令和3年司法試験の刑法論文問題から学ぶ

 令和3年司法試験の刑法論文問題の答案を作成してみました。

 この論文からは以下のテーマが学べます。

1⃣ 窃盗罪と横領罪との区別

2⃣ 強盗の仮装と強盗罪の成否

3⃣ 盗品等保管罪刑法256条2項

4⃣ 刑法総論

問題

 以下の【事例1】及び【事例2】を読んで、後記〔設問1〕及び〔設問2〕について、答えなさい。

【事例1】

1⃣ 甲及びその後輩の乙は、それぞれ金に困り、2人で腕時計販売店に押し入って腕時計を強奪しようと計画していた。甲は、腕時計販売を業とするA株式会社(以下「A社」という。)が直営するB腕時計店(以下「B店」という。)で働いている親友の丙に対し、警備体制に関する情報の提供など上記計画への協力を求めた。

2⃣ 丙は、B店の副店長として自ら接客に従事するほか、アルバイトの採用や従業員の勤怠状況の管理を行い、B店の帳簿作成や売上金管理等の業務も担当していた。売上金管理業務として、丙には、各営業日の閉店後、当日の売上金額をA社本社に報告することのほか、各営業日の開店前に、前日の売上金をA社名義の預金口座に入金することが義務付けられていた。また、商品の仕入れ、店外への持ち出し及び価格設定について、丙に権限はなく、全て店長Cの承認を得る必要があるとされていた。

 B店の売場に陳列されている商品は、ショーケース内に保管されていたが、その陳列方法は全て丙が決定していた。このショーケースは、接客に必要なときを除いて常時施錠され、その鍵は、C及び丙のみが所持していた。また、B店の売場及び従業員控室には、複数の防犯カメラが設置され、その様子が常時くまなく音声付きで撮影録画されていたほか、警備会社を通じ、警察に非常事態の発生を知らせるための押しボタン式通報システムも設置されていた。

3⃣ 金に困っていた丙は、甲からの話を聞いて、いっそのことB店の腕時計が強奪されたように装い、これを自分たちのものにしようと思い付き、某月1日、甲に対し、前記2の事実関係を説明した上、「午前11時の開店時は、普段だとめったに客も来ないし、明後日は俺しかいないから、その時、店に来て刃物を出して、ショーケースを開けろと言ってくれ。俺は後で怪しまれないように拒むふりをするけど、最後はショーケースを開けるから、すぐに時計を持って行ってくれ。

 ただ、俺も通報しないわけにはいかないので、急いで逃げろよ。時計は後で分けよう。それと、会ったことのない乙は信用できないから、今の話は内緒にしてくれ。」と持ち掛けたところ、これを甲は承諾した。

4⃣ 甲は、同月2日、丙と内通している事実を秘したまま、乙に対し、「明日、俺がB店の開店と同時に中に入って店員に刃物を突き付けて時計を奪い取ってくる。その間、お前は近くに停めた車で周囲を見張り、俺が戻って来たらすぐに車を出してくれ。帰ってから時計を分けよう。」と持ち掛けたところ、これを乙は承諾した。

5⃣ 甲は、同月3日午前10時59分、乙の運転する自動車でB店前路上に到着し、同日午前11時、その開店と同時に、覆面をかぶり、サバイバルナイフ(刃体の長さ約20センチメートル。以下「本件ナイフ」という。)及びボストンバッグ(以下「本件バッグ」という。)を持って同車から降り、B店に向かった。甲は、B店内に入ると、丙に対し、本件ナイフを示し、「殺されたくなかったら、これに時計を入れろ。」と言い、ショーケース内に陳列されている腕時計を本件バッグに入れるように要求した。これに対し、丙は、前記通報システムを作動させ、甲に対し、「通報したから警察が来るぞ。」と言い、上記要求を拒否するふりをしたので、甲は、丙に対し、「いいからやれ。刺すぞ。」と語気を強めて言った。その直後、丙は、ショーケースを解錠し、その中にあった腕時計100点(時価合計3000万円相当)を甲から受け取った本件バッグに入れ、これを甲に差し出した。甲は、同日午前11時3分、本件バッグを丙から受け取ると、B店内から出て前記車両に乗り込み、乙の運転する同車で逃走した。

