合、窃盗罪①の犯行は、窃盗罪②の犯行が終了するまで終わっておらず、窃盗罪②の犯行が終わった時に、窃盗罪①の犯行も窃盗罪②の犯行に合わせて終了したと考えることになります。

 この考え方を先ほどの例に落とし込むと以下のようになります。

R3.4.1 常習窃盗となる窃盗罪①を実行(常習窃盗としての犯行開始日)

R3.4.3 以前裁判にかけられた道路交通法違反の判決確定

R3.5.9 常習窃盗となる窃盗罪②を実行(常習窃盗としての犯行終了日)

R3.8.1 窃盗罪①と窃盗罪②を合わせて常習窃盗罪として裁判にかけられ、判決が言い渡される

 そして、この時、常習窃盗となる窃盗罪①と常習窃盗となる窃盗罪②の間に、確定判決があるからといって、判決は2個に分割しません。

 つまり、常習窃盗として窃盗罪①につき懲役1年、常習窃盗しての窃盗罪②につき懲役1年といった判決の出し方をすると違法判決になります。

 この場合、窃盗罪①と窃盗罪②を1個の常習窃盗罪として、懲役2年といった1個の判決を出すのが適法になります。

 この点については、以下の判例があります。

最高裁判例(昭和39年7月9日)

 第一審で、常習特殊窃盗罪を分割して判決した点について、最高裁の裁判官は、

  • 常習特殊窃盗罪について、数個の窃盗行為が常習としてなされた場合には、その全部は包括して一個の常習犯をなすものであり、その一個の常習犯の中間に別種の罪の確定裁判が介在しても、そのためにその常習犯が二個の常習犯に分割されるものではない
  • そして右の場合一個の常習犯が別罪の裁判確定後に終了したのであるから、その終了時を基準として刑法45条の適用については、その常習犯は別罪の裁判確定後の犯罪と解するのが相当である

と判示し、第一審において、常習特殊窃盗罪の判決を分割した点を、常習犯の個数に関する法律上の判断を誤り、ひいて併合罪関係に関する法令の解釈を誤った違法があるとしました。

犯行途中に、常習窃盗とは同種の確定裁判が存在する場合の罪数

 先ほどの例のように、犯行途中に、常習窃盗とは別種の確定裁判(道交法違反など)が存在する場合は、常習犯は二つに分割されません。

 これに対し、確定裁判を経た罪が、常習犯と同種の確定裁判である場合(本来常習犯の一部を構成すべきものである場合)には、その確定裁判によって常習犯は二つに分割されます。

 そして、確定裁判前の犯行は、確定裁判を経た罪と単純一罪の関係に立つから、既に確定判決を経たものとして免訴の判決を受けることになります。

 他方、確定裁判後の犯行は、確定裁判を経た罪とは別罪を構成することになり、この犯行単独で常習窃盗して1個の判決が出されることになります(最高裁判例 昭和43年3月29日)。

 今の説明を例にすると、以下のようになります。

R3.4.1 常習窃盗となる窃盗罪①を実行

R3.4.3 以前裁判にかけられた常習窃盗の判決確定

R3.5.9 常習窃盗となる窃盗罪②を実行

R3.8.1 窃盗罪②のみで常習窃盗罪として裁判にかけられ、判決が言い渡される(窃盗罪①は免訴)

 また、この場合、確定裁判時の罪名は、窃盗幇助などの罪名でもよく、罪名が常習窃盗である必要はありません(上記最高裁判例 昭和43年3月29日)。

常習窃盗と他罪との関係

窃盗罪との関係

 常習性の発現とはいえない窃取行為は、常習窃盗の罪には包摂されません。

 とはいえ、その窃取行為が、常習窃盗とは別個の単純窃盗罪(刑法235条)を構成し、常習窃盗と併合罪の関係に立つと解すると、常習窃盗と窃盗罪の2つの罪で処罰されることになり、かえって処断刑が重くなって犯人に不利益になります。

 そのため、その単純窃盗は、常習窃盗に吸収されるとする裁判例があります(福岡高裁宮崎支判例 昭和33年4月18日)。

窃盗目的住居侵入罪との関係

 常習窃盗を犯す目的で住居侵入を行った場合には、実際に窃盗行為にまで進んだ場合であれ、窃盗行為にまで進まなかった場合であれ、住居侵入罪は、常習窃盗と一罪の関係にあり、別罪を構成しません(最高裁判例 昭和55年12月23日)。

侵入具携帯罪との関係

 機会を異にして犯された常習累犯窃盗と侵入具携帯(軽犯罪法1条3号)の両罪は、侵入具携帯が常習性の発現と認められる窃盗を目的とするものであったとしても、併合罪の関係になります(最高裁判例 昭和62年2月23日)。

 侵入具携帯は、常習累犯窃盗罪に吸収されず、常習累犯窃盗罪とは独立した罪として成立するということです。

 この場合、侵入具携帯と常習累犯窃盗罪の2つの罪名で起訴されて裁判を受けることになります。

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