刑法(事後強盗罪)

事後強盗罪(6) ~事後強盗罪が成立するためには、暴行・脅迫が窃盗の機会の継続中に行われる必要がある②「現場回帰型のケース」を判例で解説~

 前回の記事の続きです。

 今回の記事では、窃盗と暴行・脅迫の関連性の3類型のうち、②の「窃盗の犯行現場に犯人が舞い戻った場合(現場回帰型)」について説明します。

【3類型】

  1. 窃盗犯人が窃盗の現場から継続して追跡されている場合(逃走追跡型)
  2. 窃盗の犯行現場に犯人が舞い戻った場合(現場回帰型)
  3. 窃盗の犯行現場に犯人がとどまる場合(現場滞留型)

② 現場回帰型のケースの説明

 窃盗犯人が、犯行現場に舞い戻って、逮捕を免れるなどの目的で、被害者や目撃者に暴行を振るった場合の事後強盗罪の成否については、判例を追って理解することになります。

暴行・脅迫が、窃盗の機会の継続中に行われたとはいえないとして、事後強盗罪の成立が否定された判例

最高裁判決(平成16年12月10日)

 被害者宅に侵入し、現金などが入った現金約3万円入りの財布などを窃取し、侵入の数分後に玄関扉の施錠を外して戸外に出て、誰からも発見、追跡されることなく、 自転車で約1km離れた公園に向かった被告人が、再度被害者宅に盗みに入ることにして、自転車で引き返し、約1時間20分後に被害者宅玄関の扉を開けたところ、室内で家人に発見され、逮捕を免れるため、家人にポケットから取り出したナイフを示し、左右に振って近づく脅迫を行い、家人がひるんだ隙に逃走した事案で、上記脅迫は窃盗の機会の継続中に行われたものとはいえないとし、事後強盗罪の成立を否定しました。

 裁判官は、

  • 被告人は、財布等を窃取した後、だれからも発見、追跡されることなく、いったん犯行現場を離れ、ある程度の時間を過ごしており、この間に、被告人が被害者等から容易に発見されて、財物を取り返され、あるいは逮捕され得る状況はなくなったものというべきである
  • そうすると、被告人が、その後に、再度窃盗をする目的で犯行現場に戻ったとしても、その際に行われた脅迫が、窃盗の機会の継続中に行われたものということはできない

と判示しました。

 なお、この最高裁判例の原審である東京高裁判決(平成15年11月27日)は、事後強盗罪の成立を肯定しており、裁判官は、

  • 被告人は、住家に侵入して窃盗に及んだが、これにより得た現金が少ないとして、盗品をポケットに入れたまま、更に金品を窃取するため、約30分後に同じ家に引き返したものであって、被告人が引き返したのは、当初の窃盗の目的を達成するためであったとみることができる

と判示し、被告人の「当初の窃盗の目的」が、被告人が8万円の家賃に相当する現金の入手を目的としていたのに、約3万円の現金しか窃取し得なかったことを捉えて、被害者方への再度の侵入を当初の窃盗と一体をなすものと評価した上、このような被告人の主観的事情を窃盗の機会継続性判断の積極的事情として考慮し、事後強盗罪の成立を認めました。

東京高裁判決(昭和45年12月25日)

 現金などを窃取した被告人ら2名が、誰にも気づかれることなく、自動車で約1km離れた場所に行き、盗品を分けた後、約30分後に、再度被害者宅で盗みを行うため、被害者宅に再び侵入した時点(窃盗未着手)で、家人に気づかれ、家人に対し「騒ぐと殺すぞ」などと申し向けた上、被害者宅から逃走した事案で、裁判官は、

  • 脅迫と最初の窃盗との間には、犯行現場から誰にも発見されることなく立ち去り、贓品(盗品)を処分したことなど重要な事実が介在し、とうてい最初の窃盗の機会継続中になされた脅迫と認めるに由ない

と判示し、事後強盗罪の成立を否定し、窃盗罪と脅迫罪の併合罪を認定しました。

東京高裁判決(平成17年8月16日)

 被告人が、被害者宅で現金在中の手提げバッグを窃取し、誰からも追跡されることなく東側に隣接する被告人宅に戻ったが、被告人宅において、約10分~15分間逡巡するうち、被告人による窃取の際、在宅していた被害者に犯行を目撃されたと考え、罪跡隠滅のため、被害者を殺害するほかないと決意し、再度、被害者宅に戻り、被害者を殺害した事案です。

 裁判官は、

  • 被告人は、手提げバッグを窃取した後、誰からも追跡されずに自宅に戻ったのであり、その間、警察に通報されて警察官が出動するといった事態もなく、のみならず、盗品を自宅内に置いた上で、被害者が在宅する被害者方に赴いたことも明らかである
  • そうしてみると、被告人は、被害者側の支配領域から完全に離脱したというべきであるから、被害者らから容易に発見され、財物を取り返され、あるいは逮捕され得る状況がなくなったと認めるのが相当である
  • 本件殺害は、窃盗の機会の継続中に行われたものといらことはできない