 乙は、甲が前記車両を降りてから戻って来るまでの間、通行人が甲を警戒したり、警察官らが駆けつけたりする様子があれば、これを甲に知らせるつもりで、同車運転席から周囲を見張っていた。

6⃣ 甲は、同日、乙に対し、その取り分として前記腕時計100点のうち20点(時価合計400万円相当)を手渡し、さらに、同月4日、丙に対し、その取り分として残りの腕時計のうち40点(時価合計1300万円相当。以下「本件腕時計40点」という。)が入った本件バッグを手渡した。

7⃣ 丙は、同月5日、本件バッグを交際中の丁の自宅に隠すこととし、これをその押し入れ内にしまうと、丁に対し、「バッグの中は見るな。しばらく預かっておいてくれ。」と言った。これに従い、丁は、本件バッグを押し入れ内に放置していたが、同月10日、片付けのため本件バッグを手に持った際、想像以上の重量であったので、不審に思い、その中を見たところ、本件腕時計40点を発見した。その時、丁は、本件腕時計40点全てに値札が付いていたことから、丙が自分のものにするためにB店から無断で持ち出した商品であろうと認識したが、丙のために、本件バッグを預かり続けることとし、これを元の位置に戻した。丁は、同月25日に本件バッグを丙に返すまでの間、これを押し入れ内に置き続けた。

〔設問1〕

 【事例1】における甲、乙、丙及び丁の罪責について、論じなさい(住居等侵入罪(刑法第130条)及び特別法違反の点は除く。)。

【事例2】

(【事例1】の事実に続けて、以下の事実があったものとする。)

8⃣ 乙は、甲から受け取った腕時計20点を換金したが、浪費して再び金に困り、同月30日午後7時、甲に電話を掛け、「時計をもっと分けてください。」などと執ように迫った。甲は、当時、自宅で丙と飲酒中であったが、乙の態度を面倒に感じ、酒の勢いもあって、「実は、B店の店員と通じてやったんだ。今も一緒に飲んでいる。残りは俺とそいつで半分ずつに分けたから、お前にやる分はもうない。」と言った。これを聞いた乙は、興奮し、「そんなのうそでしょ。」と言った。甲は、「うそだと思うなら、うちに来いよ。」と言い、電話を切った。甲は、乙の態度に立腹し、丙に状況を説明した上、「乙は生意気だから、懲らしめてやろう。多少怪我をさせても構わない。俺が木刀で殴ってやる。その時、乙を押さえていてくれ。」と言ったところ、最初は嫌がっていた丙も、最終的にはそれに応じた。

9⃣ 甲は、自宅物置内から木刀を持ち出し、丙と共に自宅前で乙を待っていたところ、同日午後8時、乙が到着するや否や、丙が背後から乙を羽交い締めにした。甲は、「お前、調子に乗るなよ。」と言い、乙の頭部を木刀で1回殴った。すると、乙は、「やめてください。やめてくれないなら、全部警察にばらしますよ。」と言い出した。乙の発言について、甲は、乙の真意でないと考えたが、丙は、そのように考えず、乙に暴行を加え続けて警察に真相を話すのを思いとどまらせようと考え、「もっと痛い目に遭わないと分からないのか。」と言い、乙の顔面や腹部を手拳で多数回殴った。

 これを見た甲は、丙の余りの勢いに驚き、丙に対し、「乙が警察にばらすはずはない。落ち着け。」と言い、丙をいさめて暴行を終了させようとした。しかし、丙は、暴行を提案した甲から止められたことに立腹し、甲の頭部を手拳で殴ったところ、転倒した甲が頭部を路面に打ち付けて気絶した。丙は、そのことを認識しつつ、この機会に、乙に暴行を加えて警察に真相を話さないと約束させようと考え、同日午後8時5分、甲から取り上げた木刀で乙の頭部を1回殴ったところ、乙は逃げ出した。

