損失回避性の存在
以下のような、1回だけ挑戦できるギャンブルがあったとします。
- コインの表が出たら、1万5000円をもらえる
- コインの裏が出たら、1万円を払う
このギャンブルをやるか、やならないかを決めるにあたり、
1万5000円もらえる心理的な利得
と、
1万円失う心理的な損失
とを天秤にかけることになります。
このギャンブルは、払う可能性のある金額より、もらう可能性のある金額の方が多いのだから、期待値はプラスあり、ギャンブルに乗るのは合理的な選択になります。
それでも、ほとんどの人は、このギャンブルを嫌い、断るでしょう。
このギャンブルを断る決定的な要因は、感情反応です。
具体的には、
1万円を損するかもしれない恐怖感が、1万5000円を得するかもしれない期待感よりも強くなる
ため、このギャンブルを嫌い、断ることになります。
人は、
利得よりも、損失を強く感じる
という心理傾向をもっているのです。
人の心理には、‶ 得するより損をしたくない ″ という損失回避性が存在しているのです。
(ちなみに、この心理傾向を「損失回避バイアス」といいます)
損失回避倍率
損失を利得より強く感じる人たちは、「損失回避的である」と定義されます。
みなさんの周囲にいるほとんどの人は、損失回避的だと思います。
とはいえ、損失回避的な人たちの損失回避性にも程度があります。
この損失回避性の程度を「損失回避倍率」といいます。
多くの実験の結果、人々がもつ「損失回避倍率」は、おおむね1.5~2.5であることが分かっています。
先ほどの、1回だけ挑戦できるコインのギャンブルでいうなら
- コインの表が出たら、1万5000円~2万5000円をもらえる
- コインの裏が出たら、1万円を払う
という条件であれば、ギャンブルに乗ってくる人が出てくるということです。
ちなみに、私なら、5万円・・・いや8万円もらえるならギャンブルに乗ります。
つまり、私が持っている損失回避倍率は、8倍ということになります。
ただし、お金のギャンブルの場合が、8倍ということです。
ギャンブルの内容によって、損失回避倍率は変わります。
仕事と損失回避性
損失回避性は、仕事でも機能しています。
たとえば、
- 上司に新しい仕事のやり方を提案したくない
- 部下の新しい仕事の提案を受け入れたくない
- 変えた方がいい社内規程があるけど、変えたくない
といった現状からの変化を恐れる心理は、損失回避性によるものです。
損失回避性により、
- 新しいことにチャレンジして、失敗したらどうするんだ
- 周囲から批判されたらどうするんだ
- 良い結果が出ずに、時間と労力の無駄になったらどうするんだ
といった心理が芽生えます。
仕事に限らず、
- 新しいことに挑戦できない
- 挑戦をためらう
- まずやってみることをしない
- 現状維持を続けたい
といった思考は、得の方に注意が向かず、損の方に強烈な注意が向く 損失回避性 がもたらしています。
損失回避性により、変化に伴うメリットよりも、デメリットが強く感じられ、現状維持を好む心理傾向が誘発されるのです。