刑法(総論)

共同正犯(共犯)③ ~「過失犯・不作為・身分犯による共同正犯」「共犯から離脱する方法」を解説~

 前回の記事の続きです。

過失犯の共同正犯

 共同正犯(共犯)は、通常、殺人罪や窃盗罪などの故意犯において認められるものです。

 では、業務上過失致死罪などの過失犯に対しては、共同正犯は成立し得るでしょうか?

 結論として、名古屋高等裁判所の判例(S61.9.30)において、裁判所は、過失犯における共同正犯の成立を認めています。

 判例は、被告人2名が、鉄鋼材の溶接作業中に、過失で火災を起こしたという業務上失火罪の事件です。

 この事件の裁判においては、裁判官は、

『被告人両名は、意思連絡の下に、火災発生防止対策上も相互に相手の行為を利用し補充し合うという共同実行意思の下に、共同して本件溶接作業を遂行したという業務上過失行為をした』

旨を述べ、業務上失火罪の共同正犯を認定しました。

不作為による共同正犯

 共同正犯は、不作為によっても成立します。

 たとえば、父親と母親が、自分たちの子どもを殺すことを共謀して、子どもに食事を与えずに餓死させた場合、不作為による殺人罪の共同正犯が成立します。

共犯から離脱する方法

犯行着手前に共犯から離脱する方法

 たとえば、犯人A、B、Cの3人が「あの店から宝石を盗もう」など言って共謀したとします。

 犯行に着手する直前で、犯人Cが「犯行から離脱したい」と思ったときに、犯人Cは何をすれば、共犯から離脱したと認められるでしょうか?

 このときの共犯からの離脱の方法は、判例で示されており、その方法は、

  1. 離脱者が他の共犯者に「共犯から離脱する」旨の意思表示を行う
  2. 他の共犯者が、離脱の意思表示を了承する

の2点になります(東京高等裁判所 判例 昭和25年9月14日)。

犯行着手後に共犯から離脱する方法

 犯行着手後に共犯から離脱する要件は、犯行着手前に共犯から離脱する要件よりも厳しくなります。

 犯行着手後に共犯から離脱するには、

他の共犯者が犯行を実行しないように、犯行を防止する措置を講じる

という要件が必要になります。

 たとえば、

強盗着手後に被害者に同情して、他の共犯者に現金を受領しないように言って立ち去るだけ(最高裁判所 判例 昭和24年12月17日

とか

犯人AとBが被害者に暴行を加え、暴行の途中で犯人Aが「おれ帰る」といって現場を立ち去るだけ(最高裁判所 決定 平成元年6月26日

では、共犯からの離脱は認められず、犯行全部について責任を負うことになります。

 犯行着手後は、犯行着手前の離脱のように、共犯からの離脱の意思表示をして、承諾を得るだけでは足りないのです。

身分犯による共同正犯

 犯罪には、身分犯というものがあります。

 身分犯とは、犯人に一定の身分がなければ、犯罪が成立しない犯罪をいいます。

 たとえば、政治家が賄賂を受け取ったり、賄賂の要求や約束をする罪である「収賄罪(刑法197条)」は、犯人に『公務員』という身分がなければ、犯罪が成立しない身分犯です。

 ここで疑問になるのは、公務員でない犯人が、公務員である犯人と共謀して、収賄罪を実行した場合、公務員でない犯人も、収賄罪の共同正犯で処罰できるか?という点です。

 結論として、身分のない者でも、身分のある犯人と共謀して身分犯たる犯罪を犯せば、共同正犯(共犯)として、身分のある犯人と全く同じく処罰されます。

 先ほどの収賄罪の例で考えると、公務員でない政治家秘書が、公務員である政治家と共謀して収賄罪を行った場合、公務員でない政治家秘書も、公務員である政治家と同等に、収賄罪で処罰されることになります。

 これは、刑法65条に、『犯人の身分によって構成すべき犯罪行為に加功したときは、身分のない者であっても、共犯とする』と規定されているためです。

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