前回の記事の続きです。
特殊詐欺におけるキャッシュカードすり替え型窃盗の「だまされたふり作戦」は承継的共同正犯として、窃盗未遂罪が成立する
特殊詐欺の手法として、キャッシュカードすり替え型窃盗があります。
「特殊詐欺のキャッシュカードすり替え型窃盗」とは、
- 詐欺の犯人が、被害者に電話をし、警察官などと偽って電話をかけ「キャッシュカード(銀行口座)が不正に利用されている」「預金を保護する手続をする」などと言って嘘の手続きを説明する
- 電話での説明後に「キャッシュカードの確認に行く」などの名目で私服警察官や銀行協会職員等になりすました犯人が被害者宅を訪れ、被害者が目を離している隙に、あらかじめ用意しておいた偽のカードと本物のキャッシュカードをすり替え、被害者が気づかない内に口座から現金を引き出す
というものです。
「特殊詐欺のキャッシュカードすり替え型窃盗」の『だまされたふり作戦』は、詐欺の犯人から電話を受けた段階で詐欺だと気付き、警察に通報して、キャッシュカードをすり替えにする犯人を窃盗未遂(キャッシュカードをすり替えて窃取しようとしたが、警察に捕まったためできなかった)により警察に捕まえてもらうというものです。
「特殊詐欺のキャッシュカードすり替え型窃盗」の『だまされたふり作戦』は、裁判において、
- 窃盗の実行の着手があり、窃盗未遂が成立するのか?
が争点となりました。
窃盗の実行の着手がなければ、窃盗未遂は成立しません(実行の着手と未遂の説明は前の記事参照)。
具体的には、
- 詐欺の犯人が被害者に電話をかけた時点では、窃盜の実行の着手があったとはいえず、被害者宅にキャッシュカードをすり替えに向かう犯人を窃盗未遂で逮捕することはできないのではないか?
が問題となりました。
結論として、最高裁は、
- 詐欺の犯人が被害者に電話をかけて被害者をだます行為をした後、被害者宅にキャッシュカードをすり替えに向かった犯人が被害者宅付近まで赴いた時点では窃盗の実行の着手があった
とし、被害者方に向かう途中の犯人を窃盗未遂で逮捕することが認められるとしました。
この判決の内容は以下のとおりです。
キャッシュカードすり替え型の窃盗罪につき実行の着手があるとされた事例
裁判所は、
- 被害者に電話をかけキャッシュカードを封筒に入れて保管することが必要でありこれから訪れる者が作業を行う旨信じさせ、被害者宅を訪れる被告人が封筒に割り印をするための印鑑を被害者に取りに行かせた隙にキャッシュカード入りの封筒と偽封筒とをすり替えてキャッシュカードを窃取するという犯行計画に基づいて、すり替えの隙を生じさせる前提となり、被告人が被害者宅を訪問し虚偽の指示等を行うことに直接つながるとともに、被害者に被告人の指示等に疑問を抱かせることなくすり替えの隙を生じさせる状況を作り出すようなうそが述べられ、被告人が被害者宅付近路上まで赴いたなどの本件事実関係(判文参照)の下においては、被告人が被害者に対してキャッシュカード入りの封筒から注意をそらすための行為をしていないとしても、当該うそが述べられ被告人が被害者宅付近路上まで赴いた時点では、窃盗罪の実行の着手が既にあったと認められる
と判示しました。