刑事訴訟法(公判)

証拠収集等への協力及び訴追に関する合意制度とは?

証拠収集等への協力及び訴追に関する合意制度とは?

 証拠収集等への協力及び訴追に関する合意制度(合意制度)とは、特定の財政経済犯罪と薬物銃器犯罪について、検察官と被疑者・被告人が、弁護人の同意がある場合に、

  • 被疑者・被告人が、共犯者等の他人の刑事事件の解明に資する供述をしたり、証拠物を提出するなどの協力行為を行う
  • 検察官が、被疑者・被告人の事件において、その協力行為を被疑者・被告人に有利に考慮して、不起訴にしたり、より軽い罪名で起訴したり、一定の軽い求刑をするなどの処分の軽減等を行う

ことを内容とする合意ができる制度です(刑訴法350条の2~350条の15)。

 合意制度においては、合意をした被疑者・被告人が虚偽の供述をして第三者を巻き込む事態が生じないようにするため、

などの規定が置かれています。

合意制度の創設の趣旨

 組織的な犯罪などにおいて、組織のトップ(首謀者)の関与状況等を含めた事案の解明を図るためには、組織の末端の者など組織内部の者から供述を得ることが必要不可欠な場合が多いです。

 しかし、組織の末端の者が、自身も処罰されるかもしれないのに、犯罪行為の実態を素直に供述し、組織のトップを売るようなことをすることは期待できません。

 そこで、手続の適正を担保しつつ、組織的な犯罪などの事案を解明するため、組織の末端の者などから供述や証拠を得ることを可能にする新たな証拠収集方法として、合意制度が創設されました。

合意制度の対象犯罪

 合意制度の対象犯罪は、

刑訴法350条の2第2項に規定する財政経済犯罪と薬物銃器犯罪(死刑又は無期の懲役若しくは禁錮に当たるものは除外)

です。

 「被疑者・被告人の事件」と「他人の刑事事件」の双方が対象犯罪でなければなりません。

 「被疑者・被告人の事件」と「他人の刑事事件」の罪名が異なっていたり、事実関係に重なり合いがなくても差し支えないとされます。

合意の主体

 合意の主体は、

検察官及び被疑者・被告人

です(刑訴法350の2第1項)。

 弁護人は、合意の内容を履行する立場にないため、合意の主体とはされていません。

 ただし、合意が成立するためには弁護人の同意が必要となります(刑訴法350の3第1項)。

 弁護人の同意が必要とされるのは、検察官と被疑者・被告人の合意が適正公平に行われることを確保し、被疑者・被告人の利益を保護するためです。

合意の内容

 合意制度の合意の内容は

1⃣ 被疑者・被告人による捜査機関への協力行為

2⃣ 検察官による被疑者・被告人に対する刑事処分の軽減等

3⃣ 上記1⃣、2⃣の合意の目的を達するための必要な事項

に分けられます。

 1⃣~3⃣を以下で詳しく説明します。

1⃣ 被疑者・被告人による捜査機関への協力行為

 被疑者・被告人による捜査機関への協力行為として、合意の内容とできるものは以下①~③のものです。

 『他人』の刑事事件について、

  1. 検察官、検察事務官又は司法警察職員の取調べ(刑訴法198条1項223条1項)に際して真実の供述をすること
  2. 証人として尋問を受ける場合において、真実の供述をすること(自己の記憶に従った供述をすること)
  3. 検察官、検察事務官又は司法警察職員による証拠の収集に関し、証拠の提出その他の必要な協力をすること

 上記①~③を一つのみ、あるいは同時に二つ以上を合意内容とすることができます(刑訴法350の2条1項1号)。

 他人の刑事事件の『他人』とは、合意の主体である被疑者・被告人以外の者を意味します。

 協力行為は、他人の刑事事件の解明に資するものでなければなりませんが、同時に合意の主体である被疑者・被告人自身の事件の解明に資するものであっても差し支えないとされます。

2⃣ 検察官による被疑者・被告人に対する刑事処分の軽減等

 検察官による被疑者・被告人に対する刑事処分の軽減等として合意の内容とすることができるのは、以下の①~⑦のものです。

 被疑者・被告人の事件について、

  1. 被疑者・被告人の事件について、公訴を提起しないこと
  2. 公訴を取り消すこと
  3. 特定の訴因・罰条(刑罰の内容を定めた法律の条文)により公訴を提起し、又は維持すること
  4. 特定の訴因・罰条の追加若しくは撤回又は特定の訴因・罰条への変更を請求すること
  5. 論告刑訴法293条1項)において、被告人に特定の刑を科すべき旨の意見を陳述すること
  6. 即決裁判手続の申立てをすること
  7. 略式裁判※の請求をすること

 上記①~⑥を一つのみ、あるいは同時に二つ以上を合意内容とすることができます(刑訴法350の2条1項2号)。

※ 略式裁判とは、検察官の請求により、簡易裁判所の管轄に属する(事案が明白で簡易な事件)100万円以下の罰金又は科料に相当する事件について、被疑者に異議のない場合、正式裁判によらないで、検察官の提出した書面により審査する裁判手続です。
 簡易裁判所において、略式命令が発せられた後、略式命令を受けた者(被告人)は、罰金又は科料を納付して手続を終わらせるか、不服がある場合には、正式裁判を申し立てる(略式命令を受け取ってから14日間以内)ことができます。

3⃣ 上記1⃣、2⃣の合意の目的を達するための必要な事項

 合意には、

1⃣ 被疑者・被告人による捜査機関への協力行為

2⃣ 検察官による被疑者・被告人に対する刑事処分の軽減等

に付随する事項その他の合意の目的を達するため必要な事項を合意の内容に含めることができます(刑訴法350の2条1項3号)。

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