刑法論文(11)~平成27年司法予備試験の刑法論文問題から学ぶ~
平成27年司法予備試験の刑法論文問題から学ぶ
平成27年司法予備試験の刑法論文問題の答案を作成してみました。
この論文からは以下のテーマが学べます。
2⃣ 受託収賄罪(刑法197条1項後段)、贈賄罪(刑法198条)
3⃣ 刑法総論
共謀共同正犯、刑法65条1項・2項の身分犯の共犯の解釈、幇助犯
問題
以下の事例に基づき、甲、乙、丙及び丁の罪責について論じなさい(特別法違反の点を除く。)。
1 甲は、建設業等を営むA株式会社(以下「A社」という。)の社員であり、同社の総務部長として同部を統括していた。また、甲は、総務部長として、用度品購入に充てるための現金(以下「用度品購入用現金」という。)を手提げ金庫に入れて管理しており、甲は、用度品を購入する場合に限って、その権限において、用度品購入用現金を支出することが認められていた。
乙は、A社の社員であり、同社の営業部長として同部を統括していた。また、乙は、甲の職場の先輩であり、以前営業部の部員であった頃、同じく同部員であった甲の営業成績を向上させるため、甲に客を紹介するなどして甲を助けたことがあった。甲はそのことに恩義を感じていたし、乙においても、甲が自己に恩義を感じていることを認識していた。
丙は、B市職員であり、公共工事に関して業者を選定し、B市として契約を締結する職務に従事していた。なお、甲と丙は同じ高校の同級生であり、それ以来の付き合いをしていた。
丁は、丙の妻であった。
2 乙は、1年前に営業部長に就任したが、その就任頃からA社の売上げが下降していった。乙は、某年5月28日、A社の社長室に呼び出され、社長から、「6月の営業成績が向上しなかった場合、君を降格する。」と言い渡された。
3 乙は、甲に対して、社長から言われた内容を話した上、「お前はB市職員の丙と同級生なんだろう。丙に、お礼を渡すからA社と公共工事の契約をしてほしいと頼んでくれ。お礼として渡す金は、お前が総務部長として用度品を買うために管理している現金から、用度品を購入したことにして流用してくれないか。昔は、お前を随分助けたじゃないか。」などと言った。甲は、乙に対して恩義を感じていたことから、専ら乙を助けることを目的として、自己が管理する用度品購入用現金の中から50万円を謝礼として丙に渡すことで、A社との間で公共工事の契約をしてもらえるよう丙に頼もうと決心し、乙にその旨を告げた。
4 甲は、同年6月3日、丙と会って、「今度発注予定の公共工事についてA社と契約してほしい。もし、契約を取ることができたら、そのお礼として50万円を渡したい。」などと言った。
丙は、甲の頼みを受け入れ、甲に対し、「分かった。何とかしてあげよう。」などと言った。
丙は、公共工事の受注業者としてA社を選定し、同月21日、B市としてA社との間で契約を締結した。なお、その契約の内容や締結手続については、法令上も内規上も何ら問題がなかった。
5 乙は、B市と契約することができたことによって降格を免れた。
甲は、丙に対して謝礼として50万円を渡すため、同月27日、手提げ金庫の用度品購入用現金の中から50万円を取り出して封筒に入れ、これを持って丙方を訪問した。しかし、丙は外出しており不在であったため、甲は、応対に出た丁に対し、これまでの経緯を話した上、「御主人と約束していたお礼のお金を持参しましたので、御主人にお渡しください。」と頼んだ。
丁は、外出中の丙に電話で連絡を取り、丙に対して、甲が来訪したことや契約締結の謝礼を渡そうとしていることを伝えたところ、丙は、丁に対して、「私の代わりにもらっておいてくれ。」と言った。
そこで、丁は、甲から封筒に入った50万円を受領し、これを帰宅した丙に封筒のまま渡した。
答案
第1 甲の罪責
1 丙に謝礼を渡すために、用土品購入の現金のうち50万円を金庫から持ち出した行為につき、業務上横領罪(刑法253条)が成立しないか。
