刑法(横領罪)

横領罪(35) ~横領罪における実行行為①「横領罪が成立するためには、不法領得の意思を実現する行為が必要である」「横領行為が私法上の法律行為であるときは、その法律行為が未完成であっても横領罪は成立する」を判例で解説~

横領罪における実行行為の定義

横領罪が成立するためには、不法領得の意思を実現する行為が必要

 横領罪が成立するためには、

不法領得の意思を実現する行為

が必要になります。

 単なる内心の意図の変化のみでは不法領得の意思の発現を把握することはできず、意思ではなく行為を処罰する刑法の原則からして、その意思の徴表たる何らかの行為が行われることが必要であるので、横領行為というためには、行為者において不法領得の意思を有するだけではなく、その意思を実現するものと認められる何らかの行為が表示されなければなりません(大審院判決 昭和6年12月14日)。

 そして、不法領得の意思を外部に発現する行為は、必ずしもその物の処分のような客観的な領得行為であることを要せず、領得の意思をもってなした行為で足ります。

 この点について判示した最高裁判例があります。

最高裁判決(昭和27年10月17日)

 この判例で、裁判官は、

  • 横領罪は、自己の占有する他人の物を自己に領得する意思を外部に発現する行為があったときに成立するものである
  • そして、その不法領得の意思を発現する行為は、必ずしもその物の処分のような客観的な領得行為たることを要せず、単に領得の意思をもって為した行為たるをもって足るのである
  • 被告人は、Eから、E所有の脇差及び太刀について銃砲等所持禁止令による保管許可申請手続をすることを頼まれてこれを受け取り、博物館の蹴込みに置いて保管中、これを自分の物として、日頃交際する警察官に贈与する目的で、ことさら所定期日のまでにその手続をせず、もってほしいままに、自己の為にこれを前記場所に蔵置していたというのである
  • そして右事実によれば、被告人に不法領得の意思を表現する行為があったものと認められる

と判示しました。

横領罪の成立に係る不法領得の意思を実現する行為には、法律上の処分、事実上の処分の一切が含まれる

 不法領得の意思を実現する行為には、法律上の処分、事実上の処分の一切が含まれます。

 法律上の処分として、

などがあります。

 事実上の処分としては、

などがあります。

 そのほか、

  • 第三者に貸与する
  • 自己の所有権を主張して民事訴訟を提起し、自己の物であると主張して返還を拒否する
  • 預かっている事実を否認する

など、不法領得の意思を実現する行為の態様には特に限定はありません。

横領行為が私法上の法律行為であるときは、その法律行為が未完成であっても横領罪は成立する

 横領行為が私法上の法律行為であるときは、その法律行為が未完成である場合や、無効事由や取消事由がある場合、行為の最終目的を遂げていない場合でも、横領罪の成立は否定されないというのが基本的な考え方です。

 この点について、以下の判例があります。

大審院判決(大正7年9月25日)

 この判例で、裁判官は、

  • 自己の占有する他人の物につき、不法領得の意思を表象する行為ある以上は、横領罪を構成し、その行為が法律上所有権移転その他何ら効果を生ぜず、従って法律上所有者の権利行使に障害を与えざるも、横領罪の成立に影響を及ぼすべきものにあらず

と判示しました。

名古屋高裁判決(昭和30年8月25日)

 この判例は、保管中の他人の財物を処分した場合、その処分行為が私法上無効であるときでも横領罪の成立は否定されないことを明示しました。

 裁判官は、

  • 横領罪は、犯人が他人の所有物を保管している中に、これを自己のために処分することによって成立するのが通常であるが、この処分が私法上有効であることが横領罪の構成要件となるものではない
  • 犯人が他人の財物を自己に不正領得する意思を発現したときに横領罪が成立するものであって、財物の処分行為が不正領得の発現となるのが普通であるが、この処分が私法上有効であるか無効であるかは問わないものと解すべきである
  • 従って、犯人が不正領得の意思を発現したかどうかが横領罪の成否の鍵となるものであって、その発現の方法が私法上の法律行為であろうと然らざる場合であるとを問わないばかりでなく、私法上の法律行為としては、未完成であっても、又はその法律行為が私法上取消し得べきものであるとか、あるいは無効であっても、不正領得の意思が発現されていれば、横領罪は成立するのである
  • 原判決は、右の横領罪の構成要件を誤り、私法上、抵当権設定の効力が及ばないという一点だけで、横領罪の成立を否定している
  • 他に審理の結果、公訴事実が認められないとか、又は犯意がなかったとか、違法阻却事由があったとかで、無罪になるなら格別、右のような原判決の解釈で無罪にするのは、刑法第252条の解釈を誤ったものということができる

と判示しました。

大審院判決(明治43年9月16日)

 この判例で、裁判官は、

  • 公債証書寄託を受けたる者が、ほしいままに他人に対し、商品仕入代金の担保供することを承諾して、これを交付したるときは、即座に横領罪を構成す
  • 而して、被交付者が証券を仕入先に交付して使用の目的を遂げたるや否やは、犯罪の成立に何らの影響を及ぼさず

と判示しました。

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