刑法(詐欺罪)

詐欺罪⑳ ~「消費貸借・賃貸借に関する詐欺」を判例で解説~

消費貸借・賃貸借に関する詐欺

 詐欺罪(刑法246条)について、消費貸借・賃貸借に関する詐欺の判例を紹介します。

大審院判決(明治43年5月19日)

 債務者が、債権者の支払請求に対して、債権者を欺く意思で、すでに弁済した旨の回答をして債務の弁済を免れようとすることは、人を欺く行為に当たり、詐欺罪が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 債務者が、債権者の支払請求に対し、これを欺罔する意思を持って、既に弁済をなしたる旨の回答をなし、債務の弁済を免れんとしたるも、その目的を遂げざりしときは、詐欺未遂罪を構成す

と判示しました。

大審院判決(大正2年2月17日)

 債権取立ての目的で、債権の信託的譲渡を受けた者が、譲渡人と債務者の和解により債権が消滅したのにかかわらず、債権者から債権譲渡を受けたとの虚偽の事実を主張し、債務者に対し契約解除による損害賠償金を請求することは、人を欺く行為に当たり、詐欺罪が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 債権の取立を目的とする譲渡行為にありては、第三者に対する外部関係においてのみ債権譲渡の効力を生ずるに止まり、当事者間の内部関係においては、債権は依然として譲渡人に存するものなるをもって、右取立をなさざる以前において、譲渡人は債務者と和解をなし、その債権を消滅せしめんと得べきや論をまたず
  • 本件債権は、譲渡人たる債権者と債務者との間における和解によりて消滅したるをもって、被告人は既に何らの請求権を有せざるにかかわらず、債権者より真実に債権の債権譲渡を受けたるものなりと虚偽の事実を主張し、右債権に基づき、債務者に対して契約解除による損害賠償金を請求して、その目的を遂げざりし事実なれば、原判決が詐欺未遂罪をもって、被告人の行為を論じたるは相当である

と判示し、詐欺罪(この判例の事案では目的を遂げていないの詐欺未遂罪)が成立するとしました。

大審院判決(大正4年6月3日)

 債務者に報酬金請求権を有する債権者が、債務者を欺き、土地貸下出願につき予納金納付の命があったと誤信させて、報酬金請求権額相当の金員の交付を受けることは、人を欺く行為に当たり、詐欺罪が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 被告人が、上告人(債務者)より受けべき15,000円の報酬金を取得せんと欲し、その目的を告げずして債務者を欺罔するに、あらかじめ、土地貸下出願につき、農商務省より予納金納付の命ありたることもってし、同人より金額15,000円の為替証書1通の交付を受けたる事実を事実を認めるものなり
  • しかして、この事実に徴するときは、債務者は、被告人のために欺罔せられ、保証金(予納金)に充てるため、右為替手形を被告人に交付したるものにして、報酬金支払いついての弁済をなすの意思を有せざりしこと明らかなるがゆえに、弁済の効は生ずるものにあらず
  • 従って、被告人は、報酬金請求権を行使して弁済を受けたるものにあらずして、報酬金請求権と全然相異なる原因により、債務者を欺罔して、金額15,000円の為替証券を騙取したるものにほかならず

と判示し、詐欺罪が成立するとしました。

大審院判決(大正4年6月24日)

 債務者が、故意に財産の一部を隠匿し、残余の財産のほかに財産がない旨詐言して、債権者を錯誤に陥れ、その者に請求の猶予又は債務者に有利な条件の下に年賦弁済を受けることを承諾させることは、人を欺く行為に当たり、詐欺罪が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 債務者が故意に財産の一部を隠匿し、残余の財産のほか、他に財産なき旨を詐言し、債権者を錯誤に陥れ、その者をして請求の猶予又は債務者に有利なる条件の下に、年賦弁済を受けることを諾せしめたる所為は、刑法第246条第2項の罪を構成するものとす

と判示しました。

大審院判決(大正7年7月29日)

 準禁治産制限行為能力者)の宣告を受けた者が、金員借用に際し、その宣告を受けた事実のないことを信じさせるような人を欺く手段を施すことは、人を欺く行為に当たり、詐欺罪が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 民法21条は、罰則的規定なるにより二重に刑法の処罰を受くべきものにあらず
  • 民法21条により詐術を用いるときは、能力者と法定せられ、無能力者として人々を詐術すると適格を失うに至るものなりというにあり
  • 然れども刑罰法令の規定する刑罰は、民事法令の規定する制裁と全然その性質を異にし、ある所為にして、苟も犯罪の成立要素を具備する以上は、民事上の制裁如何に関わらず、罪責を負担せしむべきや論をまたず
  • ゆえに、被告人が準禁治産の宣告を受けたる身なるにかかわらず、被害者に対し、その事実なきことを信じせしむべき欺罔手段を施し、相手方を錯誤に陥れ、よりて金員騙取したる事実を認めて、これを詐欺罪として処断せる原判決に何ら不法あることなし