🔟 乙は、全治約3週間を要する頭部裂傷のほか、全治約1週間を要する顔面打撲及び腹部打撲の傷害を負った。そのうち全治約3週間を要する頭部裂傷の傷害は、甲又は丙の木刀による殴打行為のいずれか一方だけによって形成されたことは明らかであるが、いずれの殴打行為から形成されたものか不明であった。

〔設問2〕

 【事例2】における甲の罪責に関し、以下の⑴及び⑵について、答えなさい。なお、⑴及び⑵のいずれについても、自らの見解を問うものではない。

⑴ 甲は乙の頭部裂傷の傷害結果に関する刑事責任を負わないとの立場からは、その結論を導くために、どのような説明が考えられるか。論点ごとに論拠を示しつつ説明すること。

⑵ 甲は乙の頭部裂傷の傷害結果に関する刑事責任を負うとの立場からは、前記⑴の説明に対し、どのような反論が考えられるか。論点ごとに論拠を示しつつ反論すること。

答案

設問1

第1 甲及び丙の罪責

1 甲及び丙は、B店に置かれていた腕時計100点(以下、「本件被害品」という。)を領得していることから、窃盗罪(刑法235条)又は横領罪若しくは業務上横領罪(刑法252条1項253条)の共同正犯(刑法60条)が成立しないか。

⑴ 本件被害品の占有は、B店の副店長丙と店長Cのどちらに帰属するか。

 仮に丙に占有が認められれば横領罪又は業務上横領罪の成否が問題になるのに対し、認められなければ窃盗罪の成否が問題になる。

 これは、占有の帰属の問題である。

 「占有」とは、人が財物を事実上支配し、管理する状態をいう。

 財物が、会社などの上位機関と下位機関からなる組織体によって管理されている場合は、財物の占有は上位機関のみにあると解する。

 占有の主体となれるのは、自然人のみなので、組織体が管理する財物は、上位機関に所属する財物の管理を任されている者となる。

 占有の主体になる上位機関とは、①財物に対する管理の権限および責任を独占している、②下位機関を指揮監督しているという立場関係にある機関をいうと解する。

 下位機関とは、①財物に対する管理の権限と責任がない、②上位機関の指揮監督を受けて、機械的に財物管理の一端にかかわるのみであるという立場関係にある機関をいうと解する。

 本件では、丙はB店の副店長として、接客、従業員の管理、売上金管理を行っていたのみであり、商品の仕入れ、店外への持ち出し、価格設定といった商品に関する権限はなく、これらについてはCの承諾を得る必要があった。

 よって、丙は、本件被害品につき、管理権限と責任はなく、Cの指揮監督を受け、機械的に財物管理の一端にかかわるのみであったといえ、本件被害品の占有は丙にはなく、Cにあったと認められる。

⑵ 横領罪及び業務上横領罪は、自己が占有する他人の物を横領したときに成立する。

 本件被害品の占有はCにあり、丙に占有はないことから、丙が本件被害品を領得する行為は、自己が占有する他人の物の横領に当たらず、横領罪及び業務上横領罪は成立しない。

⑶ では窃盗罪は成立するか。

ア 「窃取」とは、目的物の占有者の意思に反して、その占有を侵害し、その物の占有を自己または第三者の占有に移すことをいう。

 甲は、丙の協力を得て、Cの意思に反して本件被害品をバックの中に入れて領得し、丙の占有を侵害していることから「窃取」に当たる。

イ 本件被害品はCが占有する「他人の財物」である。

ウ 不法領得の意思とは、権利者を排除し、他人の物を自己の所有物と同様にその経済的用法に従い、これを利用し又は処分する意思をいうところ、甲と丙は本件腕時計を領得して自己の物とする目的であるから、不法領得の意思が認められる。

エ よって、窃盗罪が成立する。

⑷ 甲及び丙の共同正犯は認められるか。

 共同正犯の処罰根拠は、正犯意思の下、相互利用補充関係に基づき、互いに物理的・心理的影響を及ぼし合い、自己の犯罪を実現することであることに鑑み、共同正犯が認められるためには、①共謀(犯行の共同実行の意思の連絡)、②共同実行の事実(犯行の実行行為の分担)が必要となる。