として、事後強盗罪(事後強盗殺人)の成立を否定し、窃盗罪と殺人罪の併合罪が成立するとしました。

暴行・脅迫が、窃盗の機会の継続中に行われたとして、事後強盗罪の成立を認めた判例

仙台高裁秋田支部判決(昭和33年4月23日)

 工場内で鉄製品等を盗んだ被告人らが、盗品をいったん侵入口から運び出した後、用意したリヤカーが破損したため、その約25~35分後に、約500メートル離れた民家から別のリヤカーを盗んだ上、現場に戻り、これに盗品を積み替えて運搬する途中、守衛に発見されて追跡され、逮捕を免れ罪跡を隠滅するため、守衛に暴行を加えて傷害を負わせた事案です。

 裁判官は、

  • 再び窃取した盗品を運搬のため現場に立ち戻っている以上、この事実は未だもって窃盗の現場を離脱した行為と解することはできない
  • 窃盗犯人が、犯行の現場より盗品を運搬に及んだ直後、監視の守衛に発見せられて追跡尾行にあい、これを恐れ、警戒しつつ逃走の途中、同人に対し、逮捕を免れ罪跡の隠滅等を計るべく暴行を加えた場合は、これを窃盗の機会継続中における暴行と認定するのが相当である

と判示し、窃盗の機会継続性を肯定し、事後強盗罪の成立を前提に強盗致傷罪の成立を認めました。

東京高裁判決(平成17年3月3日)

 被告人が、金品窃取の目的で家屋に侵入し、金品を窃取した後、一旦家屋内から外に出たものの、再び家屋内に侵入したところ、家人に発見されたため、ドライバーを振り回し、家人に傷害を負わせた事案です。

 裁判官は、

  • 被告人が家人に発見され追跡を受けた場所は、当初の窃盗を行った同じ場所であり、被告人が窃盗後、犯行現場から最も離れた地点が被害者方敷地付近であって、被害者のいわば支配が及ぶ区域内にあると認められる
  • そして、被告人はその地点に窃取した財物を置き、再び戻って被害者方に侵入したことも明らかである
  • 以上の事実関係によれば、被告人には、窃盗敢行後も犯行現場付近にとどまり、家人に容易に発見されて、財物を取り返され、あるいは逮捕され得る状況が継続していたと認めるのが相当であるから、上記暴行は、窃盗の機会の継続中に行われたというべきである

と判示し、窃盗の機会継続性を肯定し、事後強盗罪の成立を前提に強盗致傷罪の成立を認めました。

福岡高裁判決(昭和42年6月22日)

 被告人ら2名が、金員を窃取後、自動車で逃走したが、その犯行直後にこれに気づいた被害者らが、その自動車を追跡したものの、いったん被告人らを見失ったが、被告人らも道に迷い、偶然被害現場に戻ったところを被害者に発見され、再度追跡された際、被害者1名を刺身包丁で刺し殺した事案です。

 裁判官は、

  • 刑法第238条にいう「窃盗財物を得て」とは、当該犯人が自ら現に窃取した財物を所持していることを要せず、共にその場にある共犯者においてこれを所持している場合をも指すものである
  • また、強盗罪が成立するためには、暴行脅迫が窃盗行為と時間的、場所的に接着し、窃盗行為後間もない機会において行われ、しかも被害者側の者によって現場から追跡態勢がとられ、これらの者によって財物が取り返されるとか、犯人が逮捕されるとかの可能性を存している状況においてなされることを要するものと解すべきである
  • 本件において、被告人は共犯者Nと共謀の上、現金1000円を窃取し、現金そのものはNにおいて所持し、被告人と同行していた上、T自動車専門学校において現金1000円を窃取し、自動車で逃走したので、T校教官U、T校自動車整備士Mは、直ちにこれを追ったが発見することができなかったため、いったんはT校に戻ったものの、程なく被告人が再び自動車学校前道路に来たため、Uらに気付かれ、再度、自動車で追跡され、R駅前で追いつかれ、ここにおいて逮捕を免れるため、Uらに暴行脅迫を加えているのであって、時間的、場所的にも窃盗行為と極めて接着し、被害者側の追跡態勢下において行われたものであると認められるので、強盗罪に該当することは明白である
  • そして、右暴行の結果、Uを死に致しているのであるから、被告人の所為が強盗致死罪に該当するものと認めざるをえない

と判示し、窃盗の機会継続性を肯定し、事後強盗罪の成立を前提に強盗致死罪の成立を認めました。

 なお、この判例の事案は、被告人らが現場に回帰した事案ではありますが、逃走追跡型として、窃盗の機会継続性が検討されるべき事案でもあります。

次回の記事に続く

 次回の記事では、窃盗と暴行・脅迫の関連性の3類型のうち、③の「窃盗の犯行現場に犯人がとどまる場合(現場滞留型)」について説明します。

【3類型】

  1. 窃盗犯人が窃盗の現場から継続して追跡されている場合(逃走追跡型)
  2. 窃盗の犯行現場に犯人が舞い戻った場合(現場回帰型)
  3. 窃盗の犯行現場に犯人がとどまる場合(現場滞留型)

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