経済学においては、通常、人は、確率的に有利なときだけ、リスクをとることになっています。
人が失敗のリスクをとるのは、成功の可能性が、失敗のリスクに見合うほど高いからです。
しかし、「計画の錯誤」を起こし、「楽観バイアス」に陥ると、このリスク計算を誤ります。
失敗のリスクが高く、失敗したときの損失が大きいのに、失敗のリスク・損失から目を背け、「必ずうまくできる!」と錯覚して突き進むと、絶望する結果を招きます。
「計画の錯誤」とは?
第三者が、客観的に評価すれば、成功の可能性がないと考えるような計画に対し、「この計画はうまくいく!」と妄想して邁進する状態を、計画の錯誤といいます。
計画の錯誤は、
- 計画の予想が、外部情報(統計、数値)に基づかず、内部情報(感情、頭の中で作った つじつまの合うストーリー)に基づいている
- ベストケースシナリオに非現実的なほど近い
といった場合に起こります。
「楽観バイアス」とは?
楽観バイアスとは、成功のシナリオばかりを思い描いて、ミスや計算違いの可能性を考えまいとする思考形態をいいます。
楽観バイアスに陥ると、意思決定者は、利益、コスト、成功・失敗の確率を合理的に勘案せず、非現実的な楽観主義に基づいて、決定を下すことになります。
そして、利益や恩恵を過大評価し、成功のシナリオばかりを思い描いて、ミスや計算ちがいの可能性は見落とします。
意思決定者が、明らかに無謀な挑戦に挑んでしまう理由
リスクの大きな事業・プロジェクトを前にした意思決定者が、後ろ盾なしにゴーサインを出すのは、
計画の錯誤を起こし、楽観バイアスにより、成功の確率を過度に楽観視しているからだ
ということができます。
「計画の錯誤」「楽観バイアス」に陥ると、引き返せなくなる
計画の錯誤、楽観バイアスに陥って、それなりに行動を進めてしまうと、途中で、計画が妥当でない徴候を感じても、それを無視して、惰性で前に突き進んでしまいます。
これは、これまでの努力を無駄にしたくないからです。
これまでの努力を無駄にするくらいなら、合理的に計画を立て直すための外部情報を無視する方が、はるかに楽です。
この時の心理状態は、「何が起きているのか考えたくない」という心理状態です。
これにより、「このままでは損失を被るかもしれない」と薄々感じていても、惰性で計画を進めてしまいます。
失敗を認めたくないがために、計画の中止や立て直しを行うどころか、追加投資をしてしまう場合さえあります。
「計画の錯誤」「楽観バイアス」に陥らないために
「計画の錯誤」と「楽観バイアス」に陥らないために、
- 内部情報(感情、頭の中で作った つじつまの合うストーリー)だけに依存したアプローチをしない
- 外部情報(統計、数値)に基づいたアプローチをする
- 成功のシナリオだけを思い描かない
- 計画が失敗に終わるかもしれない理由を無視せず、成功のシナリオ以外のシナリオ(成功とはいえないが許容できるシナリオ、失敗のシナリオ)も思い描いておく
- 成功のシナリオからそれたら、すぐに軌道修正する(軌道修正に費やす時間と労力は惜しまない)
- 場合によっては、損切をする心構えでいる
ことが大切になります。