 ①共謀が認められるか。

 「共謀」とは、正犯意思をもって、相互的意思連絡を形成することをいう。

 甲は、丙に対し、B店の警備体制に関する情報提供などの協力を求め、丙はそれに応じた上で犯行計画を提案し、甲はその犯行計画を了承している。

 よって、甲と丙に正犯意思及び相互的意思連絡の形成が認められる。

 したがって、甲と丙に共謀の成立が認められる。

 ②共同実行の事実が認められるか。

 甲と丙は強盗を仮装し、丙は本件被害品が陳列されているショーケースの鍵を解錠し、本件被害品を甲から受け取ったバッグに入れ、甲に差し出しているので、甲と丙は実行行為を分担している。

 よって、甲と丙に共同実行の事実が認められる。

 したがって、甲と丙に共同正犯が認められる。

2 強盗罪(刑法236条)の成立は否定できるか。

 強盗罪における暴行・脅迫は、財物を強取する手段としての暴行・脅迫であり、被害者の反抗を抑圧するに足りる程度の行為をいう。

 そして、その判断は、社会通念に基づき客観的になされる。

 甲は、丙に対し、サバイバルナイフを示し「殺されなくなかったら、これに時計を入れろ。」などと言っており、一見、被害者の反抗を抑圧するに足りる暴行・脅迫であると思える。

 しかし、上記暴行・脅迫は、強盗を仮装する手段に過ぎず、暴行・脅迫を向けた相手方は共犯者である丙であり、被害者に向けられたものではない。

 よって、強盗罪における暴行・脅迫に当たらない。

 したがって、強盗罪は成立しない。 

3 以上より、甲と丙に窃盗罪の共同正犯が成立する。

第2 乙の罪責

1 乙は、本件被害品の窃取に対し、甲を車で送り迎えしたほか、犯行時に見張りをしていたことから、窃盗罪の共同正犯又は幇助犯刑法62条1項)が成立しないか。

⑴ 乙に共同正犯が成立するとした場合、乙は窃盗の実行行為を行っていないことから、共謀共同正犯の成否が問題となる。

 共謀共同正犯とは、共謀はあるが、犯罪の実行行為の分担がない場合の共同正犯をいう。

 共謀共同正犯が成立するには、2人以上の者が特定の犯罪を行うため、共同意思の下に一体となって、互いに他人の行為を利用し、各自の意思を実行に移すことを内容とする意思を持って謀議をなし、犯罪を実行した事実があることが必要である。

 上記の各自の意思を実行に移すことを内容とする謀議に参加した事実が認められる以上、直接実行行為に関与しない者でも、他人の行為をいわば自己の手段として犯罪を行ったという意味において、共同正犯の刑責を負う。

 本件につき、甲乙間で腕時計を持ち去る計画を立てていたものの、乙は、その具体的な計画の策定に加わっておらず、甲が丙に相談するかたちで行っていた。

 乙は、丙が犯行に関与することも、強盗に見せかけて被害品を窃取するということも甲から知らされていなかった。

 また、乙は、見張りと自動車での送り迎えを行っていたのみであり、犯行実行段階での干与も小さい。

 加えて、乙は甲の後輩であって、終始甲の指示に従っていたにとどまり、報酬も甲が決めており、乙の報酬は窃取した腕時計100点のうち20点と甲丙と比べて少なかった。

 これらの事情に照らすと、乙は、共謀段階において、共同意思の下に一体となって、互いに他人の行為を利用し、各自の意思を実行に移すことを内容とする意思を持って謀議をなしているとはいえない上、実行段階、犯行後の関わりも小さい。