⑴ 業務上横領罪は、委託信任関係に基づき、業務上、他人の物を占有する者が、委託信任関係に背く権限逸脱行為を行い、不法領得の意思をもって、その物を横領した場合に成立する。
業務上横領罪における「業務」とは、委託を受けて他人の物を管理(占有・保管)することを内容とする事務を社会生活上の地位に基づいて反復又は継続して行うことをいう。
甲は、A社において総務部長として、A社から委託を受け、用度品購入現金を手提げ金庫に入れて管理する地位にあったのであるから、甲は、社会生活上の地位に基づいて反復継続的に用度品購入現金を占有する事務を負っていたといえ、「業務」性を満たす。
⑵ 業務上横領罪の客体は、「業務上自己の占有する他人の物」である。
「占有」とは、人が財物を事実上支配し、管理する状態をいう。
「他人の物」とは、他人の所有に属するものをいう。
「業務上の占有」とは、業務上横領罪の業務を有する犯人が、その業務の遂行として、他人の物を占有することをいう。
用度品購入用現金は、A社の所有にかかる物であり、甲はこれを業務上管理していたのであるから、用度品購入用現金は、「業務上自己の占有する他人の物」に当たる。
⑶ 横領罪の保護法益は、所有権及び委託信任関係の保護にある。
そのため、横領罪における不法領得の意思は、他人の物の占有者が委託の任務に背いて、その物につき権限がないのに、所有者でなければできないような処分をする意思をいう。
用度品購入用現金は、用度品を購入する場合に限って支出することが認められていたのであり、公共工事の契約をA社と締結する見返りとしての謝礼のために支出することは、与えられた権限の範囲外である。
そして、公共事業の契約の締結は、A社の利益の側面はあるが、甲はA社のためではなく、専ら甲を助けることを目的としている。
以上からすれば、甲の行為は、A社が甲に用度品購入用現金の管理を「委託した任務に背く」ものである。
また、現金を支払うことは、本来、「所有者でなければできない処分」である。
よって、甲に不法領得の意思が認められる。
⑷ 「横領」行為とは、委託の任務に背いた権限逸脱行為であり、不法領得の意思を発現する一切の行為をいう。
「横領した」といえるためには、不法領得の意思を外部に発現する行為が行われる必要がある。
刑法の原則は、意思ではなく行為を処罰するものである。
単なる内心の意図の変化のみでは不法領得の意思の発現を把握することはできないことから、横領犯人において不法領得の意思を有するだけではなく、その意思を実現するものと認められる何らかの行為が表示される必要がある。
用度品購入用現金を手提げ金庫から持ち出せば、現金をすぐに丙に渡すことができる状態になるのだから、この時点で、A社の委託の任務に背き、A社でなければできない処分をする意思、すなわち不法領得の意思が発現したと認められるので、「横領した」といえる。
⑸ よって、業務上横領罪が成立する。
2 公共事業の受注者としてA社を選定した対価として、50万円を丁を介して丙に渡した行為につき、後述のとおり、丙に成立する受託収賄罪(刑法197条1項後段)の必要的共犯の関係に立つ贈賄罪(刑法198条)が成立する。
3 以上より、甲に、業務上横領罪及び贈賄罪が成立し、両罪は併合罪(刑法45条後段)となる。
後述のとおり、両罪は乙との共同正犯(刑法60条)となる。
第2 乙の罪責
1 業務上横領罪の甲との共同正犯が成立しないか。
⑴ 乙は業務上横領罪の実行行為を行っていないことから、共謀共同正犯の成否が問題となる。
共謀共同正犯とは、共謀はあるが、犯罪の実行行為の分担がない場合の共同正犯をいう。
共謀共同正犯が成立するには、2人以上の者が特定の犯罪を行うため、共同意思の下に一体となって、互いに他人の行為を利用し、各自の意思を実行に移すことを内容とする意思を持って謀議をなし、犯罪を実行した事実があることが必要である。