と判示しました。

大審院判決(大正11年12月22日)

 金銭を詐取するため、虚偽の貸金債権を主張して支払を請求することは、人を欺く行為に当たり、詐欺罪が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 金銭を騙取せんがため、他人に対し、虚偽の賃金債権を主張して支払を請求したるも、その者において、錯誤に陥らざりしときは、刑法第246条第1項に規定する詐欺の未遂罪を構成し、請求を受けたる者が錯誤に陥らずして請求金額を支払いたりとするも、その未遂罪の成立に消長なきものとす

と判示しました。

大審院判決(大正13年5月29日)

 Aのために資金を調達しようとして、Aを保証人とする自己名義の借用証書を所持していた者が、その必要が消滅したにもかかわらず、Aが保証するもののように装って、他から借入れをすることは、人を欺く行為に当たり、詐欺罪が成立するとしました。

大審院判決(昭和14年10月16日)

 債務弁済延期の目的で、競落の意思がないのに競買いの申出をし、競落許可決定を受けた上、競落代金の支払義務を履行せず、債務弁済延期の利益を得ることは、人を欺く行為に当たり、詐欺罪が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 抵当権実行のため、競売の申立てを受けたる債務者が競落の意思なきにかかわらず、他人名義をもって競落し、その代金を納付せず、再競売のやむなきに至らしめ、よりて抵当権の実行を妨げたるときは、財産上の不法の利益を得たるものとす
  • 不法利得罪を断する判決においては、犯人が不法に財産上の利益を得たることを知り得べき程度に事実を判示するをもって足り、必ずしもその利益を算数的に明示するの要なきものとす

と判示しました。

大審院判決(昭和3年7月10日)

 消費貸借に当たり、他人の代理人である旨詐称することは、人を欺く行為に当たり、詐欺罪が成立するとしました。

東京高裁判決(昭和61年4月24日)

 他人の氏名を詐称して、金融会社から金銭の貸付けを受けることは、人を欺く行為に当たり、詐欺罪が成立するとしました。

 この裁判で、被告人の弁護人は、

  • 原判決は、被告人がAの氏名を詐称した点に欺罔行為があるとして、詐欺罪の成立を認めたが、本件借入については、Aがその借主で、Aには返済の意思及び能力があり、被告人は、Aの使者として借入の手段をしたのにすぎないから、被告人はAの氏名を詐称したとしても、その行為が詐欺罪における欺罔行為に当たるとはいえない

と主張しました。

 これに対し、裁判官は、

  • 被害金融会社においては、被告人がAの健康保険被保険者証を示すなどして、Aの氏名を詐称したため、その担当者が、現実に出頭してきた被告人を本当にA本人であると誤信し、その誤信に基づき、借主になるのがAであることを前提として貸付の可否を判断したうえ、そのA本人とは異なる人物である被告人に対し、Aに対する貸付金として現金を交付してしまったもので、もしそれがA本人でないことが分かれば、その現金を交付するはずがなかったことが認められる
  • そうすると、たとえ、民事上の問題としては、Aが借主として扱われることがあり、また、そのAに返済の意思や能力がなかったとはいえないとしても、被害金融会社との間において、被告人が欺罔行為をしたことに変わりなく、詐欺罪が成立する

と判示しました。

大審院判決(昭和7年12月12日)

 被告人が居住する意思であることを隠蔽し、かつ無資産のAを相当財産を持っている者のように装わせて、Aが賃借居住するもののように申し入れ、賃貸借契約を締結させた上、自分自身その家屋にAを伴い多数の家族配下と共に引き移り、2年余り賃料を支払わずに居住することは、人を欺く行為に当たり、詐欺罪が成立するとしました。

最高裁判例(昭和29年6月11日)

 倉荷証券により金融を受けた際、倉荷証券に記載されている物件の大部分が虚偽、無価値なものであることを知れば、相手方は同証券を担保に金員を交付することがなかった関係がある以上、その倉荷証券自体は、真正に成立したものであるため、相手方と倉庫営業者との間における寄託に関する事項は、同証券に記載されているところによるとしても、詐欺罪の成立を妨げないとしました。

 裁判官は、

  • 倉荷証券自体は、真正に成立したものであっても、それに表示されている物件の大部分が虚偽無価値のものであり、その物件では、金融を受け得られない関係事実を肯認できる本件においては、たとえ商法602条の法律関係が成立しても、詐欺罪の成立を妨げるものではない

と判示しました。

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