 よって、乙に共謀共同正犯は成立しない。

⑵ では幇助犯は成立しないか。

 「幇助」とは、正犯の実行行為を容易にし、促進することをいう。

 幇助犯が成立するためには、①幇助の意思があること、②幇助された者が犯罪を実行することが必要となる。

 「幇助の意思」があるといえるには、自分の幇助行為により、幇助された者の犯罪の実行が容易になることを認識・容認することが必要になる。

 幇助行為があったいえるためには、幇助行為が正犯の行為を物理的・心理的に容易にし、促進したと認められれば足りる。

 乙は、自動車を運転して甲をB店まで送り、甲が犯行に及んでいる間、運転席から周囲を見張り、警察官が駆け付けて来ないかなどの警戒を行っていた。

 そして、犯行を終え、腕時計を領得した甲を自動車に乗せて逃走した。

 乙の行為は、甲の犯行がうまくいくように手助けするものであり、甲の犯行を物理的・心理的に容易にし、促進するものであったと認められる。

 乙には甲の犯行を手助けする意思、すなわち幇助の意思も認められる。

 よって、乙に幇助犯が成立する。

⑶ 乙は、甲が被害品を強取すると考えており、強盗罪の故意であったが、甲が行ったのは窃盗罪である。

 ここで、乙にいかなる罪の故意の成立が認められるか。

 故意責任の本質は、反対動機形成可能性にあり、構成要件の範囲内の認識にずれがあっても反対動機形成は可能である。

 したがって、強盗罪と窃盗罪の両構成要件に重なり合いが認められれば、軽い罪の限度で故意責任を問うことも可能である。

 構成要件の重要部分は行為と結果であるから、行為態様及び保護法益の共通性により重なり合いを判断する。

 検討すると、強取か窃取の違いはあるが、領得という点で行為態様は共通する。

 また、財物の占有を保護する点で保護法益も共通している。

 よって、強盗罪と窃盗罪との間に重なり合いが認められる。

 そして、強盗罪の法定刑は5年以上の有期拘禁刑であり、窃盗罪の法定刑は10年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金であることから、罪の軽重は窃盗罪の方が軽くなる。

 よって、乙に罪の軽い窃盗罪の故意が認められる。

2 以上より、乙に窃盗罪の幇助犯が成立する。

 なお、幇助犯につき、必要的に刑が減軽される(刑法63条

第2 丁の罪責

1 丁が丙からの依頼で腕時計40本が入ったバッグを保管した行為につき、盗品等保管罪刑法256条2項)が成立しないか。

 盗品等保管罪の成立には、知情と保管の行為を要する。

 丁は、丙から「しばらく預かっておいてくれ。」と言われて委託を受け、本件バッグを預かったものであるが、預かった時点では、保管行為はあるが、バッグの中身が盗品であることの知情がないことから、盗品等保管罪は成立しない。

 もっとも、その後、丁が不審に思ってバッグの中身を見た際に、丙がB店から無断で持ち出した商品であると認識した上で、なお本件バッグを保管し続けた時点で盗品等保管罪が成立しないか。

 これは、保管後に盗品であることを知った場合に、盗品等保管罪が成立するかという問題である。

 盗品等保管罪は、保管という性質上、継続犯である。

 継続犯とは、犯罪の結果発生と同時に犯罪は成立するが(既遂に達するが)、加害行為が継続する犯罪をいう。

 また、盗品等に関する罪の保護法益は、財産犯の被害者が被害物を追求・回復する権利(追求権)である。

 このことから、保管行為が継続する以上、被害者の追求権の行使を困難にすることから、知情後の保管についても盗品等保管罪が成立する。

 よって、丁が本件バッグの中身が盗品であることの知情を有するに至り、それでも保管を継続するとしたした時点で、盗品等保管罪が成立する。

2 以上より、丁に盗品等保管罪が成立する。

設問2⑴

1 甲は、丙に殴られるなどして気絶した後は、丙との傷害罪の共犯関係の離脱が認められ、気絶後に行われた丙が乙の頭部を木刀で殴る行為について刑事責任を負わないとの説明が考えられる。