上記の各自の意思を実行に移すことを内容とする謀議に参加した事実が認められる以上、直接実行行為に関与しない者でも、他人の行為をいわば自己の手段として犯罪を行ったという意味において、共同正犯の刑責を負う。
まず、乙と甲に共謀が成立するか。
「共謀」とは、正犯意思をもって、相互的意思連絡を形成することをいう。
乙は、甲に、丙に謝礼を渡して公共事業をA社と契約してもらうことを提案し、その謝礼は用度品購入用現金を流用するよう依頼しており、甲はこれを了承している(①)。
乙は降格を免れるために契約を取る目的の下に、甲は恩義を感じている乙を助けたいという意思の下に犯行を決意しており、積極性が認められ、自己の犯罪を行う意思を有していたといえ、正犯意思も認められる(②)。
よって、乙と甲は、正犯意思をもって、相互的意思連絡を形成したことが認められ、共謀の成立が認められる。
次に、共謀に基づく甲の実行行為が認められるか。
甲は、丙に謝礼金50万円を渡すことでA社が公共工事の契約を受注させる約束を取り付け、工事を受注して契約をした後、50万円を手提げ金庫から持ち出ち出していることから、共謀に基づく実行行為が認められる。
よって、乙と甲に業務上横領罪の共同正犯の成立が認められる。
⑵ もっとも、業務上横領罪は真正身分犯であるが、非身分者である乙に業務上横領罪の共同正犯が成立するか。
ア 乙はA社の営業部長であって、甲と異なり、用度品購入用現金を管理する権限が与えられておらず、実際に管理していなかったのであるから、業務上横領罪における「業務」と「占有」の身分を欠き、非身分者である。
イ 刑法65条1項・2項の身分犯の共犯の解釈について、1項は真正身分犯の連帯的作用を規定したものであり、2項は不真正身分犯の個別作用を規定したものと解する。
1項の「身分のない者であっても、共犯とする」とは、「非身分者であっても、真正身分犯の共同正犯とする」という意味に解する。
理由は、非身分者でも、身分者を通じて真正身分犯の犯行を実行し、法益侵害を間接的に惹起できるためである。
ウ 非身分者である乙は、身分者である甲に加功して業務上横領罪を実行している。
よって、乙には、刑法65条1項の適用により、業務上横領罪の共同正犯が成立する。
エ ただし、仮に乙が「占有」の身分を有し、横領罪(刑法252条)の身分を有していた場合は、刑法65条2項が適用され、業務上横領罪と横領罪とで、業務上横領罪の身分のない乙には通常の刑、すなわち横領罪の刑が科されることになる。
にもかかわらず、本件では、乙が「占有」の身分を欠いたため、横領罪(法定刑は5年以下の拘禁刑)ではなく、刑罰が重い業務上横領罪(法定刑は10年以下の拘禁刑)の刑を科されることは均衡を欠く。
よって、この不均衡を是正するため、乙には、業務上横領罪の共同正犯が成立するが、横領罪の刑罰が科されることになる。
2 公共事業の受注者としてA社を選定した対価として、50万円を丁を介して丙に渡した行為につき、後述のとおり、甲には、丙に成立する受託収賄罪(刑法197条1項後段)の必要的共犯の関係に立つ贈賄罪(刑法198条)が成立するところ、乙に贈賄罪の甲との共同正犯が成立しないか。
上記①のとおり、丙に対し、公共事業の見返りとして謝礼金を渡すことにつき、甲乙間に共謀がある。
上記②のとおり、乙に正犯意思が認められる。
そして、甲は、共謀どおりに謝礼金を丁を介して丙に渡しているので、共謀に基づく実行行為が認められる。
よって、乙に贈賄罪の甲との共同正犯が成立する。
3 以上より、乙に、業務上横領罪及び贈賄罪の甲との各共同正犯が成立し、両罪は併合罪となる。
ただし、業務上横領罪については、刑法65条2項が適用され、横領罪の刑罰が科される。
第3 丙の罪責
1 公共事業の見返りとして、甲から50万円を受け取った点に受託収賄罪が成立しないか。
受託収賄罪は、公務員が職務に関し、職務に関して特定の行為をすることの請託を受けて、賄賂を収受、要求、約束した場合に成立する。
「賄賂」とは、公務員の職務に対する不法な報酬をいう。
50万円は、公共工事の契約締結の丙に対する謝礼金であり、不法な報酬としての利益であるから「賄賂」に当たる。
「請託」とは、公務員に対して一定の職務行為を行うよう依頼することをいう。
丙は、甲から今度発注予定の公共事業についてA社と契約してほしいと依頼され、その依頼を受けていることから「請託を受け」に当たる。
丙はB市職員として、公共事業に関して業者を選定し、契約を締結する職務に従事しており、謝礼金50万円でA社を契約相手にすることを約束し、公共工事の契約締結後、50万円を収受していることから、「公務員が職務に関し」「賄賂を収受、約束した」に当たる。
2 よって、丙に受託収賄罪が成立する。
3 なお、受託収賄罪と贈賄罪は必要的共犯の関係にある。
すなわち、受託収賄罪と贈賄罪は対向しており、受託収賄罪は成立するが、贈賄罪は成立しないということはあり得ない。
よって、丙に受託収賄罪が成立することから、対抗関係にある甲と乙の贈賄罪も成立が認められる。
第4 丁の罪責
1 丙の受託収賄罪の共同正犯又は幇助犯(刑法62条1項)が成立しないか。
⑴ まず、受託収賄罪の丙との共同正犯は成立するか。
共同正犯の処罰根拠は、正犯意思の下、相互利用補充関係に基づき、互いに物理的・心理的影響を及ぼし合い、自己の犯罪を実現することにある。
そこで、共同正犯の成立が認められるためには、①共謀(犯行の共同実行の意思の連絡)、②共同実行の事実(犯行の実行行為の分担)が必要となる。
「共謀」とは、正犯意思をもって、相互的意思連絡を形成することをいう。
丁は、甲からこれまでの経緯の説明を受け、丙のために預かる金銭が賄賂であることを理解した上で、丙から電話で「私の代わりにもらっておいてくれ。」と言われ、これを了承しているので、相互的意思連絡の形成は認められる。
そして、甲から金銭を受け取り、後ほど丙に手渡しているので、共同実行の事実は認められる。
しかし、正犯意思は認められないのではないか。
丁は、甲から突然賄賂を受け取る話を聞かされ、丙から頼まれて賄賂を預かったものであり、自己の犯罪を実現する意思で行った犯行とはいえない。
よって、正犯意思は認められない。
したがって、受託収賄罪の丙との共同正犯は成立しない。
⑵ では、丙の受託収賄罪の幇助犯は成立するか。
「幇助」とは、正犯の実行行為を容易にし、促進することをいう。
幇助犯が成立するためには、①幇助の意思があること、②幇助された者が犯罪を実行することが必要となる。
「幇助の意思」があるといえるには、自分の幇助行為により、幇助された者の犯罪の実行が容易になることを認識・容認することが必要になる。
幇助行為があったいえるためには、幇助行為が正犯の行為を物理的・心理的に容易にし、促進したと認められれば足りる。
丁には、丙が賄賂を受け取る状況にあることを認識し、不在のために甲から賄賂を受け取れない丙の代わりに賄賂を受け取ることで、丙の賄賂の収受が容易になることの認識・容認があるといえ、「幇助の意思」が認められる。
そして、帰宅した丙は、丁から賄賂を受け取っており、賄賂の収受を実行している。
丁の幇助行為は、丙が賄賂を収受することを手助けするものであり、丙の犯行を物理的に容易にし、促進するものであったと認められる。
よって、受託収賄罪の構成要件を満たす。
もっとも、受託収賄罪は公務員の身分を要する真正身分犯であるところ、丁は公務員の身分を欠くが、刑法65条1項の適用により、受託収賄罪の幇助犯の成立を認めることができる。
2 以上より、丁に受託収賄罪の幇助犯が成立する。
なお、幇助犯につき、必要的に刑が減軽される(刑法63条)。