⑴ 共同正犯の処罰根拠は、正犯意思の下、互いの行為を利用補充し、物理的・心理的影響を及ぼし合い、自己の犯罪を実現するという因果性にある。

 そこで、共犯関係の離脱が認められるためには、離脱者のそれまでの行為と、その後の他の共犯者の行為とその結果との間の因果性を遮断するかたちで離脱しなければならない。

 本件では、乙への木刀による殴打行為を計画したのは甲であり、その因果的影響は大きいように思える。

 しかし、甲は、丙に落ち着けなどと言い、丙をいさめて犯行を終了させようとしている。

 さらにその直後、丙に頭部を殴られて転倒させられ、気絶させられている。

 これらの状況からすると、甲丙間に形成された共犯関係は、甲を殴って気絶させた丙自身の行動によって一方的に解消され、共犯関係の離脱が認められるといえる。

 そして、その後の丙が乙の頭部を木刀で殴った行為は、甲の意思・関与を排除して丙のみによってなされたものと解するのが相当である。

 よって、丙が乙の頭部を木刀で殴った傷害行為につき、甲丙間で共同正犯は成立せず、同行為は丙の傷害罪の単独犯となる。

⑵ さらに、傷害罪の共同正犯が成立しないだけでなく、刑法207条同時傷害の特例を適用する必要はないという説明が考えられる。

 同時傷害の特例は、2人以上で暴行を加えて人を傷害した場合において、それぞれの暴行による傷害の軽重を知ることができず、又はその傷害を生じさせた者を知ることができないときに、暴行を加えた者全員に傷害罪の刑を科すことができるようにする規定である。

 同時傷害の特例は、検察官の犯罪事実の立証の困難を救い、被害者保護を図るために、政策的規定として設けられたものである。

 本件において、検察官は、甲と丙の両名に対し、甲丙間の共謀に基づく甲の木刀による乙の頭部への殴打行為及び丙の手拳による乙の顔面や腹部等への殴打行為につき、傷害罪の共同正犯の刑事責任を負わせることができる。

 さらに加えて、丙に対しては、丙の木刀による乙の頭部への殴打行為につき、傷害罪の単独犯の刑事責任も負わせることができる。

 よって、甲に対し、丙の木刀による乙の頭部への殴打行為の傷害罪の共同正犯の刑事責任を負わせずとも、被害者保護は十分に図られているといえ、さらに、甲は共犯から離脱していることを踏まえれば、刑法207条を適用する必要はないといえる。

設問2⑵

1 甲丙の傷害罪の共同正犯が成立し、甲は、甲の木刀による乙への殴打行為だけでなく、丙の木刀による乙への殴打行為の責任も負うため、乙の頭部裂傷の傷害結果に関する刑事責任を負うとの反論が考えられる。

⑴ 傷害罪の共犯関係の離脱について、乙への木刀による殴打行為を持ち掛けたのは甲であり、嫌がっていた丙をこれに応じさせた事情を踏まえると、甲が与えた行為と結果への因果的影響力は大きい。

 しかも、甲が最初に乙を木刀で殴打した行為が端緒となり、乙が「警察に全部ばらしますよ。」などと言ったことで、丙の暴行が過激になった経緯がある。

 そのため、甲が共同正犯の因果性を遮断し、甲に共犯関係の離脱が認められるためには、相当強い犯行継続防止措置をとる必要があるといえる。

 しかし、甲がとった措置は、丙をいさめて暴行を終了させようとしただけというものであり、この程度の犯行継続防止措置では因果性を遮断できておらず、共犯関係の離脱は認められないといえる。

 よって、丙への木刀による殴打行為までの全ての傷害行為について、甲丙に傷害罪の共同正犯が成立する。

⑵ さらに、仮に丙の木刀による殴打行為については傷害罪の共同正犯は成立しないとしても、同時傷害の特例(刑法207条)が適用されるという反論が考えられる。

 同時傷害の特例が適用される要件は、①2人以上の者による暴行、②共謀の不存在、③同一機会ないし場所的・時間的近接性、④傷害の原因をなした暴行の不特定である。

 本件は、甲丙の2名による暴行である(①充足)。

 共同正犯が成立しないとするならば、共謀は不存在である(②充足)。

 甲丙両名の乙への木刀による殴打行為は、同一機会に場所的・時間的接近性がある状況で行われている(③充足)。

 乙の頭部裂傷の傷害は甲丙のいずれの殴打行為から生じたか不明である(④充足)。

 よって、丙の木刀による殴打行為について傷害罪の共同正犯が否定される場合は、刑法207条が適用される要件を満たす。

 したがって、甲は刑法207条の適用により、乙の頭部裂傷の傷害結果に対し、傷害罪の刑事責任を負う。

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